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民草譚話  作者: ヴァヴァ
3/4

~~~民草譚話 佐千恵編~~~


「ようこそいらっしゃいました

当館では史実に残ることのない方々の、口伝でごく少数にしか残されていない物語を取り扱っております」


顔をピエロのような仮面で覆ったこの館の主らしき人物がそう告げる


「さて、本日もいくつかある物語の中から順にご提供させていただきます」


そう言って館の主はかなり大きなアルバムのようなものをパラパラとめくる


「それでは、本日ご提供させて頂く物語はこちらとなります」

時は3月

春を間近に控え、少しずつ暖かな陽気に包まれる頃

それでも深夜となれば寒さが残り、空気がピンと張り詰めている

そう感じるのは気温のせいだけでなく、現在が灯火管制下にあることも関係しているだろう


比較的小さめの家では佐智恵が分厚く重たい布団に包まれていた


『・・ちえ・・・佐智恵・・・』


誰かに呼ばれた気がして目を覚ます

柱に掛けてある振り子時計が深夜0時を指す

もちろん辺りは真っ暗であり人の気配もしない


暗闇に目が馴れてきた頃ぼぅっとしていた意識も覚醒し辺りを見渡す

風の音ひとつ無く、真っ暗な部屋では振り子時計の動作音のみがチクタクと響く


(気のせいかな?なんだったんだろう。)


そんな事を考えていると突然鐘の音が響きだした

カンカンカンカンカンカン

けたたましく鳴る鐘の音と共にサイレンが鳴り響く


佐智恵は慌てて布団から飛び出しあらかじめ用意してあった避難袋を背負った

棚に飾っていた今は出兵中の夫と映った写真を懐に押し込んで、勢いよく家を出る

そのまま空を見上げると多数の巨大な飛行機が隊列を組んで

佐智恵達の生活する街の上空に飛来していた


巨大な飛行物体から豆粒の様な物が無数にばら撒かれている


距離がある為小さく見えているが、近くで見ればそれらも大きいに違いない


ばら撒かれた豆粒は眼下に広がる人々の住まうその街にその身を預け、渦巻く炎と化した

まだ距離があるにも関わらず高温となった空気が佐智恵達を襲う


「さっちゃん!こっちよ!早く!!」


近所の知り合いだろう、必死の形相で佐智恵を呼ぶ


佐智恵は急いで声のする方へ駆け出す

それと同時にすぐ横から轟音が鳴り響き炎が生き物の様に近くの命を刈り取る


声を発した人物を改めて見てみる

頭は防空頭巾にて守られ、動きやすい衣服に身を包んでいる

やはり近所に住む仲のいい女性だった


「早く壕へ避難するぞ」

近くにいた男性に手を引かれその女性は駆け出して行った


置いてきぼりになった佐智恵は近所に住む知り合い達が避難する防空壕へと向かった


(相変わらずカビ臭いわね)


この防空壕に来るのは何回目だろうか、このところ空襲が激化し短期間で何度も避難を強いられている

自宅の庭先に壕を掘るスペースが無いため、建物の床下に掘る予定ではあったが、作業は遅々として進んでいない。

そのため空襲の度にこの空き地にある防空壕へ避難する必要があった


天井の低い豪の中に入り周りを見渡すと怯えたように母親にしがみつく子供の姿が見えるものの、

大人達はというと何回も避難している事から特に怯えた様子はなく

睡眠を妨げられたことに対し怒りを携えている者まで居る

天井が低く避難した人数を考えるととても小さな壕になるため、

立ち上がることもできず、座ったまま声を掛け合い家族全員が避難しているか確認している姿も多くみられた


短期間で何度も非難をする羽目になっているため慣れてきたのか壕内では緊張感の薄い緩やかな空気が流れているが、

一歩外に出ると警報サイレンがけたたましく鳴り響いているが、爆発や建物などが崩れる音は一切聞こえてこない。


一定の間隔、音程でなるサイレンを聞きながら

暗闇の中再び眠りにつくものまで現れた


佐智恵も同様に重い瞼を閉じていく






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