意外な再会
独自の解釈もあるので、警察の方は感想にてコメントをください。
「さっきも言ったけど、一緒に魔法少女やろうよ! インがいれば、もっと町の人達を守ることができるよ!」
再度前かがみになって魔法少女の勧誘をしてくるライア。
しかし彼女はNPCだ。プレイヤーではない。ずっと一緒にいる事などできるはずもなく、所詮はゲーム、それもイベントの間しか会うことのない存在だ。
それにさっきの男性プレイヤーは恐らく、そこまでレベルが高くない。防御が初期値のインを倒すのに三撃もかけているのが良い証拠だ。
それに苦戦するようでは、町の住民を守るなんて出来っこない。
インは首を横に振る。
「できないよ。私は、ライアと一緒にいる事も」
「なんでなんで! ずっと一緒にいようよ! ずっと、一緒に!」
「ごめんね」
インは作ったような笑みを向けると、ライアはむぅとムッとした表情へと変わっていた。なんで、一緒にいようを繰り返してくるが、インもこればかりは譲れない。
「分かった! それなら一緒に、魔法少女服を着よ! それで記念写真撮るだけ! これならいいでしょイン! お願い!」
せめてもの、魔法少女を二人でやっていたという記憶が欲しいのか。それとも着せてこのままやろうと断れない雰囲気を漂わせるつもりなのか、ライアは手を合わせて頼み込んでくる。
またもインは首を振る。
「ごめん。着ているところを先に見せたい相手がいるの。だから、ごめんね」
「むぅー!! 誰なの!」
ライアは頬に空気を入れ込みむくれる。
「アンちゃんとミミちゃん」
インは魔法少女服を、できるならアンとミミに最初に見せてやりたかった。二匹とも好きだからこそ、着ている所を見せてあげたかった。
「アンちゃんとミミちゃんって誰! わたしは!」
「アンちゃんとミミちゃんは私の大事な仲間! いつも一緒にいて、いつも頭を撫でてあげて、いつも触手に絡まれて! フヘヘ。とにかく、明日にならないと会えないかな」
「触手? …………」
ライアがいきなり黙る。と同時に、すぐ近くで唸り声に近い声が聞こえてくる。
またどこかで誰かが襲われるかもしれない。ライアはそう考えたのかインに詰め寄るのを止める。
「明日もまた来るよ! その時は絶対に着てもらうから!」
そう振り向きざまに叫び、またも爆速で音の発信源にまで向かっていった。
(ライア。ちょっと様子がおかしかったような)
一日目の夜。
夜といっても、見上げれば果てしない宇宙空間が続いている。時間を確認する方法は、イベント終了までのタイムのみ。操作してウィンドウを開いてみれば、もうそろそろいつもの寝る時間だ。
インはイベントの前にファイに教えられたことを思い出す。
それは、この世界でもある程度睡眠時間を取らなければ、ステータスダウンや眠気の状態異常にかかってしまうというものだ。その為か、インの目に見える範囲の他プレイヤーも、各々寝袋を取り出し入り込む。
(アンちゃん。ミミちゃん。……ライア)
インは寝袋の存在自体を知らなかったせいで、不衛生極まりない町中で雑魚寝しなければならない。硬い瓦礫を枕に寝転がれば、頭にズキズキとした痛みが襲ってくる。金色の髪の毛にも、無数の埃がついてしまう。
いくらゲームの中とはいえ、一日風呂も入らずインは汚い場所にいる。いつもは暗闇を照らしてくれる明るい電気がない。同室の妹がいるわけでもない。アンもミミも出てこれない。
知り合いは皆高LVプレイヤーのせいでおらず、ライアはどこかに行ってしまったせいで誰もいない。孤独、暗闇、不衛生。それが言いようのない恐怖となって、インの精神を蝕んでいく。
身をダンゴムシのように丸ませる。
「アンちゃん。ミミちゃん。ファイ。お兄ちゃん」
寂しくて、みんなの名前を口にしてしまう。
「マーロンさん。ピジョンさん。ライ――」
「呼んだかにゃ~。インちゃん!」
「えっ?」
聞き覚えのある声にインが目を覚ませば、枕にしている瓦礫のすぐ近くでしゃがみ込んでいるピジョン。確かに彼女は、見間違えるはずもなく映っていた。
ピジョンはインが目を開けたのを見ると、笑みを浮かべて愉快そうに手を振ってくる。
「やっほ! インちゃん」
「なんでピジョンさんがここに!」
「呼んでくれたからに決まってるぅー! あっ、それとも呼んでない? 私の勘違い? それは失礼したにゃ~、ごゆっくり~」
それだけ言い残し、ピジョンは膝を伸ばし立ち去ろうとする。また暗い場所で孤独になるのは嫌だと、インは反射的に腕を伸ばし、ピジョンの腰に抱き着いて引き留める。
「待ってください! 呼びました! 呼びましたから!」
「にゃはは、もしかして暗いのが怖いのかな? インちゃんは可愛いな~、ウリウリ~!」
ピジョンは抱き着いてきたインの頬を、可愛い奴めとでも言いたげに指でぐりぐりと動かして揶揄ってくる。
「止めてください。怖かったですし、寂しかったのは確かですけど。それよりなんでピジョンさんがここに?」
ピジョンは廃人プレイヤーの間では、迷惑だと有名となっている。ファイもハルトも迷惑だと煙たがっていたのは、態度や言葉からして明らかだった。
それすなわち、ピジョン本人は昔からいると言っているのと同じ事。ならば高LVであるのは間違いない。進めたり検証したりするには、多少なりともLVが上がっていないとできないはずなのだ。
そのピジョンが、低LVしか入れないはずのイベントにいるのは何故なのか。いたとして、何故自分の所に来てくれているのか。疑問しか浮かばなかった。
「にゃはは、なんでだろうね~? 不思議だね~? 教えてほしかったら、インちゃんも何であの魔法少女ちゃんと居たのか話してくれないかにゃ~? スリーサイズでも可!」
茶化すように親指を立てて笑みを浮かべるピジョン。
寝る時間とはいえここは町中。そんな場所でスリーサイズを言ったらどうなるのか。想像して顔を真っ赤にすると、ピジョンの肩を掴んで揺らす。
「ちょっと何言ってるんですかピジョンさん! ライアは迷っている私のところに来て、町を案内してくれただけです!」
「それだけかにゃ? 本当に?」
「本当です!」
確かに最初にあったのはインが会場内で迷っているとき。そこで知り合って、魔法少女に一度目の勧誘。宇宙恐怖症の症状について教えられ、一回目のPVP勃発。危険なところを助けてもらって、二回目の魔法少女の勧誘。そこからまた明日と別れて今に至る。
黙っていてくれと頼まれたわけでもないので、インはすべてを話す。
「うーん。それなら私からも情報を開示するにゃ~!」
どうやらピジョンは、検証には様々な要因が予測できるからと、高LVと低LVで分けて作っているようだ。
今回使用しているのは第二アカウント。まだ育ち切っていない低LVのデータだ。だから本来低LVしか入り込めないイベント会場に、長くゲームをしているピジョンが入り込むことができているのだと語った。
だがそれでは、メインデータでイベント報酬を受け取れないはず。そこを一体どう考えているのか、インは不躾にも入り込んでみる。
「イベント報酬はどうするんですか?」
「それなら、このイベントは魔法少女側に着いたらアイテムや道具が貰えるでしょ。それを高LVの方に移せば問題ない」
「SPは?」
「SPも特に必要ないかな~。取ろうと思えばLV上げればいいだけだし。ほら私、エンジョイ勢だから~。第二アカウント作って検証やるくらいだし~? SPにはあんまり興味にゃいのよ~」
ピジョンにとって、SPすらも検証の道具でしかない。同じ道具なら、イベント限定かも知れないアイテムや道具を受け取っておいた方が、効果の検証含めてよっぽど面白みがある。だから魔法少女側にいるのだとも続けた。
思えば確かに、ピジョンはインの前で自分のSPを振っていた。
「それじゃあなんでピジョンさんはわざわざ第二アカウントの方で?」
立て続けにインが質問すると、ピジョンはちゃっかりと指で丸を作り、出来ていないウインクを一つ。
「おっと、こっからは料金を払ってもらわないとね~」
誤魔化すかのような、いきなりの料金設定。インは怪しいと思いながらも料金が発生、個人に関することだから踏み込むわけにはいかないと諦める。
「ここじゃ誰か見てるかもしれないから、場所を変えようか。ついてきて」
ピジョンはそう静かに言うと、華麗な身のこなしで町の中を進んでいく。その速さは、障害物なんてあってないような物。それでも時折振り向いては、ちゃんとついて来るのを確認してくるので何とか追いつくことができた。
こう改めて走ってみると、どこもかしこも廃墟のなれのような場所ばっか。寝ているほかプレイヤーは起こさないように走り切ると、ようやく足を止めるピジョン。
息切れ激しく、インがピジョンの見上げる先を見てみると、そこにあったのは他より少しマシくらいな廃墟。
相変わらず埃臭いのは変わらない。空気中で大量に散布されてあるのか、目の中にも少なからず入り込んでくる。家具類などもイスがかろうじて残っているだけ。電気なんかが当然通っているわけがなく、ピジョンは懐中電灯に似た道具を取り出した。
他よりましといっても、屋根とドアがあるだけ。隙間風は、ピジョンが何かしらの道具で埋めているのか入り込んでこない。
ピジョンは口角をニヤッと上げ、インが入り込むと同時にドア閉じて鍵をかける。
「まさか本当についてくるとはね~。もう少し危機感を持とうよ~」
何かを含んでいるかのようにピジョンはにやりと笑うが、インの注目は全く別のものに注がれていた。廃墟にあるもので、一番にインの興味を引くものといえばそう、クモの巣である。
ホラーゲームの廃墟でよく知られているクモの巣は、人の手入れが全く届いていない場所に張られていることが多い。
そのはず、クモはクモの巣を張れそうな場所、壊されなさそう場所、そしてえさがありそうな場所に張る習性を持っている。手入れが届いていないという事は、壊されなさそうな場所を暗示しているのだ。
さらにえさがありそうな場所だが、一見廃墟にえさとなりそうなものはない。クモのえさとなるあの黒い悪魔が食べそうな、人間の皮膚や髪の毛どころか、野菜も肉もない。
では一体何を食べているのか。答えは腐敗した植物や排出物に群がるハエである。これらに集るハエを捉えて食べるからこそ、クモは廃墟であろうがトイレやキッチンに巣を張るのである。閑話休題。
「クモの巣ですよクモの巣! ピジョンさんクモの巣がありますよ! ってことはここにクモちゃんとハエちゃんもいるはず! 探さないと!」
「……インちゃん?」
「もしかして他にも何かいるのかなー!」
ヒャッホーイ! と、明らかおかしなテンションで天井の隅に張られた蜘蛛の巣を指さし、歓喜の声を上げるイン。
今日一日アンとミミに会えなかったことが、それほど精神にきたしていたのだろう。
「いやインちゃん?」
「いいですよねクモちゃん! 良く人からは生理的に無理だと言われてますけど、その実ゴキブリちゃんとかハエちゃんとか食べてくれる益虫なんですよ!! 毒を持っている固体だって主にゴケグモ類に多いだけで、持っているのは少な――!!!」
「ストーーーーーップ! 虫好きが爆発しているのは分かったから、今は話を聞いてくれないかにゃ~!」
インの異常なまでの虫好きには、普段おどけたような態度を取るピジョンでもツッコミ側に回るようだ。それと同時に、早口でまくし立てる虫好きの加減を少し甘く見ていたと、肩を落とし頭を抱えて深く反省する態度を取るピジョン。いくら何でも、ゴキブリやハエにちゃんづけをする女子中学生がいるとは思わなかったようである。
だがそれ以上にこのままではクモの巣からクモに移り、そこから別の虫の解説に走って徹夜になりそうなのは明白。今のうちに話しておきたいことがあるのに、それで時間を潰されるのだけは避けたかった。
(はっ! またやった)
ハルトから解説を頼まれた時だけと言われていたのに、やってしまった。インは頭を下げて謝った。
「いやいいんだよ。趣味や好きなものに熱中できるのは素晴らしい事だから。ね? それでインちゃん。本題だけど、この町っておかしいよね?」
次は明日の七時ですかね。




