VS グリージーウルフ
「お兄ちゃん。話と違うよ!?」
今までと打って変わり全く違うウルフのボスの容姿に、体をのけ反らせ驚き戦慄するイン。
(でもアンちゃんは上に)
そう、どれだけ強そうな容姿に変わろうが、アンはまだグリージーウルフの頭上にいる。このまま同じ攻撃を続けていれば勝利は揺るがない。インはそれほど危機的な状況だと思わず、勝ち誇るかのように胸を張っていた。上からインの顔面に張り付く白いアリが見えさえしなければ。
「アンちゃん!?」
何故さっきまでグリージーウルフの頭上にいたはずのアンが、インの顔に張り付いているのか。なぜ蠢くようにして足を使いもう一度跳躍してインのすぐ近くに着地するのか。その答えは実に簡単。
(湯気?)
グリージーウルフの変異種から、オーラのように立ち上る湯気。それがダメージとなってしまうのか、それとも吹き飛ばされそうになるほどの勢いを持った蒸気なのだろう。どちらなのかは分からないが用心した方が良いと判断して、アンは飛び降りてきたようだ。
しかしこうなると、戦闘は振り出しに戻るどころか相手が進化して強くなっている状態で、戦わなくてはいけなくなってしまった。ミミだって乾燥肌の事もある。戦闘中ずっと水をかけるわけにもいかない。
(どうしよう。せめて動きを封じることができれば……動き)
インはミミを見上げると、せめてもの威嚇をするように触手をゆらゆらと動かしている。
「これだぁ!」
インはアンとミミに作戦を伝えれば、これにアンは主の正気を疑うかのようにのけ反る。そしてミミは勝てるのであれば何でもいいのか、勝手に『縮小化』してインに頷く。
「よしっ行くよ、アンちゃんダッシュ! ミミちゃんは潜って!」
掛け声とともにアンとインは別方向に走りだず。同時にミミは、インの足に自分の触手を巻き付けると地中深くにもぐりこむ。
今この場でグリージーウルフの注目を集めているのは、さっきまで頭上で一方的に噛みつきを行っていたアン。勝手に狂乱した責任を押し付けるかのようにグリージーウルフは、歯茎を剥き出しよだれを垂らし、怒り狂った修羅のような荒々しさでアンに突撃していく。その姿は、進化前のグラスウルフの面影を一切見せない。ただただ本能に従うかのように、インは思えた。そしてつい考えてしまう。
(あれっ? もしかしてこれ。見た目以上に簡単に倒せるんじゃ?)
怒りで強くなるのは確かだが、それよりも厄介なのは冷静な判断を常に下してくる奴だ。確かに本能のまま暴れまわった方が強いときもある。しかしそういう時に限って、必ずどこかに脳の代わりを果たす部下がいる物だ。だが今の部下をすべて倒してしまったグリージーウルフには、それがいない。
さっきまで冷静に物事を考えていた存在が、目標のアンだけを見て猪突猛進しているのだから。絶対に許さないと、喉に負担がかかるような狂気を叫び、四本の足でがむしゃらに走り続ける。インの目から見ても、決して追いつく様な速度ではない。
楽にインは目的の場所に着く。ここから彼女は、地面に草原でとれたただの水を広範囲に何度も振りかける。その数十メートル先には、狂獣に追いかけられているアン。巻き込まれないようにある程度インは離れるとその場で待機。後数メートル。数センチ。そして今、アンがその上を通過する。
別の方向からどうにかこうにか遠回りしていたアンが、水の降りかかった場所を飛び越える。
そのすぐ真後ろにはグリージーウルフ。奴は速度を落としたアンをスタンプしようと、足を持ち上げる。その眼は、苦労して追い詰めた蚊を叩いて潰すような、喜びが混ぜられていた。そしていざ踏みつけようと勢いをつけ、
「ミミちゃん。今だよ!」
足に結ばれている触手を掴んだインの掛け声と共に、ミミがグリージーウルフの腹を突き上げるかのような形で伸びあがった。口から唾液を漏らし、十四メートルほどと遥か宙へと放り投げられるグリージーウルフ。その瞳は上手くいかない怒り、憎悪にまみれ、ミミを睨みつけていた。
そこにミミの追撃。ミミは宙に持ちあがったグリージーウルフをその場で触手を扱い、がんじがらめにすると思い切り地面目がけて投げつけた。グリージーウルフが、隕石のように線を描いて地面へと叩きつけられ、同時に軽い地響きを起こる。この攻撃には相当なダメージを負ったのだろう。それでもなお、怒りのままに周囲を威嚇し足を動かして立とうとする。だがその行動すべてが、上手くいかない。
(やっぱり、あのグラスウルフが進化した奴、見掛け倒しだ!)
インは先ほどより冷静を失うどころか、さらに速度まで低くなったグリージーウルフにそう評価を下す。
そう、グリージーウルフは進化の際に他のウルフを倒して、新たな力を手に入れることに成功した反面その実、LVが1に戻ってしまったのだ。
そのせいで今までのステータスが三分の一。見た目が強そうに変化したのに、仕様のせいで弱体化して見掛け倒しになってしまった。こんな見え見えの罠、グラスウルフのままなら決して引っかからなかっただろうに。
当初の予定では、インが水をかけたことで酸素が少しでも薄くなっている場所をミミが感知して飛び出し、自由落下の拘束のまま落ちてきたグリージーウルフを、アンが噛みついて攻撃するはずだった。だがその必要すらもうない。グリージーウルフには、再び巻き付いてくるミミの触手から抜け出せないのだから。
もうこうなれば速い。
ミミはグリージーウルフの変異種を何度も持ち上げ、その度うどんをこねるかのように地面へと叩き落す。
立ち上がる気力すらないグリージーウルフに、万に一つの抵抗する力は残ってない。何度も叩きつけられた末、狂乱と悲しみにまみれたウルフのリーダーは、止めとばかりにアンに噛みつかれ、五メートルほどある巨体を光に変え消えていったのだった。
水だけじゃ感知できないと思いますし、広範囲に濡らすって相当の量が必要なんですけどね。その為の触手です。分かる人は分かる特性のような物ですね。テンポを重視したせいで解説できなかった悲しみ。
あっ、次七時です。




