???
楽しい別れのパーティは幕を閉じる。
黄色の魔法少女の手に握られているのは、一枚の写真。そこには、同じ魔法少女服を着ている二人の少女。容姿、髪の色、背丈、そのほとんどが一致している二人は、まるで本当の姉妹のようだった。
「終わったんだね。これで――」
感慨深そうに魔法少女は呟き天を見上げる。そのすぐ近くにはもう一人、少女が横たわっていた。
* * *
魔法少女が生まれたのは、地球に侵略者が攻めて来た時。強大な力を持つ侵略者を食い止めるべく、人類は罪人から力を吸い上げ、一か所にまとめ上げる装置を作り上げた。
だがこれには問題がある。反動だ。何百人もの力が、たった一人に注ぎ込まれるのだから、その反動もまた比例して大きくなる。
だからこそ彼らは、耐えうる体の素体、生贄となってくれる子を募集していた。大人でない理由は、ある程度幼い方が人の言う事を聞いてくれる。反感を持たれても、物を渡せばすぐに説得できるからだ。
とはいえ、多くの人々は反対した。いくら侵略者にやられそうとはいえ、自分の子どもを差し出す親がどこにいるだろうか。いや、中にはいたのだろう。自分たちだって人間、誰かを犠牲にしてでも生き残りたいという気持ちは、当たり前な物だ。
しかしそれでは、人に恨みを持たれてしまった場合、力の矛先が最初に向く場所は明白。やはり無理だろうと、ひとつの博打に出るように募集を募った。どうせ受けてくれる人は居ないだろうと、半分諦めかけた状態でだ。
そして数日が立った。あれから、受けようという連絡は一向に現れない。それが当たり前。これが現実。すぐさまこのバカげた募集を打ち切ろうとした時だった。ひとりの少女を大切に抱き上げ、男が入ってきたのは。汗まみれで、もう一度会えるのか必死になって問いかけてくる男がいたのは。
それが魔法少女の父親だ。彼はもう一度、自分の娘に会いたいがために、自分の私利私欲の為だけに、娘を蘇らせようとしたのだ。
果たして、初めて、その瞬間こそが、侵略者に人類の反撃の刃が届く一歩となる。
実験は早急に行われた。あらゆる過程を考慮し、これが最初で最後のなのだと、皆一丸となって、一つたりともミスしないように、ひとりのホムンクルスを作り上げた。それこそが人類の希望。
擦れる視界の中。培養液にいた小さな少女は、培養液の入ったカプセルの前で泣き崩れる男を見て、ゆっくりとその小さな唇を開いた。
「……誰?」、と。
カプセルの中から出た少女。彼女に課せられた命令はただ一つ、侵略者の討伐。彼らを倒し、人類を助けてくれという願い。生前の楽しかった、幸せだった記憶をすべて失い、右も左も分からない赤子のような少女は、何かを疑問に思うことなく引き受けた。それしか知らなかったから、引き受けた。
かくして少女は、侵略者と戦い続ける。自分よりも大きく、強大な敵。少しでも気を抜けば、やられるかもしれないといった緊迫した戦い。それでもなお彼女は、人類の為、果敢に立ち向かう。同級生とのふれあい、誰かに恋する、暖かな時間、そのすべてを犠牲にして。
痛ましい生傷が作られようと、人から吸い上げた力ですぐに完治する。どれだけ痛かろうが、魔法を使えば一瞬にして痛みは引いていく、人形の体。それでも少女は幸せだった。住民の笑顔や感謝を受け取れる。何より、父親のように接してくれるひとりの男性がいたから。
魔法少女の生前、オネストの父親がいたからこそ、彼女は魔法少女として頑張れた。
彼は寂しくならないように、いろいろな外の世界について教えてくれた。人の営み、どこまでも星空が続く宇宙、海や砂漠、山といった大自然。女の子というもの、時には誰かを騙すくらいずる賢くないとなと、黄色百合のブローチをくれた事もあった。そのブローチは今でも大切な贈り物だ。
それから、数え切れないほどの月日がたった。周りは老いていくのに、彼女は人形だから年を取らない。生前の同級生達は今頃、結婚をして幸せな家庭を作っているのかもしれない。しかし彼女は、小学生の頃で時間が止まっている。
でも少女はうれしかった。侵略者がここ最近、姿を現さなくなったからだ。みんな自分と違い幸せな暮らしができている、それだけでも少女は救われた。
しかし、幸せは何度も長く続かない。再び侵略者が姿を現したのだ。
少女はいつものように出撃する。住民の笑顔を思い浮かべて、いつものように侵略者を撃退する。そうして彼女が振り向いた先で見たものは、批難、恨み、怨念、怒りといった住民たちの目。何かよく分からない言語で、ひたすらに罵倒するような強暴な声だった。
不幸は連続する。大好きだった父親同然の男性が、この世から姿を消してしまった。今まで守ってきた住民たちが、狂った人形だと吐き捨て、星から出て行ってしまった。何が起きているのか、分からない。でもこれだけは分かっていた。もう、自分は一人ぼっちなのだと。
その後少女は、今まで隠されてきた父親の日記を読み、全てを理解する。
自分の正体、自分の使っていた力、そして自分が住民と言い張り守ってきた侵略者についてを。狂った人形だと吐き捨てた住民の真意を。
――ああ、確かにわたしは、狂っている。
少女はその場で泣き崩れた。今日までずっと溜めてきた涙のダムが、崩壊するように泣き叫んだ。そしてもう体中の水分が無くなるんじゃないかと思うほど泣いて、泣いて、十分泣いた後に、立ち上がる。全てを知った今でも生きたいと、外の世界を見てみたいと。涙を拭いて前を向く。
そして今この時、人類の最後の希望は、ただの壊れた人形へと成り果てる。
自分の動力源、動くためには侵略者が必要。だから彼女は、捕まえた彼らを助けるために攻めてくる侵略者を捕縛する。生きて、いつか夢見た外の世界へ胸を膨らませながら想像して、今日もまた戦う。
魔法少女の名は、ライア。元人類の希望にして、壊れた狂気の人形。
「裏切りの魔法少女」
「俺たちの絶望」
「偽りのヒーロー」
なんと言われようとも、もう気にもしない。彼らにとって自分が敵なのは違いないのだから。
そんな戦い続けたある日の事だった。ライアが自分と容姿が似ているエルフの少女を目にしたのは。
ライアは思う。普通の人間、生身の体。もし彼女に成れるのなら、わたしは海を見に行けるだろうか。外の世界を見に行けるだろうか。太陽というものをまた、目で見ることができるだろうか。彼女として、普通の人間として生きられるだろうか。
なら違和感なく近づいて、隙を見せた一瞬を狙おう。その為に自分も同じような見た目なのだから、フランクに近づこう。友達としてなら、違和感もないだろう。
故にライアは生き残るため、外の世界を見たくてエルフの少女、インに近づこうと画策する。黄色百合の花言葉通り、偽りの陽気を張り付けて。




