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久しぶりのエルミナ

 精霊樹に礼を告げ、その場から歩き出したイン一行。

 酒虫から始まり、精霊というファンタジー定番の存在にしれたおかげか、ピジョンは腕を大上段に振っている。

 男性も酒虫が手に入ったおかげか、上機嫌な様子だ。来た時と比べて動きに切れが増しており、道中の魔物も家臣にやらせることなく自らが赴いていた。


(精霊樹の加護? 力? 恐らく次の進化で何か変わるのかな?)


 そんな中、インはといえばひとり、木霊青翁之命から貰った力について考察をしていた。

 試練とは言っていたが、何をすればいいのか分からない。改めてステータスを開いてみるも、特に変化なしだ。数字は一ミリたりと動いていない。


(でも話しからしてみても、力を上手く扱えてこそだっけ? 加護の効果が分からないんじゃ、試し様がないよ。アンちゃんからすれば、HP1でずっと戦っている現状がもうピジョンちゃんの言う試練のようだし)


 精霊樹からしてみれば、これ以上の試練が待ち受けているというのだろうか。

 ピジョンの雰囲気からして、今回の件は初めての事なのだろう。インが「うーん」と頭を悩ませていると、ピジョンが横から勝手に覗き込んでくる。


「ひっくいステータスだにゃ~」


「そうかな?」


 思えば自分以外のステータスは、虫たちくらいしか見たことが無い。それどころか見せてもらった事すらなかった。何も知らないインが尋ねると、代わりに仁之介が賛同するかのように頷いた。


「そうよな。儂も常々思うとった。イン、お前は弱すぎる」


「そ、そんなにですか!?」


 むしろ今までよくその低LV帯でここまでこれたものだと、仁之介から説教を受けている内に東風谷の検問が見えてきた。それを目にした仁之介は、「さて、ここらが潮時か」とイン達へと向き直り、「此度は良くやった」と続けた。


「ということはあれかにゃ~。ここから終盤の!」


「そうだ。褒美を取らせよう」


 そう言うと仁之介は袖の下から、見るだけでもかなりの量だと分かるフォンを取り出した。全てを合計したとしても家にはたどり着けないだろうが、それでもかなりの額だ。一気に楽になるのは間違いないといえる。

 ひとり「袖の下から出るって考えると、余計にあれだよね~」と呟いている鳥がいるが。


「えっ! こんなにも。流石に悪いですよ」


 今回のクエストは確かにいろいろと逸れたような気もするが、それでもインからしても加護が貰えただけかなりの収穫だ。どことなく残念そうな表情をしたピジョンを置いて、流石にそんなに多くは貰えないと、両手と首を振るイン。


「そうか。しかし儂も老齢とはいえ武士。恩義は返すのが道理だ。困ったことがあるなら、いつでも言うがよいぞ。流石に無理な物もあるがな」


 見事な高笑いを決めた仁之介。報酬を断ったのがそんなにも珍しかったからなのだろうか。そんな彼に水を差すものが一人。


「ちょーっといいか――」


 ピジョンだ。

 ファイの時のようにきっとまた何か不正な取引か、それとも弱みを握って揺するつもりなのだろうか。

 どちらにせよ碌なことにならなさそうな予感を感じ取ったインは、先にピジョンの腕をグイっと引っ張る。彼女の耳元で小さく、変なことはしない様に忠告を入れぱっと放した。


「にゃはは、変な事ではないから安心してにゃ~。これは正当な取引だから~」


 そう答えたピジョンは、それでもインを信用させるためかこの場で、仁之介に対して取引を持ち掛けることにしたようだ。

 その内容というのが、酒虫で得た利益の1割、なんなら1%でもいいから収めてはくれないだろうかといったものだ。

 今後の事を考えれば、ゲーム内とはいえ酒虫はかなりの利益を生むだろう。NPCはそれぞれ、何かしら思考して普段を過ごしている。何もプレイヤーが開く店で買い物をするのは、プレイヤーだけではないのだ。

 五感全てを感じ取れるこの世界。NPCはもちろん、プレイヤーの中にもこの世界じゃ酔っても状態異常判定で治せるだの、肝臓を傷めることが無いだの、脂質や糖質をとっても太らないといった関係で、嗜好品を買う者も少なくない。


 そして今回の、上質な酒を造りたい放題の酒虫だ。莫大な利益を生むこととなるそれは、元々は仁之介の中にいたとはいえ、見つけ出して取り出したのはイン達とピジョンだ。その意味を込めて、取引を持ち掛ける。


 どうだろうかと不敵な笑みを浮かべるピジョン。


「ふむ、そうだな。だが忍び失格、お前は――」


「あくまでインちゃんの付き添いでしかない。そう、言いたいのかにゃ~?」


 仁之介の言葉を先読みするかのように、ピジョンは言葉を口にする。

 家臣たちがそれぞれ刀の柄へと手をやった。インは慌てていつでも臨戦できるように、アンを頭の上に乗っけた。

 微妙に間が空く時間。緊張のあまりインがごくりと喉を鳴らした時、仁之介は腹を抱えて大爆笑し始めた。


「ハハハ! 面白いぞ! 良いだろう。して、どちらに入れればよい」


「じゃあインちゃんでよろ~」


「いやいやいやいや、おかしいよねピジョンちゃん! それじゃあ!」


 物凄い軽くインへとフォンを入れるよう要求しているピジョン。彼女にいったい何の理があるというのだろうか。怪訝な表情でインがピジョンを見つめれば、朗らかに笑われて躱された。


「それじゃあもう良いな。イン、困ったことがあればいつでも協力するのを約束しよう。それと、少しは修行をしておけ。もう一度言っておくが、今のお前は弱すぎる」


 ――そして、ピジョンは食えない奴だから注意しろ。


 それだけ告げると、仁之介は家臣を引きつれ東風谷へと戻っていくのだった。


 *  *  *


 東風谷での長い長いクエストを終え、一度エルミナへと戻ってきたイン達。精霊について詳しい事を調べたいと、ピジョンは図書館に行ってしまったのと、ミミはスキル『乾燥肌』の効果、太陽光でダメージを受けてしまう為、現在ひとりと一匹だ。


(さてと、ひとまずマーロンさんの所に行こうかな。LVを上げる場所とか知っていそうだし。それにもう一匹、新しく仲間にできるようになったからね!)


 思えば竜との戦いやら熊やらと戦っているのだから、『調教』があがるのは当然ともいえる。むしろこれでまだ仲間を増やせないとなればそれは、もう色々とテイマーが不遇すぎるといっても良いくらいだ。

 加えて、インの現在の虫たちといえば、あまりにも特徴が尖りすぎている。ここいらで新しく仲間を増やすのは、最善の策と言えるだろう。

 そう言った意味も込めて、情報収集のためにインはマーロンのやっている鍛冶屋、星の種へと向かうことにした。


 ガランと心地の良いベルの音。何日か前に聞いたばかりだというのに、なんでか懐かしい。そんな気分に浸りつつ、インは店内に入る。


(話し合いをしているのかな?)


 インより先に先客がいたようだ。カウンターを跨ぎ、三人の人物と何かを話し合っているマーロンの姿。声からして、ひとりは男性だろうか。もう二人は声が高いが、その内の片方は身長が低い為どっちかは分からない。


「いらっしゃい。ってあら、インちゃん」


「イン?」


 マーロンがインの名前を呼ぶと、三人の内ひとりが反応した。その声は、インにとってなじみ深い。もしかしてとインが考える間もなく、ゆっくりと男の一人が確かめるように振り向いた。

 あっ、久しぶりに普通のテイマー作品に戻ってきたような気がする。


 運にしかふらない主。HPが1しかないアリ。日差しの下に出ると、100秒以内に倒れるミミズ。うわぁ(引き)

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