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ヤドカリ戦 決着

 ヤドカリとの攻防でフィールドはすっかり、変貌の様相を呈していた。

 砂地のフィールドはヤドカリの泡によってぬかるんでしまっていた。動くたびに余計に体力を奪われ続けてしまう。

 だがヤドカリは気にもしていない様子であった。


「おいレイ! 固さには固さをぶつけろ!」


「何言っている」


 濡れ砂が日光を吸収して足元が熱くなってくる。遠くにいるせいかヤドカリが放つ泡音が鳴りやまない。

 ぽたぽたとスリーの汗がさらに地面を濡らしていく。

 そろそろ回避どころか攻撃すらまともに難しくなりそうだ。

 レイへと向かったヤドカリの攻撃を、スリーは【爆封石】を伴った爆発であらぬ方向へと逸らしきる。


「熱いだろうが!」


「まぁそう褒めるなって。いいから私の言う通りにしろって」


「……畜生が!」


 息も絶え絶えとなってくる。猛攻と日差しのおかげで体力なんてもう空も良いところだ。

 口の中が変に塩辛くなるのを感じつつ、レイは突撃する。既に無くなった体力を振り絞り、雄たけびを上げてヤドカリに接敵。


「その前にってな」


 地面から押し上げるように岩を生成させる小さな針。スリーはそれをヤドカリのすぐ近くの地面に飛ばした。


(針は後三本)


 またも地響きが足の自由を奪いに来る。

 だが元より重いヤドカリにとってその衝撃は意味をなさない。

 威風堂々とまでは行かないが、キッチリとした佇まいだ。


「決めろよレイ! そして虫は腰ぬかせ!」


 それはスリーも分かっていた。だからこそ突き出した岩へとさらに針を飛ばす。

 伸び出た岩の隣。そこからさらに岩が突き出した。

 震動と全くレイの方をずっと見ていたヤドカリは岩の存在に気づかない。岩が杭のようにハサミを押し出した。


「お前にしてはってところか」


 ハサミとハサミとの距離が近くなる。

 そこへすかさず、レイが拳を振り上げる。この一撃に全てを込める勢いで。握り締めた拳を白く光らせる。

 打撃系のアビリティ【破拳(はけん)】であった。

 レイの持つ攻撃手段の中で一番を誇るスキルだ。


「オラッ!」


 ヤドカリのハサミをぶん殴る。

 スリーの【爆封石】と負けず劣らず、いやそれ以上の打撃音が広がっていく。

 一瞬にして広がる一陣の波状が、蒸し暑い空気を拡散する。


 そして、ガキンッと金属にも似た音が確かに届いた。


「ざまぁみろってな」


 スリーが誰に聞こえずとも呟いた。


 視線の先、パキッとヤドカリのハサミにひびが入っていた。

 それだけじゃない。ヤドカリからすれば内側に響く一撃というのは、今まで味わった事の無い経験だったのだろう。

 ドシンと風を起こしてその場に崩れ落ちる。


「終わりだな!」


 ヤドカリのハサミを壊して止めを刺して終わり。ひびが入ったのであれば【爆封石】でも事足りるはずだ。

 意気揚々とスリーが走り出そうとし、前のめりに倒れ込んだ。


(ここまで来て!)


 長引いてしまったヤドカリとの戦闘。日差しと悪くなっていく足場。

 もう体力の限界であった。スリーの足から急激に力が抜けていく。

 それはレイも同様だった。咳き込み、足は笑い、腕を力なく垂れ下げていた。


(後は投げるだけ! 投げればそれで!)


 這ってでもスリーは進む。だが嘲笑うように、地面から水気を吸い取った服がさらに重みを増やす。

 服は張り付き、砂がじゃれる。気づけば腕も鉛とかしていた。


(嘘……だろ……)


 ダメージから回復したのだろう。ヤドカリが立ち上がった。自分自身を鼓舞するかのように、意気揚々とハサミを持ち上げている。


 スリーに打つ手など残ってはいない。叩いた地面からは僅かに砂が散るだけだった。


「漁夫の利みたいで気は進まないけど。ミミちゃん、あのヤドカリを岩から引きずり出して!」


 スリーの口いっぱいに砂が入る。もう気にする余裕すらない。砂の熱が顔全体に広がっていく。


(……ちき……しょう……)


 擦れゆく意識の中、スリーが最後に見たのはインとその虫たちがヤドカリを倒した場面であった。




 ヤドカリが光の粒子となって消えていく。

 そのすぐ近くには、ヤドカリが背負っていた岩が転がっていた。


「ミミちゃんはすぐに二人を!」


 戦闘が終わった後、インはすぐに二人の手当てを急ぐ。


(このまま放っておいたら消えちゃうかも!)


 意識を失っている為、ポーションを飲ませる訳にはいかない。インは瓶を開けると、振りかける形でHPを回復させた。

 しかし二人は瞼を閉ざしたまま。


(ゲームでもこの辺は現実的なんだよね)


 厄介なのはさんさんと輝く上空の陽光。ヤドカリの泡でぬかるんだはずの砂地がもう元通りになってしまっている。

 これをどうにかしない限り、体を冷やすのは難しいだろう。


(賭けになっちゃうよね)


 このまま次のエリアに向かう事は可能だ。しかし魔物に襲われる事を加味すると、良い手段とは言いにくい。

 何よりどこに出るか分からないのが一番のネックだ。砂漠や火山なんかに出てしまったら悪化してしまうだろう。

 いやむしろ、水を取れないだけより酷くなる。

 何かないかとインは当たりを捜し、ちょうど良さそうな物を発見する。


「仕方ないよね。うん。きっと許される!」


 兄のハルトに何回も「いいか、杏子。悪気が無いのは分かっているが、嫌がる人もいるのを覚えておくように」と言われてきた手段。

 インからすればむしろ喜んでやる行為だが、他人からするととても嫌がられる行為。


「ミミちゃん。丸のみ」


 ミミは二人の体を持ち上げ、口を開いて丸のみにした。

 体の内側からは粘液が出る。水とは言いにくいが、晒していれば時期冷えることだろう。


「ミミちゃん【縮小化】」


 ミミの体が縮んでいく。それに伴い、面積が横に増えていく。もはや風船といっていい風貌へと変わっていた。


「あの岩の中に隠れて」


 インが指したのはさっきまで戦った相手。ヤドカリが背負っていた岩だ。

 背負うという事は中に少なからず空洞がある。一メートルほどのミミでもちょうど体を太陽から守ってくれることだろう。


 ミミはインの指示通り、岩を触手で持ち上げ下に隠れた。

 インの見立ては正しかったようで、陽光を防ぐのに十分といえた。時折アン達に頼んでは回復ポーションを運んでいく。


「「……」」


 それから数分後、スリーとレイは復活を遂げる。白い粘液に塗れた状態の二人の表情は、それはもう感情を失ったかのようであった。


 *  *  *


「無理無理無理無理! あの虫なんでこんなの平然と連れられるんだぁ!」


 ヤドカリを倒した次の階層。

 そこにはなぜか、アン達から全力疾走をするインの姿があった。

 こんな事態になったのは数分前に巻き戻る。


 

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