スリー2
イン達の進みは留まる事を知らなかった。
20、30、40とダンジョンの階層を特に苦戦も無く進んでいく。
探索という面ではやはり、スリーの冊子がどのような地帯であろうといかんなくその力を発揮していた。
その勢いといえば正しく宝をひとつとして残さない。持てなかった分はスリーがその場で魔道具に作り替えていく。
余りものは一切出さない。ある意味、自然に優しい創作だ。
そしてボス戦とならば一番活躍していったのはインとその虫たちであった。
「アンちゃん止め!」
攻撃に転じようと湖の中からアザラシ型のボスが顔を出す。
だが湖といえばミミの得意とする場だ。事前に先を読み、インが連絡を受け、指示を出されたアンが止めを刺す。
今回もウデの出番はない。というよりかは活躍のしようが無かったといった方が正しい。
陸上で、なおかつ機敏に動き回る事などウデには到底真似できない。だからだろうか。
インの腕の中に抱かれたアンに、「流石っス」とでも言いたげな目を向けていた。
その様子にスリーは余計、魔道具を握り締めた両手に力を入れる。
能天気に駆け回る姿にか。はたまた、またも攻撃に参加できなかった思いからか舌打ちをする。
その様子にレイはすかさず口を出す。
「悔しいなら先手で駆け出してみたらどうだ?」
「……ふん。私は冷静にその場を見てから行動を決めているんだ。冷静な指揮官とでも言いたまえ」
そう言い胸を張るスリー。その声には少し震えが混じっていた。
そこにインはアンを胸に抱いて、二人に出口が開かれたのを告げる。すると何を考えているのか、不意にスリーは不敵な笑みを浮かべた。
「なぁ。次は私とこいつがボスに挑んでいいか? 正直倒すのがあまりに遅すぎるせいで大変でな」
「……大丈夫ですよ。次のボスは後ろで見ていますね」
「まっ、巻き添えを食うよう精々頑張るんだな」
大笑いをしながらスリーは光の中に消えていった。
「……なるほどな。そういう事か。フィールも性格が悪い」
「大丈夫なんですかね」
「さてな。せっかく楽だったのにいい迷惑だ」
それだけ言い残してレイも行ってしまう。
何がそういう事なのだろうか。スリーの態度は前から一切変わっていない。
精々30階層目あたりから若干焦りのような物を感じ取れるようになっているくらいだ。
(そういえばフィールさんはスリーさんの友達になってほしくて組むよう頼んできたんだよね? あれ、どうだったけかな)
レイの言葉を聞く限り他にも理由はあるのだろうか。
だが確かに、今まで自分なりに進んできたは良いものの、スリーの言う通りレイたちの事を考えていなかった。
自分なりの戦い方で、自分たちなりのコンビネーションで戦っていた。それが一番戦いやすかったというのもある。
だがそれはチームという観点から見れば、二つのグループに分かれて戦っているのとほとんど大差ないのだろう。
実際、インはボスとの戦いの中でスリーとレイの事をあまり視野に入れていなかった。いつも通り、三匹で勝てるという思いが強かった。
インはその事を意識に植え付ける。瞼を閉じて深呼吸。再び目を開き、スリーの戦いを見せてもらおうと意気込むのだった。
探索を終えて50階のボス直前。
スリーは今回もひとり、魔道具作りに勤しんでいた。
イン達は能天気故に気づいていないはずだ。レイの方は恐らく気付いていはいるのだろうが、知らないふりをしているのだろう。
レイはそうクールぶっているだけの無駄な事が好きな性格だ。おかげで集中できる。
「これも失敗か。良い、俄然面白くなってくるものだ」
スリーが戦闘や探索で使う魔道具は基本使い捨てが多い。その為にスリーは使うたびに休憩時に補給をしていた。
ひとつとして同じ物は無い。どれもこれも反応や効果を確かめるべく違うように創作する。
すぐ近くにはこれまでの試行錯誤が随一メモされたノートがあった。何冊目かは分からない。もう数え切れないほど書いてきた。
書いてきた分、暗記をして頭に染みつかせている。それを毎日だ。スリーは並々ならぬ思いを持っていた。
流れる汗を気づかれないようすぐにタオルで拭う。努力は一向に実らない。それでもスリーがやるのは理由があった。
* * *
スリーが始めたての頃、最初の自由枠を使ってあらゆる魔法を取得しようとしていた。
昔にやったとあるゲーム。そこに登場する魔法使いは全ての魔法を極めていたから。
偏屈だけどまっすぐで。勇者にはなれないけど味方として。サポートも、どんな魔物が出てきても必ず弱点を突けることができる強い魔法使いに憧れていた。
そんな折に現れたのがこのFPWだった。
五感も再現されているこのゲームならば、いつか憧れたあの魔法使いと同じ存在に。どんな魔物が来ようと得意の全属性を持って圧勝できると信じて。
だが現実はそう簡単にはいかなかった。
最初に貰える自由枠は三つだ。対して基本の魔法は六つあるとされている。その程度の枠だけで収まるはずがない。
そこでスリーが次に思いついたのは図書館だった。
図書館で勉強をすれば、時間はかかるものの魔法の取得だ。
当然そんな施設があるのであれば行かない手はない。
だがやはり、そこでもスリーが思っているほど簡単にはいかなかった。
あらゆる魔法を取得するには途方もないほどの時間を要する必要が出てくる。
そしてできたとして魔法は派生する。水から氷、木から風、と使えるようになる場合があるのだ。
そしてもし取得できたとしよう。だがそこで待っているのはまたも壁。使えるようになったとしても、使わなければ意味がなかった。
憧れの魔法使いはLVを上げるだけで全ての魔法を使えるようになっていった。
だがその魔法使いを再現するとなると、器用貧乏のキャラが出来上がるだけ。
本を閉じたスリーの頭にあったのは、【止めようか】という言葉であった。
この世界では憧れの存在になれない。ならいつまでもここに燻っていても意味は無い。そうして図書館を出ようとしたとき、スリーは彼女に会ったのだ。
「随分と欲張りな奴がいたもんだ」
図書館で爆睡を決め込んでいた昔のフィールと。
当時のスリーは真面目を形にしたかのような優等生だった。故に最初にフィールを見た時の感想は、
(おいおい、図書館だって知ってんのか?)
という至って平凡なものであった。
新手の最悪なナンパに会ったと無視して帰ろうとしたところで、フィールから魔道具の存在について聞かされた。
曰はく、魔道具は魔法のように光を放ち、火を扱い、水を生み出すことができると。
そしてその言葉に偽り無しと、フィールは目の前でそれを実践してみせたのだ。
魔法は全ての属性を取得するのに時間がかかる。反面、魔道具ならばいくつかのアビリティを取得するだけでいい。
そしてこれが、スリーにとって最悪な道へと進む第一歩であった。
* * *
(何が簡単だ。工程とか示してくれないし)
これも失敗だと、スリーは分かった事をノートへ書き連ねていく。
どんなにやってきても、フィールは魔道具作りに関して最低限の事しか教えてはくれなかった。
魔道具は発想力であり、答えがあると示すのは視野を狭めてしまうのに繋がってしまうと。
だから必要アビリティと最初だけ見せて後は頑張って~だ。おかげでこんなに苦労している。
スリーはちらと横目で隅に置かれた時計を見る。どうやらそろそろのようだ。
そろそろ休憩時間はもう終わる。既にいくつか出来上がった魔道具を持ってスリーは立ち上がる。
なんて事の無い不敵な笑みを浮かべて。
「おらっ、ボス戦の時間だ!」
「もういいのか?」
スリーは当たり前だと言わんばかりの顔つきで頷いた。
いつも思う。LVが上がるだけでなんであらゆる属性魔法が上級になっていくのか。器用貧乏を極めた結果。というよりかは器用貧乏に見せない戦い方ですね。
それはそれとしてウマが楽し――




