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NPCの死

(危なかった)


 スリーの姿をしたインは誰にも見られず一息つく。

 恐らく人型は温度に反応して動いていたのだろう。ミミの粘液で何度か滑らせようとした。

 しかし人型はその全てを躱して見せた。何度か【爆封石】の爆発に釣られていた様子もあった。

 ウデの触肢で砕けてくれなければ、やられていたのはこちらかもしれなかった。


「ありがとう。アンちゃん! ミミちゃん! ウデちゃん!」


 アン達も指示を聞いている内に思い入れがあったのだろう。スリーの姿をしているのにもかかわらず、三匹ともインに抱き着いていた。

 そんなインの元にスリーも近寄った。そして少し、気まずそうに眼を逸らす。


「少しは認めてもいい」


「はい! 助かりました!」


 恐らくスリーにとっては褒めたつもりだったのだろう。その口調は少し恥ずかし気な物であった。

 そしてすぐ、レイに「何が認めてやってもいいだ」と突っ込まれる。これにスリーは「うっさいなぁ!」と高い声で誤魔化した。


「それよりその黒鎌虫は何だよ!」


 話しを変えようとスリーは黒鎌虫を指さした。

 アン達三匹も、それに倣うようにして黒鎌虫に警戒心を向ける。


「待って待って! この子は味方!」


 スリーと黒鎌虫の間、インは「誤解だよ」と割って入る。

 ここに来るまでの間、ずっと守ってくれたんだからと。今回の人型を倒すのにも貢献してくれたんだと。

 倒さないでとインは黒鎌虫に抱き着いて懇願する。


「敵だとは聞いてない」


「あっ……そうでしたね」


 早とちりしたとインは視線を逸らす。その耳は少し赤く染まっていた。

 インは軽く咳払いをして、話しを本題に戻す。


「この黒鎌虫さんはですね……。何となく仲間です!」


「何となくってなんだよ!」


 そう言われてもインには分からなかった。

 人型に助けてもらって以来、ずっと近くで守ってくれた存在としか。

 その際、「かっこいいね!」とか「可愛いね!」と身体を擦っていたりしたが。


「多分この実験施設が関係してるな」


 そう言ってスリーは、探索の再開がてら得た情報を共有した。


 *  *  *


「ええぇーー!」


「何だよ、うるさいな」


「じゃ、じゃあ黒鎌虫さん元人間なんですか?」


 インの質問に、黒鎌虫は首を縦に振る。その様子はインの目から見て、少し答えたくないように見えた。

 どうやらスリーの言った、人間と魔物の体を入れ替える実験は本当のことらしい。

 わなわなとインは声を震わせる。


「だって! だって!」


「だって、何だよ」


「そりゃ可愛いに決まっているじゃないですか!」


 スリーは顔を引きつらせた。正確にはレイも顔を少しだけ逸らし、黒鎌虫に至っては少しこけてみせた。

 インの中では、着ぐるみの中に人間が入って演技するのと同じであった。


「お前こいつ元人間だぞ! 中身が男の可能性もあんだぞ!」


 その言葉に黒鎌虫は数歩後ろに下がる。しかしそんな些細なことでインが止まるはずなかった。


「今は黒鎌虫さんの姿です! ちょっとその黒鎌触らせてください!」


 グイグイ来るインの圧に黒鎌虫は押されていた。

 少しの思考を要した後、黒鎌を差し出してされるがままに徹する。


 少し引き気味のスリー。そんな彼女にレイは「いいのか? 自分の身体だぞ」とインを指さした。


「ああ? ああ、いんだよ。偶にはな」


「お前どうした」


 信じられないといった形相を浮かべるレイ。

 スリーは少しニヤリといたずらな笑みを浮かべ、大声で宣言する。


「浮気していいのか? ならこっちの子たちは私が貰っていこうかなぁ?」


 その言葉は効果抜群だった。インの手は石のように硬直。固まった首をぎぃぃとスリーの方へと向けた。

 スリーはアン達の頭を撫で始める。インにも聞こえる声で「意外とお前ら触り心地良いな」と言って見せたりもした。


「ぐぬぅ」


 三匹を任せるといった手前、強く出れないイン。


「虫は一度落ち着け」


 スリーはアン達三匹から離れる。遅れてインが飛びついていくのをしり目に、黒鎌虫に問いかける。


「お前が何者だとか、そういう正体は突き止めない。それは私らのやるべきことじゃないからな」


 インはすっかり忘れていることなのだが、本来はダンジョン探索をしにきているのだ。

 スリーとレイは、ピジョンのように裏設定など興味ない。ただクリアして、お宝を手に入れて、LVアップをしに来ているだけなのだ。


「お宝のありかと脱出口を教えろ。ついでにこの入れ替え現象も解決してやる」


 どうだと不敵に笑うスリー。

 その姿にレイは少し驚きの表情を見せていた。


「どうした? お宝と脱出口を教えてくれたら、お前を元の人間に戻してやるって言ってんだぜ」


 黒鎌虫はその言葉に、自分の首を掻っ切るような仕草をして見せた。

 体勢低くスリーは構える。しかし黒鎌虫は攻撃を仕掛ける様子はない。

 ならば一体、なぜ首を掻っ切る仕草をしたのだろうか。スリーは顎に手をやった。


「もしかしてもう、黒鎌虫さんの体は」


 インの言葉に、黒鎌虫は首を縦に振った。

 それが何を示すのか。スリーたちも理解したようだ。


(元に戻っても元の体はないなんて……。そんなの)


 恐らく意識は完全に消滅することになるだろう。

 そして人間の方に入れられた黒鎌虫本体の意識も、もう消滅していると見ていい。なんせ消えている。

 まさか霊体になってこの場をさ迷い歩いているなんてことは無いだろう。


 黒鎌虫はイン達が来るよりずっと前から施設にいた。きっと黒鎌虫の返事は真実。

 だからこそ黒鎌虫はスリーの交渉に渋っているのだろう。


「分かった。じゃあ今はお宝と脱出口の場所だけ教えろ。それでいい」


 黒鎌虫は首を縦に振り、先頭を歩いて研究所を案内し始めた。


 *  *  *


 黒鎌虫に案内に従うイン達一行。

 しかし資料や使い捨ての魔道具がお宝なのだろうか。特にこれといってお宝と呼べそうなものは無かった。

 研究所を右に左に、進んでいってはまた戻り。

 途中見つけた挟み撃ちが起きない部屋で一休み。その間、インはずっと黒鎌虫も含みアン達と遊んでいた。

 それから再び探索を開始する中で、誰もが違和感に気づいていた。


「おい黒鎌虫。さっきからグルグルと同じルートじゃねぇか」


 黒鎌虫は確かにお宝のアリカを提示してくれた。

 しかし脱出口に関しては一向に向かおうとしない。いや、向かおうとはしなかった。

 イン達は休憩をもう、挟むほど散々歩き回っている。研究所の構造も概ね分かった。まだ行ってないなという場所にもおのずと見当はつく。

 それを踏まえたうえで奇襲する気も無いのだろう。


 黒鎌虫はその場で立ち止まる。まるで図星だとでも言わんばかりに。


「危害を加える気が無いのは分かっている。でなきゃ休憩や、人型を倒してくれようとはしないはずだからな」


 黒鎌虫は再び歩き出そうとする。しかしそんな簡単な逃げを、スリーは許さない。


「黒幕と脱出口は同じ場所にあんだろ。元来、ダンジョンというのはボスを倒して脱出ってのが定番だからな」


 黒鎌虫はゆらゆらと首を揺らした。黒鎌虫はゆっくりと振り返り、イン達に黒鎌を構えた。


「ああ、そうかよ。ならこっちも抵抗させてもらう! アン、ミミ、ウデ!」


 スリーの指示に三匹は構えた。レイも同様だ。いつでも殴りかかれる体勢に入っている。

 唯一この場で戦闘態勢に入っていないのはインだった。インだけが黒鎌虫に近づいていった。


「お願いです黒鎌虫さん。私たちをここから出してください」


「おい邪魔だ虫野郎! お前が大事にしてんのはどっちの虫だ!」


「正直私には分かりません。けど、黒鎌虫さんが優しいのは分かります。会って間もない私の指示を聞いてくれたり、率先して人型を退治してくれたり」


 インの脳裏をよぎったのはライアと酒虫の仁之介だった。

 友達がいなかったことへの孤独、果たすべき使命、そして死を宣告された時の恐怖。それをライアは感じていた。

 酒虫の仁之介は精霊樹に合うために、多くの武家人を侍らせていた。それも絶対に生き残りたいがゆえだろう。

 この世界のNPCは生きている。復活はできないのだろう。


 インは「私達がここから出るために死んでくれ」と言っているも同然だった。

 その上でインは、逸らすことなく黒鎌虫をまっすぐ見据える。


「けど、それでも私たちはここから出たいんです。お願いです! 黒鎌虫さん!」

 

 少しでも刃を振るえば当る距離。黒鎌虫の刃は光を反射させ……、その場から動くことは無かった。

 刃は何も切断せずに下に降りる。黒鎌虫は無言で振り返り、首を動かしていた。今度こそちゃんと案内してやると言わんばかりに。


「無謀だぞお前!」


「肝を冷やした」


 戻ってくるインに、スリーたちは次々に言葉をかける。若干アン達も怒っているのかハサミや触手等で叩いてくる。

 それにインはただ一言、「私も緊張しました」とだけ返した。


「けれどこれで脱出できるようになりました」


「その点は褒めてやる」


「ですのでスリーさん。少しお願いがあるんですけどいいですか?」


 上手くいくか確証はない。今自分たちに起きている入れ替え現象のこじつけなのは分かっている。

 けれど失敗すれば、あの黒鎌虫の内にある意思は消えてしまうことだろう。

 それだけは嫌だった。インにとってそれだけは、それだけは絶対に嫌だった。


「無理を言うのは分かっています。ですけどスリーさんだと見込んでのお願いです」


「おう、この大天才スリー様にできないことは無い!」


「恐らく私たちの意識入れ替え現象は、魔道具だと思います。それは、この実験施設に落ちている資料が証明しくれています」


 インは一度息を吐きだしてから言い放つ。


「なので、スリーさんに作ってもらいたいんです。この入れ替えを留まらせる魔道具を」


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