宇野朴人「七つの魔剣が支配する」
宇野朴人「七つの魔剣が支配する」
春、名門キンバリー魔法学校に今年も新入生がやってくる。黒いローブに、腰には白杖と杖剣を帯びた新入生たちは、満開の桜道と魔法生物のパレードに出迎えられ、その学校の門をくぐる。
オリバー=ホーンも、その新入生の一人。研鑚を深め、ある目的を達するためにキンバリーで切磋琢磨する。その彼の周りに集う学友もまた、それぞれの理念や立場を持ってキンバリーに在籍する。
亜人の人権問題に真っ向から立ち向かうカティ=アールト。
魔法農家の一家出身のガイ=グリーンウッド。
格式高き名門の長女、ミシューラ=マクファーレン。
非魔法使いの一家出身のピート=レストン。
そして、東方の国から留学してきたサムライの少女、ナナオ=ヒビヤ。
彼らを始めとする新入生に襲い掛かる、キンバリーの数々の脅威。魔は常に虎視眈々と彼らのことを狙っており、彼らもまたその魔の法を司ろうとする者たちである。
亜人の人権問題や名門や平民の差別、凄まじい実力の先輩たち、キンバリーに隠された地下迷宮――。
容赦なく牙を剥く脅威に、彼らは時に力を合わせ、時に競い合い、その問題に挑んでいく。
彼らは果たしてこの魔境で生き延びることができるのか。
「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン」シリーズの宇野朴人が手掛ける、魔法学園ファンタジー。
この作品を一言で表すのであれば、日本産のホグワーツだろう。
J・K・ローリング氏の作品「ハリー・ポッター」シリーズの魔法学校、ホグワーツ。まるであの壮大な世界のように、宇野朴人はこのキンバリーという世界を作り上げた。
その世界は壮大さを生み出しながら、極めて表現が精緻である。この世界が生み出すであろうわずかな人種差別、あるいは種族差別などの「ひずみ」まで余すことなく描き、それを主人公オリバーの視点で分かりやすく説明されている。
注目するべきなのは、この世界の魔法使いが剣……杖剣を帯びていることだ。
魔法に関しては極めて単純であり、一言の呪文を唱えるだけで魔法が成立する。ただし、イントネーションや発音の誤差により、その魔法の性質が変わってくるのだ。
しかし、そんな短い魔法でも凶刃に比べればはるかに遅い――その自衛のために発案されたのが、杖剣なのだ。剣術と魔術――それらの組合せで描かれる戦闘は、これまでになく新しい。
複数の要素が絡み合った結果、さまざまな主義や理念がぶつかり合う。登場人物たちは、それ故に衝突し合い、ぶつかり合い、時に理解し合い、時にすれ違う。この作品の中で出てくる登場人物は一巻の時点で、優に二十人ほどいるが、彼らの個性はそれぞれ確立しており、独特の群像劇を見せつけてくるのだ。
詳細に作り込まれた世界観。そして、怒涛の展開と、この後どうなるのかという期待感でページをたぐる手が止まらなくなっていく――。
個人的に続刊が非常に楽しみである。
魔法が好きな方には、是非ともお勧めしたい。