イベント後のログイン
読者がどう思うのか分からなかったので、体育の閑話は活動報告にて投稿しました。
ゲーム世界に再びログインしたイン。彼女が現れると同時に姿を現した王女アリであるアンと、ミミズ型ワームであるミミ。二匹とも嬉しそうにインへと飛び掛かる。
「アンちゃんミミちゃん! 今日もよろしくね!」
インが少し興奮気味に二匹を平等に撫でて挨拶を交わすと、途端にすぐ近くから何かに怯えるかのような悲鳴。つられるがままにインが振り向けば、判断はつかないが装備に身を固めた女性は何故かこちら、具体的に言えばミミに指を突き付けている。
(どうしたんだろう?)
瞳は真っ直ぐとミミを直視している。頭を捻り考えだした末、新しいスキルやアビリティ効果できっと彼女にしか見えていない何かがいるのだろう。そう結論付けたインは、ひとまずイベントを乗り越えたのだからとステータスを開いてみる。
種族 エルフ
名前:イン LV19
HP160/160 MP57/232ー175
筋力1
防御1
速度3
魔力3
運30
アビリティ 『調教LV17』『調合LV17』『自由枠』『指示LV8』『料理LV9』『採取LV6』
SP16
(三匹目は遠いなぁー)
調教はまだまだ20行かず。がっくりと肩を落としたインは、ステータスをポチポチと操作してSPを全て運に割り振った。これで運の数値は38へと上昇する。とはいえ、この運のステータスが高いと何が起こるのかまでは分からない。現状分かるのは、テイムできる確率が上がっている位だ。
(っと、この辺にして)
今日はピジョンと遊ぶために、マーロンの店、星の種に集合する手はずとなっている。場所はエルミナの北東方面にある、商店地区だ。インはアンを人形のように抱き上げて撫で、ミミにポーションをかけつつマーロンの店に足を運んだ。
店の扉を開けると、三日ぶりほどとは思えないほどに懐かしいベルの音色。洗礼とばかりに漂ってくる炭のにおい。普段は奥の工房にいる事が多いはずのマーロンだが、今日はどうやら先客がいるようだ。カウンター越しにこんがり焼けたような褐色肌の、半袖半ズボンと夏場にいそうな小さな女性と話している。
二人はインが入ってくるときに成ったベルの音で気づいたのか、振り向いてくる。
「ヒッ! ミ、ミミ、ミミズゥゥゥゥ!?!?!?」
跳びあがり、お客と思しき女性を盾にするマーロン。やはり一メートルもあるミミズというものは、女性にとって生理的に受け付けないようだ。客として来ている女性もその造形からか、武器を抜き放つ。そして近くにいる襲われていないインを見て、そっと武器を下ろした。
「マーロン。この魔物は、そこのお嬢ちゃんのだろ」
「そんなわけないでしょ!? 女の子で、ワームをテイムするなんて狂気じみ……いたわね」
取り乱したマーロンは、次第に誰がこのミミズを連れてきたのか、心の中で当たりを付けたのか、一瞬にして正気を取り戻す。そこからスゥーと、視線を動かしインの姿を捉えると、人当たりのよさそうな笑みを浮かべてくる。
「こんにちは! マーロンさん。それと……」
インがお辞儀をすると、同じようにアンもお辞儀。ミミが触手をうねらせる。
「あたしの事は気にすんな」
っと、インに対して微笑み、再びマーロンの方を向いて話しを続けようとする女性。聞き耳を立てるつもりなど毛頭なかったのだが、自然と会話が聞こえてきてしまう。
その内容は、どうも最近畑の様子が悪いと大半が愚痴のようだ。同じように、マーロンも何かしら相槌を打っている。
様々な手法や方法を試して畑を耕し作ろうとしているのだが、なかなか上手くいかない。収穫に取れる量も、普段なら三つや四つ、良いときなど五つは行くようなのだ。
しかし最近では一つや二つ、最悪なときは何も収穫できないなんて事も起こっている。これじゃあ商売できないと、褐色肌の女性は嘆く。
「そうね~。といっても、私は畑じゃなくて鍛冶専門だから」
分からないしどうしようかしらと、マーロンは近くにあるイスを引っ張り出して座り込む。対する褐色肌の女性も「だよな~」と分かっていたかのような声を出し、両腕を組んで考えだす。
その様子をインは入り口から少し離れ、日光が入りそうにない場所でミミの体に座りながら膝に両手を置いて聞く。
「……ま、悩みを聞いてもらえて少し楽になった。じゃな」
「今度は依頼者として来てほしいわ」
インも助けてやりたいのはやまやまだが、マーロンと同じく畑の知識はゼロだ。褐色肌の女性が手を上げその場を去ろうとしたとき、それは起こった。
「マーロンちゃん! いたりする~!」
ドアのベルを鳴らし、盛大に入ってくるピジョン。彼女はマーロン、次に褐色肌の女性と目に姿を映していき、最後に見たインへと飛びつき「今日も可愛いにゃ~」と頬を指で突いてくる。
「おいマーロン。あんた害獣駆除を請け負うようになったのか?」
「私も今困っているのよねー」
褐色肌の女性はピジョンに目を向けたままマーロンに振り返り、両手を腰に当てる。マーロンはと言えば、何とかならない物かしらと、相談に乗っているときよりもそれはもう深々と溜息を吐く。
「ドワーフなのに相変わらず心が狭いにゃ~」
「あたしがこの態度をとるのはあんたのような害獣だけだ」
褐色肌の女性は、インの頬を変わらずプニプニしているピジョンを睨みつける。どうやらこの女性はドワーフを選んでいたようだ。道理で少し小さい訳だとインはそっと納得する。
そして彼女は、過去ピジョンに何か被害を被ったようだ。インから見ると、その眼光は野獣のそれである。
「もしかして私、特別扱いされてる! いや~照れちゃうにゃ~」
「それは違うと思うよ」
むしろ何をやったらそこまで恨まれるの? と言葉を飲み込んだインはアンの頭を撫でつつ、頭を掻いてデレデレするピジョンにジト目を向ける。昔の悪評を聞いてはいるが、それだけでここまで恨まれるものなのだろうか。いや、どれだけ多くの人に迷惑をかければこうなるのか。
正しく自分のやった行動を振り返らない。それどころか正しいのだと自信満々に胸を張っている。
「で、鳥は何しに来たのよ」
「インちゃんとの集合場所がここだったから~」
「ごめんなさい。また場所を勝手に」
インが申し訳なく思い頭を下げて謝ると、マーロンは一度瞬きを挟む。
「それは別に大丈夫よ。相手が鳥じゃなければ」
「お固いね~。それで、何の話していたの~?」
ピジョンはインの首に腕を回して寄りかかり、別の話題に興味の色を覗かせる。どうやら褐色肌の女性が何者なのか知っているようだ。反対に彼女は「げぇ」と嫌そうな表情になる。それほどピジョンだけには自分の弱みを見せたくないらしい。
なかなか話そうとしない女性に、ピジョンはにぃ~と含み笑いを浮かべて続ける。
「ここにいるインちゃんは、虫をテイムしてゲームするほど大の虫好きなんだよね~。だから害虫とかに悩んでいるなら、力になるかもよ~?」
「……害獣がどっか行くなら話してもいい」
「私がその言葉を聞いて、どっか行くとでも~?」
やはりニコニコと良い笑顔を浮かべ断るピジョン。よほど困っていてもピジョンには話しくないようだ。褐色肌の女性は口を深く閉ざしている。
インはそっとアンを下ろしてやりピジョンに振り返ると、そっと彼女の耳に自分の両手を押し当てた。
「ンン!? 大胆だね~インちゃん。でも耳を塞いでも声は聞こえ――」
「ミミちゃん。ピジョンちゃんの耳と両腕を縛って」
インの指示に、ミミはのそりとピジョンに向けて触手を動かす。ピジョンは右手をスライドさせて忍び刀に手をやったところで、アンがロケットのように飛び出して邪魔をする。着々と近づいていく、ピンクのヌルヌル触手。顔を青ざめさせたピジョンは、諦めたように両手を上げる。
「降参。何も聞かなかったと誓うから、せめて話だけでも」
「らしいです! どうですか?」
インが振り返り褐色肌の女性とマーロンに尋ねてみれば、二人とも体をのけ反らせている。まるで何か恐ろしいものを見たのか、それとも何かから逃げるようにしているのか。彼女たちはそっとお互いの顔を見合わせ頷くのだった。




