哀れなプレイヤー
『イーグルアイ』で位置を特定できるピジョンを先頭に走り出してから十分弱ほど。多くの特徴的な武具を身に纏うプレイヤー達に囲まれている、肌や髪、服が傷み追い詰められたライアを発見する。
その中にはインと同じように『調教』アビリティで従えたのか魔物の姿も映っているが、それでもよほどの手間を費やしたのだろう。プレイヤー側に怪我人がおり、皆最後まで気が引けないといった目をしている。
そこに逆転の一石が投げ込まれる。
「遅くなっちゃった。ライア!」
「……遅いよイン!」
触手を生やした十三メートルはあるワームに乗って戦場に現れた二人の少女。一人は何気ない挨拶を交わすとライアを守るように立ち、もう一人は一言も発することなくワームから飛び降り、影に隠れて敵を殲滅しにかかる。
「おい、なんだよあれ」
「あんなの上級者向けのとこにしか出ないだろ!? むしろどうやって味方につけたんだよ」
「おい待てお前ら、肝心なとこ忘れてるぞ。あれをどうしてテイムしようと考えたぁ!?」
「可愛いと思うのに」
「「「エルフが触手落ちしてる!」」」
「触手落ち?」
プレイヤー一同は触手を持ったミミズの出現に怖気づいたのか、驚愕の表情を露わにする。インはと言えば、触手落ちの意味が分からず疑問を口に出すも、すぐにミミへと指示を下す。ここらのプレイヤーをすべて捕食しろと。
ミミは主の指示に体を若干うねらせる。ゴムのような質感を持つ触手を無造作に伸ばして、そして戦士だろうが魔法使いだろうが、何の区別なく捕まえた者を片っ端から口の中へと無断で招待していく。その様は新手の掃除機に近い。
プレイヤー達は何かをすることもできず、まるで何か恐ろしい物にあったかのような悲鳴を上げる。とはいえ、ミミが触手を休めることはない。
「……ふーん。やっぱりね~」
混沌とした空間の中、ピジョンは何か意味ありげに口角を上げると、何のアビリティもなしに外から指示を出すリーダー格と思しきプレイヤーを斬り捨てまくる。彼らも決して無能ではないのだろう。しかしいきなりワームという光が出てきてしまったせいで、他の影への注意が散漫していたのだ。
要になっていたリーダーが、忍び刀ひとつの少女によって何かを成すこともできず光に変わる。魔法少女を倒すために組んでいた陣形らしきものも、リーダーの喪失と共に崩れていく。
「あのインがピジョンちゃんって呼んでた子、すっごく、すーーっっごく、強いね!」
「すごくってレベルじゃないよあれ。本当に攻撃が当たらないから。多分今も手加減しているんじゃないかな?」
「えっ、本当! なおさらすっごいね!」
インの言う通り、ピジョンは手加減をしている。無駄に体力を消耗しないように工夫しているとも取れるがその実、そこまで本気を出す相手ではないといった意味も含まれていたりする。
本能のまま行動し急所が分かりにくい魔物相手よりも、考えるという行動をして体を動かし、共通して首が弱点だと分かる対人戦の方が、はるかに楽といった考え方をしているのがピジョンなのだ。
話し合っている最中でも、二人は戦いの手を止めない。外からはライアが、高出力を誇る白銀のレーザーをまき散らす。無音で何の前触れもなく放たれ、瓦礫を砕いてプレイヤーを三発で光へと還す。その威力はまさに、気づいたら鎌を振りぬいている白い死神そのもの。
ピジョンの陰とライアの陽が混同した戦場から逃げようとすれば、戦場を安全圏から的確に把握できているインが指示を出し、ミミの触手に捉えられ漏れることなく胃へと直送されていく。
そんな絶望下でもプレイヤー達は武器を握り締め、ライアに突貫していく。彼らからすれば魔法少女さえ倒せば勝ちは揺るがないだけでなく、無駄に命を散らすような真似だけはしたくないのだろう。そんな僅かな希望すらも、ライアの手によって打ち砕かれる事となる。
「『再生の光』!」
「うっそだろお前!?」
「ボスが回復使うのは一番やっちゃダメな奴だぞそれ!」
「これ最初から侵略者側に勝たせる気ないだろ。弱体化したと思ったら単なる罠だった件について」
ライアに、天から神の御業とでも言わんばかりの神々しい光が差し込んだ。
するとなんと、ボロボロになった服にちょっとした傷までもが、まるで逆再生するかのように治っていくではないか。ライアが使用したスキルは、『再生の光』。『光魔法』アビリティの中に存在しているスキルの一つで、当たった個所の怪我や傷を最大HPに応じて自然回復するといった効果を持っている。
そう、ライアの使うアビリティは本来、攻撃系ではない。とんでもない威力を誇っているように見えるがその実、回復や強化、はたまた障壁などサポートがメインの魔法アビリティなのだ。
苦労して削ったHPが、見る見るうちに満タンに近づき、終いにゲージが緑で覆い隠された瞬間、プレイヤー達の最後の希望が儚く砕け消えていく。
「ライア。私の仲間がやられちゃって、復活って出来る?」
「任せて!」
ライアはドンと胸を張って祈るように両手を組んで目を閉じると、波紋が内から外へと広がっていく穢れのない神秘の湖が浮かび上がる。その中心に佇むのは、精霊を幻視させるように祈りを奉げるライア。仰々しく水を救いあげるように手を動かし目を開けた先に作られたのは、宝石のように淡く水色に光る小さな雫。
恵みを与えるかのように飛んでいき、重力に逆らえず落ちた雫は輝石に染み込み消えていく。淡い光は一定の間隔で点滅すると、光量が徐々に大きくなっていく。最後に水が飛び散るように弾け飛ぶと、アンが元気な様子で姿を現した。
『光魔法』アビリティに付属されているスキル、『女神の吐息』。聖者が神に祈りを奉げる様子の一端を映し出すこのスキルは、あらゆる状態変化を元に戻すといった効果を持っているのだが、ライアほどのLVを持っていると、死亡の状態変化すらおも回復させる。
今までかつてないほどの、絶望がプレイヤー間を刺激する。
アンは輝石の中から外を把握できていたのか、インの腕に捕まる前に速攻で他プレイヤー達に食らいつきに行く。
「この白いアリ、見た事がある。まさかあのエルフ。噂の美少女NPCか!」
「NPCはイベント参戦できないはずだろ! なんでここにいんだよ」
アンに気を取られ無駄口を叩くプレイヤーが、ピジョンの手によってまた跳ねられる。そこから先はまさに、ライアとピジョン、アンとミミの独壇場だった。
ピジョンが疲れる様子もなく敵を倒し、ライアが外側からレーザーと回復の援護を繰り返す。アンはミミの勝てない相手を速度と筋力で翻弄し、ミミは剣などの斬撃武器を使うプレイヤーを中心に胃の中に押し込んでいく。
この攻撃群に、プレイヤー達はなすすべなく徐々に侵略者側は数を減らしていき、最後には全滅して戦闘が終了したのだった。
アサシンの虫といえばアサシンバグの、サシガメというカメムシがいるそうです。
他のカメムシと違って肉食性であり、多くは捕食性、それで吸血鬼のように血を吸う物もいるそうです。同じ虫でも住む場所や狩り場所が違うなんてそんな種がいるんですね~。アリは土の中、トンボは田んぼ、ヤゴはプールでゴキブリは冷蔵庫の下と、住む場所は一、二か所くらいだとずっと思っていました。正しくショックでした!
……アリの捕食に特化しているんじゃな~。
とまぁここまで書いてますが、私的には働きアリとその巣を丸々奪うトゲアリの方が、なんか暗殺者っぽく感じます。やってる事確実に暗殺者じゃないですが。




