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VSグラスウルフ戦 2

 

 勢いよく投げ飛ばされたアンは風圧の中を無防備にも突っ切り、グラスウルフの腹にびっしりと生えそろっている毛を口のはさみで掴む。そこから体全身をブランコのように徐々に強弱つけて揺らし、グラスウルフの肌にしがみついた。


「アンちゃん! グラスウルフの頭まで登って!」


 もしインの筋力が高ければ、そのまま勢いよくぶつかって激突し、死んでいた可能性が高かっただろう。無茶な作戦を練ってくれた主に不満を覚えるも、アンは今やることを最優先に腹を伝ってよじ登る。

 アンから見れば、生えそろえる一本一本の毛は、まるで大きな木に見える。ぐにゃりとした肌の上はまるで芝生の下に水たまりがあるようで、さしずめアンのいる場所は水分を過剰に補給した毛の森といった所だろうか。少しブヨブヨした地面を伝い、アンはグラスウルフの頭を目指していく。


 しかし、そんなアンをよそにグラスウルフの目はインを移す。アンが見えなくなったので、今見える範囲にいるインに狙いを定めたのだ。

 グラスウルフが低い音を出して唸ると足をギロチンのように大上段に振り上げ、そのまま何をするでもなく足を静かに置く。


(やった! うまくいった)


 ここでなのだが、人や動物は、自分より小さい生物に肌の上を歩かれるとムズ痒いと感じてしまうもの。

 そしてインが考えついた作戦とはウルフ、いや犬の弱点。そう、ノミである。

 人の住む場所にも平然と生息し、人の皮膚片や髪の毛を食べて生息するノミは、犬や猫、時には人にすら寄生して血液を吸う前に痒みを与えてくる。だからこそ、ノミと同じ攻撃を取ればいいと考えついたのだ。

 あいにくとグラスウルフの全長から見て、アンの大きさは良い霧隠れになる。実際、グラスウルフの目にはどこにアンがいるのか分からない。


「ワウッ! ワオォォォンンーー!」


 インに何とか攻撃しようとするも、アンが肌の上を不躾に歩いてくるせいでくすぐったいせいでそれどころじゃないと判断したらしい。グラスウルフは恥を捨てて、その場で腹を地面に擦り付け始める。

 しかしそこにはもうアンはいない。腹を伝い脇まで来ると、そこからはすぐに背中まで駆け上がる。


「がんばれがんばれアンちゃん! いいぞいいぞアンちゃん! そのまま頭にゴー!」


 流石に背中が痒くとも、オオカミが相手に腹を見せるのは服従の証である。データとはいえグラスウルフの、それもフィールドボスが侵入者にそのような事はできない。痒くて全身うぉふるわせるがそれでも、それはもう攻撃を忘れて必死に耐え続ける。

 それを知ってて、インは片腕をオー! と突き出しアンを応援する。


 そんなインの応援に答えるかのようにアンは、作戦の通りグラスウルフの頭に到着する。そして今までやられてきた恨みを晴らすかのように、口を大きく開いてガブリ。

 この痛みで、グラスウルフもアンの作戦に気づいたのだろう。頭を振り払い、それこそ前足で掻きむしるように動いてその場で暴れはじめる。だがアンは筋力が高いためがっちりとしがみついて放さない。

 せめて頭をこすりつける障害物があればいいのだが、インから見てそのようなものは存在しない。草原ではあるものの、川も木も見当たらない。


 グラスウルフが疲れて休憩すればガブリ。そして暴れまわり、疲れ果てればさらにガブリ。

 これを繰り返す事五十回。グラスウルフの体力を半分まで削り切る。


 ここで、グラスウルフが操られるかのように動きを止める。顔を持ち上げて、太陽へと届くように吠えたのだ。

 するとどうだろうか。インに迫る足音が聞こえ、徐々にその数を増やしていく。香る薬草は揺れ動き、遂にグラスウルフに付き従う進化前のウルフがぞろぞろと姿を現した。


 しかしこのまま頭をずっと噛み続けていれば確実に勝てる。なんせ、ウルフのターゲットとグラスウルフのターゲットは同じになるよう設定されている。そして当然、グラスウルフのターゲットは現段階で一番ダメージを稼いでいるアンだ。そしてアンは、俄然頭の上にいる。攻撃が絶対に届かない位置にいるのだ。


「来た! アンちゃんこっちこっち! 飛び降りて!」


 そんな状況の中、インはアンに降りてくるよう腕を広げて指示を下すではないか。

 実のところインは、フィールドボスを倒すためにこの場所にやってきたのではなかった。グラスウルフが呼び続ける、ウルフを倒しに来たのだ。

 それというのも、ウルフが落とすウルフ肉は、魔物のえさを作るアイテムの一つ。今回はそのアイテムを集めるのを目標にしていた。

 さらにこのアイテム。草原のような低LV帯では低確率ドロップなうえ、なかなかウルフが出現せず、偶に群れでいるのを見かける位。いっそ効率の良い狩り場所がないか探していた所、アンへのお詫びも兼ねて、ハルトがこのグラスウルフについて教えてくれたのだった。


 アンがグラスウルフの頭から飛び降りると、インは抱き留めダメージをゼロにする。


「アンちゃん! ジャンプしてウルフに噛みつき!」


 こうなれば後はもうアンの独壇場。

 むしろ、運営の調整ミスともいえるのではないだろうか。

 アンが二回噛みつきを行うと、ウルフは光になって消えていく。

 噛みつき捨てると、次のウルフへ。また捨てると、次のウルフへと飛び掛かる。この間ウルフとグラスウルフは、インに見向きもしない。

 たったこれだけで、無限に湧き出るウルフからドロップ品と経験値が手に入るのだから、ここがどれほど効率的な狩場なのかよく分かる。


「ウルフのお肉ゲット! アンちゃんやっぱ最高だよ!」


 さらに、経験値まで手に入るという事は、自動的にアンのLVも上がるという事。魔物のSPは勝手に割り振られるためか、徐々にウルフどころかグラスウルフですら追いつけなくなるほどアンが速くなっていく。


 しかしここで痺れを切らしたかのように見える、時間切れの行動。こんなウルフだけを狩り続ける不測の事態など、当の昔に別プレイヤーがやっている。故に、運営はある程度時間が来ると、グラスウルフが『木魔法』アビリティを使うように設定していたのだ。


 グラスウルフの目が怪しく緑に光り輝く。

 地面から蔓のような植物が出てくると、ターゲットなど関係なしに今この場にいる侵入者に向かって動き出す。


(時間切れか~。それにしても木魔法……。ファイも使ってたけど、魔法良いよね! 虫ちゃんの為に取っておこっかな! それとも巣作りの意味合いで土魔法がいいか。それならアンちゃん達のために家も欲しいな)


 植物の蔓は、もう既に町へと死に戻りする気満々のインを縛り上げると、今度はアンへと伸びていく。


「もういいよアンちゃん! 倒しちゃって!」


 調合素材となるウルフの肉をいくつか手に入れている時点で、インの今回の目的はもう終わっている。いうなればここからは単なるおまけ。また新しい仲間を見つけてきて、再挑戦すればいいだけである。


 それでもインは、LVの上がったアンがどれほどグラスウルフを削れるのかなんとなく気になり指示を下す。

 アンは伸びてくる植物の蔓をウルフの顔を足蹴に飛び乗ると、毒々しく光る緑の目を向けるグラスウルフへと向かっていく。

 この間も蔓は、インを縛り順調に固定ダメージを与えていくが、LVの関係上HPはそれなりにある。まだまだ耐えられそうだ。


 一本だけじゃなく二本、三本といくつも繰り出される蔓を、アンはLVが上がったからか躱し、飛び乗り、グラスウルフに肉薄する。


「アンちゃん噛みつき!」


 インの指示通りアンは飛び出し、グラスウルフの足に齧りつく。

 先ほどとは違い、いくつかLVが上がっている状態での噛みつき。グラスウルフのHPバーを三%ほど削り上げるも空しく、一撃を貰いアンは光に包まれ消えていく。


(戻ったらいっぱいなでなでしよう!)


 アンが倒された事により、お気楽に考え事をしているインへとターゲットが向く。

 グラスウルフや他のウルフがインに殺到する。防御が低いのと、既に固定ダメージを受けていたのも合わさり、インはすぐ光に包まれ町へと戻っていった。


 次は二十四時かな~やっぱ。


 誤字脱字報告ありがとうございます!

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