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決別

 指を突き付けられたインは慌てた様子で手を振り始めた。


「待ってください! 今のスリーさんなら良いですよ」


 譲ります譲りますとでも言いたげに、一歩退いて見せるイン。

 その様子に嘘偽りは見られない。虫の為なら一番に応じてきそうだというのに。


「自分でテイムしなくていいのか?」


「そんな訳ないじゃないですか! 黒鎌虫さんも仲間にしたいです! けどスリーさんになら良いかなって。虫ちゃんのテイム仲間として!」


 屈託のない。それが真実とでも言いたげにインは笑う。

 前のスリーであれば、インはすぐに反抗したことだろう。黒鎌虫さんを可哀そうな目に合わせるつもりだろうと。

 だが、今のスリーはアン達と関わってきたことで変わった。

 自分から撫でに行った。抱き締めた。決して、虐待を加えるようなことはしなかった。

 今のスリーなら大丈夫。インからしてみれば、そう判断してのことだろう。

 それでも諦めきれないのか。「黒鎌虫さぁぁん!!」と抱き着き顔を埋めているが。


 調子が狂うとでも言いたげにスリーは後頭を掻く。


「今のお前と戦いたいだけだ。こいつは」


「おいレイ!」


 自分の隠したいことをあっさりと言い当てられ、スリーは異議を込めてレイに詰め寄る。

 これではわざわざ戦うと口にした意味がないだろうと。


「どういうことですか?」


「ああもう! 決別だよ決別!」


 やはり意味が分かっていないのか、再度インは小首をかしげる。


「私は今までお前に勝ったことがない。だから新しい魔法の道へ進むため、最後に勝たせてもらう!」


「門出みたいなものですか」


 ふーんとインは納得したかのような声を出す。そして持っている魔道具を全てスリーへと渡した。


「私は使いませんので」


 それだけ言うと、インとその仲間たちはスリーの対面へと来るように位置した。続いて黒鎌虫に手を振る。


「それと黒鎌虫さん! スリーさん側に入ってください!」


「おい虫! ふざけて――」


「新しい道に進むためなんですよね。なら、今のうちに黒鎌虫さんと一緒に戦うべきです」


 インの目は既に、黒鎌虫をスリーにテイムさせる気満々であった。それとどこか、怒っているようでもあった。

 言われるまでも無いと、スリーは先ほどのリンゴを食べたことで増えた自由枠で【調教】を取る。

 そしてインに魔物のえさを投げ渡してもらったことで、黒鎌虫のテイムを完了させた。


 レイは邪魔にならない位置に付いて戦いを見守る。


「先に確認しますけど、チーム同士はお互いにダメージが入らないようになっていましたよね?」


「決闘機能について知らないのか?」


 決闘機能とは、チーム内で意見が割れた時、それを公平にジャッジすべく使われる機能のことだ。

 終わった後は両者の状態を戦闘前に戻るため、元々の行動には支障がでないようにされている。


 インの場合は他とレベル差が離れすぎている為、話し合いやじゃんけん等で判断することが多いので化石化していたりする。


「じゃあ、準備は良いですね」


「ああ! 行くぞッ!」


 そしてレイの【破拳】を繰り出した音をきっかけに、今決闘の火蓋が下ろされた。


 *  *  *


 決闘が始まってかれこれ5分。お互い、一向に動こうとしなかった。

 インは虫たちに指示を下すことなく、その幼い碧眼でスリーを見据えている。


「おいおい。攻撃して来いよ!」


 スリーは来るよう手で煽る。しかしインは動かない。

 このままだともう埒が明かない。攻め込んでやろうかとスリーが目論んだところで、その拮抗は崩れた。


(アンはどこに!)


 インの近くにアンがいない。

 それに気づいた瞬間、何か金属のような音が響いた。音も影もなく忍び寄ってきたアンのハサミを黒鎌虫が止めたのだ。

 現状アンが使えるアビリティのひとつ、【不視の幻影】だ。このアビリティでアンは姿を消していた。


 気づいた時にはミミが動き出していた。その伸びた太い紺色の触手をも黒鎌虫が防ぐ。


「不意打ちかよ」


「気づかれちゃいましたけどね。けどこっからですよ」


 インの指示でアン達が本格的に動き出した。


「やるじゃないか!」


 軽口を叩きつつも、心の中で苦言を呈するスリー。

 流石は今までずっと虫たちを率いてきたイン。改めて対面すると分かる。

 虫たちの連携にほとんど無駄がない。隙を誘発させるかのような激しい動き。ミミに気を取られれば、いつの間に近くにいたウデが突進してくる。


「黒鎌虫さん少し前に出すぎです!」


「お前! 黒鎌虫は今私の味方なんだぞ!」


 だがインの言葉で黒鎌虫の動きがよくなっているのも事実だ。

 ミミの不規則な触手やアンのハサミに対応でき始めている。しかし逆を言えば、対応に精一杯で攻撃できない。


「負けられるかっ!」


「アンちゃん退避!」


 スリーは手元で【爆封石】を起爆させた。爆発はアン達と黒鎌虫の二陣営を分断させる。

 一時の休息。ひとまずは考えられる時間ができたといったところだろう。


「おいおい。お前、前戦った時は手加減してたな」


「していませんよ。連携に慣れていないうちに攻めた方が良いかなって」


「そういう無自覚なのがきついんだよ!」


 スリーはそれぞれ違う玉を二つ床へと叩きつけた。


「ミミちゃん【送還】!」


 存在感を放つほど大きな体を持つミミは、輝石となってインの手の中に納まった。

 それとほぼ同時に、玉は弾けて強烈な音の爆発と閃光を生んだ。


「アンを狙え黒鎌虫!」


「来てミミちゃん!」


 黒鎌虫の鎌は守るために伸びたミミの触手を簡単に斬り落とした。

 黒鎌虫の勢いは止まらない。鎌は着々とアンに迫っていき、頑丈な床に阻まれ静かに音を鳴らした。


「【光球】」


「見せてもらいましたから」


 インは手を突き出したまま立っていた。光球を鎌の平面に当てずらしたのだ。

 ミミの触手は太く存在感がある。視線を奪い、その隙にインが動いたのだ。


「ひとつ、質問いいですか?」


「なんだよ」


「決別って言いましたよね。魔道具を捨てるんですか?」


 突き刺すようなインの瞳。真剣に聞いているのだろうと察したスリーは、「私の自由だろ」とだけ返した。


「スリーさんの魔道具すごかったです! 色々飛び出して面白かったです!」


 本当にすごかったのだと表すかのように、体全体で表現するイン。


「おいおい、私の魔道具を大道芸の道具扱いか?」


「違いますよ!」


 憤慨するインの反応にスリーは笑って見せた。


「まぁな。お前に気づかされたんだよ。本当にやりたいことを」


「本当に……やりたいこと?」


「私は全種類の魔法を使いたかったんだよ。けど魔法は種類が多すぎた。だから私は、簡単に色んな力を使える魔道具に逃げた」


 インは「それでどうしたんですか」と食い気味に続きを促してくる。


「けど、それでも魔法を使いたい気持ちは変わらなくてさ。その時、お前が言ったんだよ。ゲームはやりたいことをやる場所だって」


「だから魔道具とは決別すると」


「そうだよ。悪いか?」


 これこそが答えなんだとスリーは真向面から告げる。その目にはもう、迷いなんてなかった。

 これからは魔法に生きる。魔道具を捨て、新生スリー様の誕生だと。

 その覚悟を瞳に見たからだろうか。インは目を見開き、笑った。


「戦いを中断させてすいませんでした。それじゃあ続きをやりましょう!」


「乗り気だな! 今度こそは負けねぇよ!」


 インとスリーは決闘を再開する。

 インはいつも通り、ゲームを楽しむために。スリーはこれからの為に。全身全霊で戦いに興じる。

 そして――、


 スリーの顔は天井を見上げていた。左手には黒鎌虫の輝石。右手にはもう、魔道具ひとつ残ってはいなかった。


「ああクソッ! 結局一勝もできなかった!」


 腹の底から声を上げるスリーの表情は、ダンジョンに入る前と違い実に清々しかった。

 

 なんでインが勝つんだよ。絶望

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