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久しぶりの高原

「ねぇなんか泥臭くない?」


「あれだね~。プレイヤーじゃなくとも、基本冒険する人が多いからにゃ~。そりゃ臭いかもね~」


 鼻を摘まんで手を振って牽制してくるシェーナに、不適な笑みを浮かべたピジョンが対抗する。


「そうかー。そうだよねー。けど汗じゃなくて、こう人の弱点とか情報とか、迷惑なのにもかかわらず、地べたをはい回る泥臭い鳥公の臭いがするんだよねー」


「にゃはは~、警邏兵の人達は悪く言うのは見逃せないにゃ~。それが仕事なんだから」


「誰も警邏兵なんて言ってないでしょー。思い当たる節があるから責任転換しているのかなー?」


「責任転換! いやぁ~酷い人もいたもんだにゃ~。という事はあれかな? 魔物の弱点を嗅ぎまわり、平和に生活をしているだけなのにもかかわらず生活圏を脅かしてくる冒険者達の事を言っているのかにゃ~? シェーナちゃんってばひっどいにゃ~」


(……何この空気!)


 互いにどこか挑発めいた言葉を口にして、不気味に笑いあう二人。しかしこちらにまで漂ってくる雰囲気は極寒。南極を幻想する空気に、フィートとインはそれぞれ仲間を抱きしめ震えた。

 分かってはいたのだ。ピジョンが来ればどうなるのか。フィールやシェーナの雰囲気、今まで見てきたみんなの反応。どう考えても、こうなるのは分かっていたのだ。

 とはいえ時間を削ってまで来てくれた友人に、今日は別の人と遊ぶから無理、なんて言うのは人としてどうだろうか。とてもじゃないが、インには不可能であった。


「その、フィートちゃんのウル。どこまで強くなったの?」


 空気を換えようとしたインの努力は、怯え気味にフィートがウルの背中に体を埋めてしまうという形で失敗した。この様子では答えなんて返ってこないだろう。


(どうすればいいの!?)


 前方の冷戦、後方の人見知り。どこか孤立している気分になったインの両肩に手が置かれた。


「そんなに興味があるなら、早くハルトの妹ちゃん二号に見せて貰えば?」


「さっきからシェーナちゃんは人の名前を覚えられないようだにゃ~? インちゃんにはインちゃんって名前があるんだから、呼んであげないのは失礼だよ~? 槍使いさん?」


 混ざれない。この剣幕にどう踏み込めばいいのか。下手に足を踏み入れて、蛇の尾を踏もうものなら倍になって帰ってくるだろう。それはインとしても避けたい事態だ。

 こんな時どうすれば良いのか。何をすれば正解なのか。どうにかこうにか頭を唸らせる。


(ピジョンちゃんには悪いけど)


 シェーナを止める方法は分からない。けれどピジョンの方は何とかなる。理不尽ではあるが何時ものようにすれば、きっと大丈夫なはずだ。ウデの輝石を手にしていざ出そうとする直前、事態は勝手に鎮火していった。


「まっ、この辺りにしておこうかにゃ~」


「あたしとした事が、大人げなかったかなー。フィート! 挨拶はきちんと。友達づくりの第一歩だよ。ほらっ、頑張って!」


 冷たい空気はどこへやら。顔を戻したシェーナが発破をかけるように手を叩いた。

 どうやら喧嘩しながらも聞いていたらしい。ウルを壁にしながらも、フィートは顔を覗かせた。裾を掴み、口を半分ほど開く。


「う、うん。もう……、進化したよ」


 直後、今度はインの方が氷漬けになる。頭の中に立てられた、前提という名の塔がガラガラと音を鳴らして崩れ落ちていく。数秒の沈黙。数秒の遅れと共に、「ええぇ!?」と間抜けな声が飛び出てきた。

 今まで何度も強敵と巡り会ってきて、進化できたのは未だ二回。

 何回も死地を経験してきた割には、少なすぎるなぁとは感じていたが、まさかそんな一日や二日で進化できるなんて聞いてないと、インは情報通であるピジョンに視線で訴える。


「虫をテイムする人はあんまりいないし、インちゃんほど情熱を注ぐ人は居なかったからね~。ちなみに普通の魔物だったら、もう三回くらい進化してもおかしくないほどの冒険はしているにゃ~」


 デメリットしかないアビリティに癖が強すぎるメンツ。基本皆特異体質だからこそ、興味を惹かれるんだよね~とピジョンは語る。インの口はポカーンと開いたまま閉じない。

 そんな彼女の反応からか、シェーナは呆れた様子で言う。


「友人すら実験の対象にするってマジ?」


「そんな向上心の塊だにゃんて、照れるにゃ~」


「こんなのの友人やってるってマジ?」


 妹の名前すら覚えられない幼なじみよりかはましだと、口喧嘩が再開する。さっきと違う点をあげれば、インが機能しないことだろうか。

 どこかカオスと化した臨時チームではあったが、高原へ出て来る頃にはインも再起動を果たし、収まっていた。

 緑の大地に蜃気楼の山。ミミをテイムしに来た時と変わらない景色が広がっていた。

 だが流れてくる空気は、どこか湿っぽい。雨粒は輝いているが、晴天よろしく元気な様子。近頃に雨でも降ったのだろうか。


「うげぇ。ホント最近ワームをテイムしようとする奴らばっか」


 気持ち悪いったらありゃしないと、嫌悪感丸出しで言葉にするシェーナ。

 聞くところによれば、ここ最近ワームが乱獲される事件が発生しているらしい。何でもと口にしようとしたところでシェーナは口を噤んだ。


「ああ~。あれは味わってみないと分からない恐怖だにゃ~。目印に使う分には良いんだけどに~」


 テンション低めにピジョンもシェーナに同意するような言葉を口にする。どこか尻目気味で、視線はインへと投げかけられている。


「ピジョンちゃん。どういう事?」


「そうだにゃ~。自分の頭に、金髪碧眼エルフ、二匹目、主な使用方法、とかで検索すれば出て来るんじゃないかにゃ~?」


「本当にどういうこと!?」


 分からなければ良いんだにゃ~と、ピジョンも何のことだか話してくれない。

 それどころか彼女は、さっきまであんなに険悪なムードだったシェーナと、何故か会話に花が咲いているではないか。きっとどこかの部分で、共感出来てしまったのだろう。


(ワームちゃん達に日の目……じゃやられちゃうから、人気が出てきたって思えばいいのかな?)


 二人の会話は聞こえてくるが、意味は全くといっていいほど分からない。

 隣を見れば、フィートも全く同じような状況らしい。

 魔物が出るためか、ウルを抱きしめていない。先端に輪っかがいくつも付けられた杖を両手に、二人の後ろを着いていっている。

 さっきとは全く違い、今度はこっちの方が寒々しい雰囲気だ。勇気を振りぼってインが声をかけても、フィートは一言二言返事で終わらせてしまう。

 見かねたのかシェーナが助け舟を出してくれた。


「ハルトの妹ちゃん二号は、なんで悪魔霊の魔石なんて頼まれたのかな?」


「えっと……家を買うためにフォンが必要でして」


「そうじゃないんだよね。あいつら一体一体はそこまで強くないけど、ほらっ魔石って出にくいじゃん?」


 シェーナが口にした疑問ではあるが、理由は単純明快であった。


「ああそれ~? インちゃんは運に極ぶりしているからにゃ~。招き猫ってあるでしょ?」


「私はお守り代わりだったの!?」


「……フフッ」


 小さな笑い声に誰もが目を移動させると、フィートが小さく口を開けていた。

 ワームがテイムされるようになったなんて、一体なにエルフのせいなんだ! (迫真)

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