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初めての襲撃

 ライアの声と共に町にいたプレイヤー達は皆、はるか上空を見上げると、軍隊を彷彿とさせるほどの多くの宇宙戦艦が、轟音を立てて町に近づいてきている。

 その宇宙戦艦から乗組員とプレイヤー達が地上に降り立つ。そして、同じプレイヤー達に襲い掛かり始め、最初のPVPが狼煙を上げた。


「始まった!?」


 あちこちから爆音や剣で戦っているのか鉄の打ち合う音が、インの元にも聞こえてくる。

 住民の多くは逃げ惑い、自分たちだけでも助かりたいのか、近くの瓦礫の山を取り合うまでになっている。

 しかしさらに状況は加速的に変化する。瓦礫の下から、ライアめがけて先ほどの赤い双方が鈍く光る人影が飛び出した。


「えっと待って! 理解が追い付かない!」


「オーリホンシン! エセアキニソホノトメ! セアコウィタテロ!」


 人影はこの町の住民と同じ服装をしている。インからして訳の分からない言語を話しているので、同一とみて間違いない。それが狂暴化し、ライアへと真っ先に飛び掛かっていく。

 流石に敵襲は分かるが住民がなぜ変貌してライアに飛び掛かるのかは分からず、その場で停止して頭がいっぱいになるイン。


「あれは宇宙恐怖症の末期症状だよ! 幻覚と幻聴が酷くなって、遂に理性のタガがプツンと切れちゃうんだ。あれを解決するには、一つしかない!」


「エェェェェセアカヌレカズ!」


 ライアは解説すると同時に、ファイどころかハルトをも余裕で凌ぐほどの速度で走り出す。その速度はまさに神速。彼女は瞬きするその一瞬で、狂暴化した住民の頭に手を添える。


「これでもう大丈夫だよ。じゃあね」


 慰めるような、安心させるような優しい声音で住民を抑えると、ライアの手から光が漏れる。光はライアが手を放してその場から数歩下がるも、消えることはない。自立して住民の体へとまとわりつく。

 その間も住民はライアに腕を振り、噛みつきを行い、叫びをあげるなどの激しく抵抗。だが届かない。光は上空へと儚く消えていくと、住民も呼応するかのようにその場からいなくなっていた。


「……あの人は?」


「助かったよ。わたししか宇宙恐怖症末期の人を助けてあげられないからね。さぁ! わたしたちも行くよ!」


 ライアはそう言い残すと、インを置いて風をも凌ぐ速度で走り出す。その様はまさに、暴風のごとく。

 彼女の通った後は瓦礫が飛び荒れ、何もないまっ平に整地されていく。これだけの被害があれば、住民を守る事などできそうもない。そのまま力なく落下していき、何事もなかったかのように立ち上がった。よく見れば、結界のような薄い膜に覆われている。

 恐らくライアの特別な力なのだろう。彼女は侵略者を撃滅するとともに住民に被害がいかぬよう、一人一人にかけて『光魔法』アビリティのスキルで保護しているのかもしれない。

 その圧倒的なまでの速度と魔力は、分身でもしているのかと錯覚してしまう。別々の場所で同時に爆発が起こり、プレイヤー達が吹っ飛ばされる。そう思えば、また別々の場所で爆発が同時に起こる。

 それでも、果敢に希望を持って立ち向かうプレイヤー達。

 ここまでの速度に、使用MPが高そうに見える高出力な魔法を何度もぶっ放しているのだから、いずれ限界が来るだろうと信じて。

 それを、無駄だと分かっている少女がいる。


 インだ。

 彼女はライアから魔法少女服の効果を見せられている。あの新手のボスか何かに近い代物を。


(でもあれは確か、速度と魔力は上がらなかったはず)


 確かに自分の記憶通りでは、アビリティレベルがおかしかったのは覚えている。それならば魔力は納得がいくかもしれない。しかし速度だけは納得がいかないのだ。一体どういうカラクリなのか。

 そうインが考えている間も、吹っ飛ばされた内の誰かが、恨みがましく言い放つ。「天災だろこれ! 無理ゲーだ!」と。

 事実、無理ゲーに近い。見つかれば貫通魔力砲で100ダメージも食らう。そこから落下ダメージと隙を生じぬ二段目の魔力弾が飛んでくるのだから、低LVプレイヤーではHPなんて空になるに決まっている。


 それと同時に、インは不思議に思った現象に納得がいく。


(あのレーザー、熱量はそんなに大きくない? でもほんのりと春風くらいの温かみがある)


 インが戦闘とは関係ない虫について考えているうちに、誰かが防護魔法をかけた。魔力砲は無理でも、落下と魔力弾には対処できるのではないか、そこから一撃でも入れられるのではないか、と。

 しかしそれすらもライアは貫通する。魔力砲をぶつけた時点で、かけられたすべての強化を破壊し、落下に合わせて追撃してHPをゼロにしていった。

 これを見た魔法少女側のプレイヤーがぼそりと呟く。「もう全部あの魔法少女一人でいいんじゃないかな?」と。そして「俺達がいる意味があったか?」とも続けた。


「ライア」


 虫食いに納得が言ったところで、PVPだというのにNPCであるライアがプレイヤー相手に無双する場面に、インはつい目が向かってしまう。しかしそれもしょうがないだろう。目の前で神業を披露されているのだから。魔法少女側のプレイヤーのほとんども、ライアに意識を向けていた。

 だからこそ気付かなかった。背後から脅威が迫っているのを。


「背中ががら空きだぜ!」


 インはその何者かに背中を斬りつけられ、HPバーを黄色まで削られる。何が起こったのか分からず、振り返るころにはもう一撃入れられる。HPが減少していき、当たり所に助けられたのか赤ゲージで留まる。


「アンちゃん、ミミちゃん!」


 インはいつもの癖で二匹を呼ぶも、残念ながら輝石となり眠っているままだ。二人を起こすには、一日待つしか他にない。インは自分の唯一持っている攻撃手段、魔物の剣を斬りかかってきた男性プレイヤーに向ける。


「魔法少女に何もできず、やられるわけにはいかないんだ!」


 言うなれば、侵略者側のプレイヤーとしての意地だった。このまま魔法少女に何もできず一回目は負けましたじゃ、その悔しさも計り知れない。だからこそ、魔法少女にやられる前に一人でも多く狩りたかった。


「はぁぁぁぁあああ!」


 インは男性に斬りかかる。しかし剣士とテイマー、人間とエルフでは筋力の差は明らか。さらにいえば、インは自分で戦ったことなどあまりない。兄の見よう見まねで振りかぶった剣は、男性に軽く剣の腹辺りを叩かれ、いなされてしまった。


「キャッ!!」


「おいおいエルフの種族だよな? なら魔法で攻めて来いよ!」


 エルフ特有の尖った耳を見てそう判断し、遠距離攻撃に注意していたのだろう。少し拍子抜けしたような表情をした男性の、わざとらしい動作で放たれる横薙ぎに、インの剣は遠くに飛んで行ってしまう。


「貰った!」


 とどめの一撃とばかしに剣を振り上げる男性。回避行動をとるにも、速度もないインでは剣を躱せない。男性の勝利が確定する、はずだった。


「させないよ!」


 インの視界に一条のレーザーが映りこむ。それはまさしく希望の光であり、男性からしてみれば絶望と時間切れの光。一瞬でHPが蒸発してしまった男性は、立つこともできず光となってその場から消えていく。


「イン。遅くなってごめん! それとただいま!」


「おかえりライア。ありがとう」


 何気ない会話を少し挟みつつライアはインに回復を掛けると、杖をぐっと大きく掲げあげた。


「わたしたちの勝利だよ!」


 ライアの勝利を告げる言葉が町中に響き、三回の内一回目の襲撃は魔法少女側の勝利に終わった。正確には、NPCの魔法少女無双に終わった。

 これには、何の活躍もしてない魔法少女側のプレイヤーが素直に喜べるはずもなく、沈痛な空気が流れていく。


「なぁこれ、大規模PVPのはずだよな?」


「いや確かにそのはずだったはず?」


「いつから俺らはレイドボスを味方につけたんだ?」


「まさに寄生だな。やっべ、これじゃあいいとこ見せてパン――」


 等々、SP目当てで侵略者に行かなくてよかったと呆然としているが、インの元にいるライアには息を切らした様子もなく、話し方からして疲れてもいないようだった。

 次は六時、正確には十八時ですね。

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