日記
インもアンを持ち上げると、ミミとピジョンと共に他に部屋ないか見て回る。
そうしてたどり着いたのは両親の部屋。エアコン類は稼働していないのだが、つけられているかのように肌寒い。
何年も掃除されていないのか、鼻がムズムズするほど埃っぽい二つのベッド。ここもオネストの部屋と同じように、タンスにクローゼットが設置してあり、共同テーブルの上にはこの研究機関のマップと思しき紙と、同じく日記が置かれていた。今度はピジョンが先に手に取ってパラパラとめくり、読み終わるとインに手渡してくるので開いて読んでみる。その内容は以下の通りだ。
〇月×日
私たちに子どもが生まれた。
今まで彼女は子どもを作るのは難しいといわれていたのに、これはきっと神様のお贈り物に違いない。いや、彼女と私の努力の結晶なのかもしれない。名前はオネストと二人で決めた。今からこの子がどのように人生を送っていくのか楽しみで仕方ない。
〇月×日
オネストはすくすくと育ってくれている。
彼女に似たのか嘘をつくこともなく、私が両手を広げればパパ~と言って駆け寄ってくれる。可愛くてしょうがない。
序盤はこんな少しの変化が幸せに感じるのか、そういった事しか書かれていない。その為ピジョンが、インにある程度変化が訪れる部分まで飛ばさせる。
〇月×日
オネストが最近どこかよそよそしい。
私を見ると身をひそめるようになってしまった。なんでなのか聞きただしてみるも、だんまりで話してくれない。彼女は子どもにはそういう時期もあると、まったく気にしている様子はない。
〇月×日
オネストが部屋から出なくなった。
私は料理を運んで届けるも、食べてくれない。
鍵がかかっていないのに気付いた私が……。
「どうなったの?」
人の日記を見るのがいけないのは分かっている。それでもオネストに何があったのだろうか。この家族にいったい何が起こったのか。難しい表情でモヤモヤしつつ言葉を出すイン。
「多分それ、オネストが死んでたってオチだよ」
「えっ、分かるのピジョンちゃん」
思わずインが聞き返すと、ピジョンは日記をほっぽりだし、ベッドの下やクローゼットを開けるなりする。
「恐らくね~。彼女が気にしていないのはどうせ浮気をしてたから。そのオネストって子がよそよそしかったのは……、インちゃんには早いかな。誰でも思いつきそうなものだよね~」
ピジョンは総じてくだらないと一蹴し、両親の部屋の中を探索している。その様を見るに、既に日記の事など頭の中にはないようだ。埃の被った変な本を見つけては、「ワーオ」と口笛を吹いている。
(ピジョンちゃんすごいなぁ。よくこれだけでそこまで)
そうして五分弱。インからは謎のまま調べてみるも、部屋の中で使えそうなものは特にない。もうここには日記や、小道具があるのみで何もないのだろう。二人と二匹は、他の部屋に行くことにした。
再び長く暗い廊下を歩いていく二人と二匹。
ここから部屋自体は何度かあったのだが、魔法少女の秘密を探る手掛かりとなりそうなものはなかった。
そうなるとここが、本当にあの魔法少女と関係があるのかすら怪しくなってくるものだ。若干の疑心暗鬼に陥りつつも探していくと、暇つぶし程度にピジョンが切り出してくる。
「インちゃん。アンちゃんに再び、魔法少女のにおいを追跡させられないのかにゃ~?」
「どうアンちゃん。できそう?」
その質問にアンは前足でインの腕を叩いて返事を返す。任せろと言っているかのようだ。
インがアンを下ろすと、ある一点目指して一目散に飛び出していく。
「最初からこうすればよかったね~。上のプレイヤー達は時間稼ぎ大丈夫そうかな~」
「ピジョンちゃんが夜襲を仕掛けるようにアドバイスしたのに」
「何のことかさっぱりだにゃ~。実行したのはか・れ・ら。すなわち勝手に実行したのも彼らだにゃ~。これで私のせいにされるのはお門違いもいいところだよ~」
「……そうだけど」
あくまで策を上げただけ、責任転換も甚だしいといい笑顔と共に白を切ってくるピジョン。これで他のプレイヤー達は気づいたらやられるはめとなるのだから、理不尽と言っていいだろう。それなのにピジョンからは、悪びれる様子は一切感じられない。これにはインも、だんだん他プレイヤーに嫌われる理由が分かるような気がしていたのだった。
代り映えしない風景。光がないせいで黒くなっている壁が、走る音を反響させ妙に耳に残させる。途中道のりが長すぎたせいで追いつけなくなったインは、自分よりも七倍以上足の速いミミに乗ってアンとピジョンを追跡する。
タタタと走る音からヌチョヌチョとした液体に音が変わり、突き当たりを右に抜けたところで多量の光がインに降り注ぐ。
「何!?」
暗闇にずっと居てからいきなりの光。目が焼かれるような熱にインは怯むが、次第に慣れてくる。
「インちゃんおかえり~。ここ凄いね~。ほら見てあそこ」
回復してからピジョンの指す方を見てみると、そこには台座の上で生贄を連想させるように眠っている少女。普段インが見てきた彼女からは想像つかないほど、大人しく無防備な姿。まるで死んでいるかのように無表情な金色の髪を持つ少女。
台座から見て左側には人一人が入れそうなほどのカプセルが立ち並び、右側には怪しげな薬品に機械類。
部屋の中心にある作業用の机には侵略者について、ライアの秘密と書かれた書類。先ほどの父親とライアの物と思しき日記に、多種多様な絵本が置かれている。
「ライア?」
「大方予想はしてたね~。どうせ彼女は人形かなんかでしょ。見てよ、心臓が動いていない」
「うそっ、そんな!」
ピジョンの言葉に、インは駆られたようにミミの上から飛び降り無我夢中でライアへと駆け寄る。他の事など気にしない。ここが今どこであるのかも無視をして。眠り込んでいるライアを覗き込む。
肩は、全く動いていない。
「ライア! ねぇライア!」
膝から力が抜けていく。立つこともできなくなったインが、震える手をライアの口元へと伸ばす。息は、当たらない。
次は七時です。




