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武器探し? 1

「ごめんねアンちゃん。こんな私で」


 町の噴水に姿を現したインはアン達に肩を竦めた。

 するとアンは気にするなとでも言いたげにインを前足でポンポンと叩く。

 それが何より嬉しかったインは感極まってアンを抱き締める。


「許してくれるの? こんな私を。ありがとうアンちゃん!」


「戯れはそこまでだよ。おねぇ」


 ビシッと咎めるように指さすファイ。同調するようにハルトも腕を組んで頷いた。


「初期装備だとキツいかもな。装備買いに行くぞ」


 アンに頬ずりを交わしたインは、ハルト達と共に買い物に向かう。




「いいかイン。今のお前は何も装備していない、いわば丸腰の状態だ」


 これで相手の攻撃に耐えるのは無謀すぎる。アンも心配で動きにくくなることだろう。

 だから武器や防具を買って、最低限自分の身を守るようにしろ。

 そうハルトはできるだけゲームの用語を使わず説明する。


 弱肉強食。虫の世界を見てきたインはすぐに理解できた。手をポンと叩いて頷く。


「なるほど。襲われても死なないように装備を買いに行くんだね!」


「そうだ。わたしは賢いおねぇが大好きだ。それとここは民が色々必要なものを売っている故な。定期的に通うとよい」


 エルミナの北東(ほくとう)に存在する商店地区。

 見える範囲でも数多くのプレイヤーが店先に見える。

 その相手をしているのもプレイヤーのようだ。

 もう少しまけてくれ。常連のよしみだろと買い手。

 ならちょっと行ってきてほしいところがあると売り手。

 そんな風な会話が繰り広げられているとこもあるほど、賑わっているようだ。


「おにぃ、よいのか? アンを連れて」


「多分大丈夫だろ。それくらいあいつなら見慣れているはずだ」


「素材と生物(なまもの)は違うぞ」


 しかしハルトとファイはどこの屋台にも向かわない。目的地が定まっているのか道を進んでいく。


(ファイとお兄ちゃん。どこまで行くんだろう。ここじゃないのかな?)


 何かある。そう直感しつつもインはアンを抱きかかえて付いていく。

 そんな彼女に突き刺さる周囲の視線。


(なんか、見られてる気がする)


 プレイヤー達が噂するのも無理はなかった。

 なにせハルトとファイは、最先端を歩く有名人の一角。

 そんな彼らと一緒に歩いているのだから、目立たない訳がない。

 ただ時折、「何あの層をついたエルフ」、「虫を抱くってNPCじゃないのか」等の声も混じっているが。


 そんな事は露知らず、インは付いていく事五分強。二人は一軒の店の前で足を止めた。

 インが着いた先を見上げてみれば、そこは大きなログハウスだった。

 扉には『星の種』と彫られた立て札がオープン状態でかけられている。


「本当によいのだな」


「多分大丈夫だ。多分」


「知らぬからな」


 意を決した面持ちでハルトがドアノブに手を掛けた。

 ベルがつけられていたのかカランと涼しげな音が届く。

 ファイは気にもせず。インとアンは若干おどおどしながら続いていく。


(ここが、ファイとお兄ちゃんの来たかった場所?)


 中は現実では到底見ることの無い、まさしく武器の宝庫だった。

 盾やナイフ、槍などの大小さまざまな武器が壁やガラスケースと至るところに飾られている。

 すぐ近くには値札。見たかぎりではインの財布では到底手の届かないものしかない。


「いるか、マーロン!」


 それらには目もくれず、ハルトは声をかけた。

 遅れることなく「今行く」という声が聞こえ、一人の女性が現れる。

 インの目が最初に注目したのは、右手に握られたハンマー。

 水晶のように輝く、傷一つない赤い体を見せつける。

 作業着は少し焦げ付いたかのようにくすんでいる。

 数秒遅れで炭のにおいが到着した。

 胸に抱いているアンはそれが嫌なのか、少し足をバタバタと動かしている。 


「あらっ? ハルト君とファイちゃんじゃない。そっちの可愛いエルフっ娘……は……」


 続いて女性に目を向けてみれば、腰まで届く艶のある黒髪。

 その顔は人当たりがよく、子どもに懐かれそうなオーラを放っている。

 女性はインに、正確にはインの顎まで触角が伸びるアンに目を落とした。

 石像のように表情が硬直するまで秒もかからなかった。

 ハンマーが力なく地面へと落下し、重音を鳴らす。


「久しくはないな、マーロンさん」


 気にせずファイはフレンドリーに手を上げる。その目はどことない同情が混じっていた。

 同じようにハルトもインに手をやり、紹介する。


「よっ、マーロン。こっちは妹の」


「ど、どうも、インです。こっちは仲間のアンちゃんです。よろしくお願いします」


 ぺこりとインはアンを胸に抱いたままお辞儀。

 アンを下ろし、「ほらっアンちゃんも」と促した。

 するとアンはマーロンと呼ばれた女性にじりじりと歩み寄る。

 他から見れば膝下少しくらいのアリがじわじわと近づいてくる構図だ。

 それも楽勝とはいえ倒しちゃいけない状況。


 それがさらにスイッチを押すトリガーとなったのだろう。

 途端に彼女の表情は怯えへと変貌する。内股気味に後ずさる。

 ファイの目はもう同情しかなくなった。ハルトもここに来てようやく顔が引きつり始める。 


 後退空しくアンはマーロンの傍に到着する。挨拶代わりにアンは触角で触れ、バシンと弾かれた。 

 セーフティタッチ機能だ。どうやらプレイヤーの連れる魔物にもその機能は適用されるらしい。


 ちなみに触角で触れるのはアリ独特の挨拶方法に一見映る。

 しかしその実、仲間かどうかを確認しているだけであったりする。


「む、虫? ムシィィィィィ!!!??」


 マーロンは驚愕の表情で跳びあがった。

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