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夜襲

「さてインちゃん。最初に言っておきたいことがあるんだけど、イベント開始時点でテイムした魔物は消えないよ。そんなバグ、昔はあったけど死んだ状態なんてことは絶対に無かった」


 ピジョンの話しでは、まだまだゲームの基盤となるような時期に、テイムした魔物は強制的に輝石に変わるバグはあったらしい。とはいえ取り出せば、すぐに呼び出すことができたという。


「えっ、待って! ならなんでアンちゃんとミミちゃんは」


 インの体にしがみついていたピジョンは、しばらくしてから離れて本題に戻る。いろいろ脱線してしまったものの、イベントの謎を解くには後一日しかない。後一日で解かなければ、イン達は強制退場となる。


「タイミング迷ってたけど、今だから言っちゃうね。最初に魔法少女が現れるとき、視界を潰すほどのライトアップしてたでしょ。あれでプレイヤー達の注目を集めるのと同時に、インちゃんのテイムした魔物に、あの魔力砲を放って倒してたんだよね」


「それ、本当?」


 インの周りの空気が変わる。温厚でステータス的に何もできないインでも、もし大好きな虫ちゃんが倒された原因がライアにあるのなら、許しては置けなかった。

 ピジョンもインの変わり映えに、詐欺などにコロッと簡単に騙されないか不安に思いつつも話題を続ける。


「多分見た目的に敵だと思ったんじゃないかな? アリとワームだし」


「ピジョンちゃん。何か言った?」


「いやなんでも」


 インのイライラの矛先が向けられそうになり、ピジョンは地味に上手い口笛を吹いて何でもないとごまかす。

 普通の女子は、目の前に一メートルはあるかないくらいのミミズとアリが出てきたら、敵だと思い込むだろうという言葉を飲み込んで。わざわざ指摘して藪から蛇を出す必要もない。


 さて再び問題に戻るが、どうやってピジョンの推理を立証するかだ。

 いくら考えたところでそれは考えるだけ。何かをしたという証拠もないのに決めつけるのは、冤罪をかけるのと同じこと。推理を真正面からぶつけるには、それに基づく根拠と動かぬ証拠が必要だ。

 とはいえ、直接ライアに聞いてもはぐらかされるのは目に見えている。もしも犯人だったとしても、教えてって聞いてちゃんとした答えが返ってくるのは、よっぽど強さや計画に自信があるものか、昔のゲームの黒幕くらいなものだろう。

 むしろ逆上されて二度と会えなくなる方が、インとピジョンにはよっぽど痛手になる。ともなれば、証拠をどうやって本人が見ていない場所で集めるか。もしくは見つけるか。インはミミの口の中に浸りつつ、冷静に考える。


「じゃ、向かおうか!」


 そんなどうするか考えているとき、ピジョンが事もなく言い切り立ちあがる。その眼には確かな自信と、ワームの口の中に入っている変態をどう見ればいいのかの半々に分かれていた。


「証拠探しに行くと言っても、どこに行くの? 怪しい場所はないよね?」


 インの言い分通り、町中見渡す限りボロボロの瓦礫しかない。こんな場所をずっと探すなんて、砂漠の中からひとつの米を探すくらいの難易度だろう。とても残り一日では間に合いそうにない。

 そしてどこに怪しい場所があるというのか。インはミミの触手を寂しくなった手でにぎにぎしつつ、確認する。


「それはね~。最初に出てきたあの会場覚えている? あそこ怪しくないかにゃ?」


「確かに、他と違って設備良いよね」


 魔法少女と最初に出会った時、注目を集めるための視界を蓋うフラッシュ共に、アイドルがステージに上がった時のようなライトが会場には仕掛けられていた。

 荒廃している町と比べても異色を放っているのは確かだ。ミミの口内に入って一体化しているように見せているインも相当異色を放っているが、賢者タイムに入っているのか妙に頭が切れていると判断したのか、ピジョンは気にしないようにしたようだ。


「そうそう。それで魔法少女に気づかれないよう覗いてみたんだけど、あの魔法少女の帰った先がそこだったんだよね~。探してみる価値はありそうじゃないかにゃ~?」


「なるほど。でも今はライアがいるでしょ? それにきっと、町がこの環境だから他のプレイヤーさん達も寝床にしているはず。どうやって入るの」


「それは追々ね~。今は時間が惜しいから移動しようか!」


 インを含めた一人と二匹、ピジョンは屋敷を出る。外では他プレイヤーが寝袋に入って規則正しく寝る者、テンションが上がっているのか夜中遊びに興じている者、それぞれが思い思い過ごしている。

 イン達は寝ている者たちを起こすのは気が引けると、起こさぬようこっそりと忍び足で歩いて、イベント最初の時に訪れた会場へと向かった。


 会場は町の特色を出すかのように、そこだけチリ一つないほど掃除が行き届いており、ゲームの中とはいえ埃をかぶるのは嫌なのか、寝床にしている者が大勢見える。

 そんな彼らを起こさないように、大胆にも真正面の入り口から堂々と入るイン達一行。改まってみれば、コンクリートや石のような物質で舗装された壁に道が続いている。

 二階に立ち並ぶ縦横綺麗に並べられた観客席に出てくると、「それで会場に来たけどどうするの?」と尋ねるイン。道中も危ないだとか、絶対に起こさないように言われてきただけで、ピジョンからは何の作戦概要も知らされずにいた。


「その前に、アンちゃんとミミちゃんは目立つから輝石に還ってもらってもいいかな?」


「えっ、アンちゃんとミミちゃんを倒せっていうんですか」


 ここまでミミは速度が遅いながらも、必死に会場についてきていた。それを輝石に還せとはどういうことか。ゆらゆらと体を揺らし、触手で止めてとでも言いたげなミミをかばうように、インはピジョンに食って掛かる。


「違う違う。テイムした魔物は調教を持った人の手で自由に輝石に還れるんだよ」


「還れる?」


 ゲーム歴が長いピジョンは苦笑しながら語る。調教でテイムした魔物に手を向けて送還とでもいえば、HPとかは保存されたまま仲間は輝石に還るのだという。その名は、『調教』アビリティを持っていれば誰でも最初から使えるスキル『送還』。仲間を石にして、主の意思で外に開け放つ物だった。

 当然インは渋る。せっかく一日おきにやっと会えた二匹とまた離れるなんて絶対に嫌だと。日光があるならともかく、この世界にそんな物はない。二匹にしがみついて、嫌だと首を振る。これがもし愛犬などの動物なら実に似合う光景だが、相手はアリとワーム。普通の人ならまず困惑が先に来る事だろう。


「嫌。二匹と別れるなんて嫌!」


「インちゃん。そんな小学生みたいに言われても」


「せっかく一日置きでようやく会えたのに、また一瞬でも別れるなんて」


 仕方ない、むしろこうなるのも予想済みだとばかりに、ピジョンは古き良き時代からこういう子どもを説得するのに役立つ、伝家の宝刀を抜く。


「インちゃん。二匹とも秘密兵器になるから還してほしいな~。それでも無理ならそのまま行くしかないけど」


 秘密兵器。

 それは古来多くの漫画で単純な奴や馬鹿な奴を説得するのにつかわれる言葉。お粗末ともいえる決まり文句にも例えられる。

 当然ある程度分かっている者ならおちょくるなよとでも言いそうなものだが、インはゲーム初心者であると共に漫画もほとんど読んだ事が無い。途端に瞳を輝かせると、「秘密兵器!」とすぐに釣り餌に食いついてきた。


「そうそう秘密兵器。別に明日になるまで出すなっていう訳じゃないからね~」


 ゲームはどうプレイするも自由。だからこそピジョンは、秘密兵器でも拒否されるならもう自由にさせようと考えていた。そこまで我を押し通すのも良くはないだろうと。

 そしてその結果は僥倖。自分の意思でゲームをやっているのか、流されまくっているのではないかと思いつつも、これを押さずにはいられなかった。


「うーん。でもやっぱりアンちゃんとミミちゃんと一緒にいたい。ピジョンちゃん、ごめんね」


「ありゃりゃっ、ダメか。うん、それがインちゃんの判断なら何も言わないよ」


 説得は失敗。それもまた楽しみ方だからと、ピジョンは口を閉ざす。


「でもピジョンちゃん。会場に忍び込んだのはいいけど、ここからどうするの?」


 インが危惧しているのは、忍び込んだとはいえバレればそれでおしまいという点だ。

 ここまでは何の苦労なく順調に来れたが、ここから先イン達は何の準備もしていない。何の策も講じていなければ、すぐライアに見つかるだろう。


「それはね。こうするんだよ!」


 ピジョンが不敵な笑みを浮かべると、合わせるように外から悲鳴や鉄と鉄がぶつかり合うような音が耳に届いてきた。

 次は八時ですね。

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