怒り
「矛盾?」
「そう、宇宙恐怖症についてインちゃんに話した時を覚えてる?」
ライアはインに宇宙恐怖症について話したことを、念入りに記憶の倉庫から引っ張り出す。ピジョンを言い負かすため、そしてこのまま回れ右させて帰らすため。一字一句、インに言った言葉を捻りだし、――ゾッと身震いする。
「宇宙恐怖症って、治療法が一切見つかってないんだよね。なのに末期症状の人を、自分なら助けてあげられると発言してしまった」
ピジョンは続ける。
「これって治せると捉えられるし、楽にしてあげるとも捉えられるよね。どっちの意味でも矛盾は発生しているけど」
「そっそうだ! そうだよ! 実はお父さんの部屋から持ってきていたばかりで、内容は見てないんだよ! だから埃っぽかったでしょ。それは読んでいないから知らな――」
苦し紛れに聞こえるライアの言葉に、さらに刃を突きつけるピジョン。
「また話題を変えた上に、さらにもう一つ矛盾。他の部屋の埃っぽいものを置いた机に上に、よく友達を寝かせられたね。埃っぽくないのかな?」
ライアは強くこぶしを握り締める。
「……絶対友達作れないタイプだよね!」
「よく分かってるね~! この性格をしていると、何故か誰も寄ってこなくなるんだよね~。そのせいでインちゃんしか友達いないけど、だから何って話だよ」
ピジョンは面白がるように両手を組んで頭の後ろに置き、石のように固い眼差しを持って言い放つ。
「友達を作るために自分の趣味嗜好性癖を投げ捨てるくらいなら、私は友達なんていらない!」
個人は大事だからとインを頭の中で思い浮かべつつピジョンは、「で、どうなの?」と問いかけ続けた。
これ以上何かを言っても、その穴を突いて反論してくるだろう。これ以上言い訳をするのは無駄。ライアは肩を落として、ため息を一つ吐く。
「ねぇ、侵入者さん。なんでここまでわたしを追い詰めようとするの? インの為? それが、本当の友達だっていうの?」
死んで生まれ変わってから一度として友人を作った事もなく、気づいたら町を救うように命じられていたライアの心の底からの疑問。同世代同年代とも呼べそうな子にも敬われる存在で、対等な友達を作る事もできず、侵略者が攻めて来なくなれば、お役御免と捨てられそうになったライアの、心の底からの生きたいという思いが爆発しての行動。
さらに彼女には、生きていた頃の記憶すら残っていなかった。そして父親と呼べる男性の死期に、手に入れた住民と自分の関係。自分が一人の男性の満足の為に生贄にされてしまった事や、問い詰められた時にする何もかもの言い訳についても手に入れてしまった。
それが余計に、ライアの生に対する渇望をより深くさせた。
そしてその生きようとする思いが、何故ダメだといわれなきゃならないのか。青い空、照り付ける太陽を見たいという思いがなぜダメなのか。カーテンが浮かび上がる空を見たいと思って何が悪いのか。人を犠牲にしてまで助かろうとする、まさにあの男と同じ行動で、何故人に追い詰められなくちゃいけないのか。
本で読んだ、友達だから救いたいと考えているのか。友達だから間違った道を進んでほしくないという思いなのか。わたしはただ生きたかっただけなのにと、ライアは感情を露わにしてピジョンに問いかける。
果たしてその答えは、
「さぁ~て、どうだろうね~?」
「えっ……」
ライアの喉から出てきそうだった言葉が、誰にも拾われずにひっそりと消えていく。
「確かにインちゃんを救いたいと動いているのは間違いないよ。でもそれ以上に、私は気になった事を調べ通したいだけだからね~」
「そんな、そんな身勝手な理由でインの友達を語るの!!」
「身勝手かな~? 面白い物って、見終わると面白いと記憶に残るから後悔するんだよね~。その時もう一度見てみても、前見た時の記憶があるから、始めて見た時の感動はどうしても得られない」
ピジョンは目を見開き笑う。
「だから私は、ひたすらにその初めての面白いがみたい! 初めてを見たいんだよね~!」
「それと今の状況に何の関係があるの! 初めてが見たいなら別に今じゃなくても!」
「だから私はこうして、真相にたどり着こうとしている。それにアンタもその初めての世界が見たいから、インちゃんに迷惑をかけている。だからさ、そっちの方が友達を語らないでくれるかな?」
――中途半端。
中途半端。人形でありながらも生きたい、外の世界を見たいと人になろうとした。正確には人になるため、体を蝕む毒と麻痺を受けてでも人形であろうとした、ライアだけに向けての罵倒。果たしてその言葉は、ライアへの禁句だったようだ。
「…………そんな、……そんな、そんな考え方をするそっちの方が! インの、インの友達じゃない!!」
何の脈略もなしにライアの白銀のレーザーが、腹の虫の赴くままピジョンへと放たれた。




