石碑と休憩
さらに湿地帯を突き進んでいく一行。インが調子を取り戻してからは、アンとミミの士気は急上昇。順調を重ねてたどり着いたのは、不自然に木々がどいて石碑がポツンと置かれてある場所。
何一つ変哲の無い石碑には、何か文字が刻まれている。木々なく天から陽光が差し込み、幾度となくあった明らか何かありますよと雰囲気は、一切隠し通せていない。
「ここが奥地なの?」
「いんにゃ、違うよ~。もう少し先かな~」
こういう物には即で飛びつきそうなものだが、目もくれないで先を急ごうとするピジョン。
「読まないの?」
「もう既に読んだことあるからに~。そこに書かれているのを要約すると、特別な精霊を連れてこいだから~」
こともなげにそう語るピジョン。インもチラッと石碑に目を向けてみれば、日本語ではある物の小難しすぎて何が何だか分からない文字の羅列。だが確かに、司る物質、上位精霊、道は開かれん、などがうっすらと読み取れる。
(司る物質、上位精霊……酒虫、だからこのクエストなんだ)
「休まないの?」
「インちゃん疲れちゃってた~? ごめんね~、気づかなかった。少し休んでいこうか~」
「ううん、大丈夫だよ! 行こ!」
慌てて取り繕いインが足を踏み出そうとすると、ピジョンはその場で濡れない程度に木に寄り掛かる。
「じゃあ私は休もうかな~。時期に追いつくから、さっき行っててよ~」
「……いいの?」
「いいのいいの、急いては事を仕損じる。ほらインちゃんも」
警戒を忘れたようにピジョンは忍び刀を帯刀すると、木へと完全に身を預けた。じゃあ私もとインがミミに指示を出して体を貸してもらいしゃがみ込む。っと同時に、歩き続けたことで筋肉が縮小する感覚が訴えてくる。
(思ってたより、疲れてたんだ私)
インが軽く足や腕を伸ばしてストレッチをしていると、ピジョンも同じように腕を伸ばしつつ尋ねてきた。
「どうしてインちゃんは虫にハマったのかにゃ~? もしくは、どうして何の虫から入ったのかにゃ~? いい機会だから聞いておこうかなって」
(どうして虫にハマったのか、かぁ……)
「あっ、言いたくならいいよ~。言わなくても~」
うーんとインは一度間をおいて、懐かしむように口にする。
「実は私、最初は虫が嫌いだったんだ」
「誰でもきっかけはあるものだよ~。それにインちゃんが元々虫嫌い、面白そうな内容だにゃ~」
「そんなに面白い物じゃないと思うけどね。子どもの頃って、よく虫を殺すよね。アリちゃんやバッタちゃんを石で潰して、ミミズちゃんを日光に晒して、ダンゴムシちゃんを枝で突くのは……少し違うね。他にはセミちゃんやカブトちゃんの飼育に飽きて、放置何て事例もあるかな」
インはびくりと体を動かしたミミとアンの背中を、安心させるように撫でつけ言葉を続ける。
「大抵の人はそうだよね。で、ある時思ったんだ。虫にも命はあるし、必死に生きていることが。あっ、でももちろん害虫とかいるのも分かるよ。益虫、害虫、不快害虫。でもそれって、人間と同じなんだよね」
益虫は人に利益をもたらす虫。害虫は人に害を与える虫。不快害虫は人を不快にさせるような見た目をしているだけ。人間と虫、一体どう違うというのだろうか。分類が違うだけでほとんど同じ。
可愛い、カッコいいといわれ触れ合う動物的存在が、インにとっては虫であっただけ。ネコやウサギを持ち上げる感覚のように、アンを頭の上に乗せているだけなのだ。
「思考はありきたりだね。正直つまらなかったよ」
「あっはは、誰とも被らない思考は持ってないよ。それで私は、アリちゃんとか様々な虫の動画を見始めたんだ。そしたら! みんなそれぞれの思考を持っていて! 人間みたいなのに人間とは違う特徴があるんだよ! 凄いよね! 動物にも確かに言えるけど、それよりもあの体でミルワームちゃんを持ち上げるアリちゃん! どこにあんな力があるんだろうね! 面白いよね!」
近くにいたアンを持ち上げ、インは息を荒く親愛の頬ずりをする。すっかりいつもの調子を取り戻したようだ。あまりの過剰さに、うざったそうにアンが身を放そうとするが、がっしりと掴んで離さない。
するとミミが触手を伸ばしてくる。その光景はどこか、自分もとねだる様であった。インは頭の上にアンを置き、同じようにミミの体も全身で撫でつける。
「ふ~ん。世間一般帯でいう虫好きとは入り方が違うけど、好きであるのは変わりないって事かな~。ミミズが平気な虫好きもそうはいないと思うし、誰だってカッコいい方に目を向けるのは必然だからね~」
「そうなんだよ! 私がこう言うと、何故か不信がる人とか、ファイからはそれよりネコちゃん動画見よって言われるんだよ! 虫ちゃん達はこんなに可愛いのに!」
「まぁそれだけの理由で興奮していると考えると、確かに怪しさマックスなのは確かだけどに~っと、まぁまぁ面白かったかな~。それより、魔女ちゃんのにゃんこ動画の件について詳しく」
きらりと怪しく目を光らせたピジョン。このネタでファイを揺する気満々である。そんな事を露知らず、インはせっかくだからとファイとハルト、好きな虫について饒舌に語っていく。時々相槌を打ち面白がるピジョン。そうして二人と二匹は、十分な休憩を取り終えるのであった。
将来の夢は虫博士。虫に人生を蝕まれた彼は、突如送られてきた謎のVRMMOを起動する。自然、生態、内臓まで作りこまれているのではやるしかないよね。研究、バトル、狂気、他プレイヤーと一線を画した虫好きの物語……。
Miniature・Garden・Story 〜虫好きの少年は如何に戦場で嗤うか〜
宣伝許可はちゃんと取りました。虫かファンタジーが好きなら楽しめる! どちらかといえば紹介?




