初恋のわけ
『はつこい』
「うう。」
エマはひとりで机に突っ伏しながらパンドラの箱を見ていた。
おばあちゃんがくれたこの箱。
あなたにしか開けられないわ、とパンドラおばあちゃんはエマにくれた。
この箱はエマを守ってくれる天使になってくれた。
だから、エマを守ってくれる天使はこの箱しかないと思っていたの。
果実集めの話が来る前。
エマはソラさんやセイさんにお茶会に呼ばれていたの。
エマはもちろんOKをだしたの!
だってあの二人のお茶会に出てくる紅茶はお菓子はとても美味しいし、ソラさんはピアノ、セイさんはヴァイオリンを弾いて演奏会を開いてくれる。
それはどの神様達もうっとりとその音色に酔いしれるほどとても美しくてきれい。
そんな演奏会を聞くのも狙いのひとつ。
だからエマはソラさんたちの神殿に歩いて向かった。
その途中だったの。
「何だこのガキ。」
「おい、おもしれーのがいるぞ。」
道の途中で、怖い人に絡まれたの。
この人たちはならず者で有名なのを知っていた。
「ひっ。」
「こいつ緑色の髪してるぜ!しかも女じゃねえか。高く売れるぜ。」
う、売られる……!?!
そんなの嫌!!
エマは助けを呼ぼうとしたけど、周りには誰もいなさそうだった。
箱、箱を出さなきゃ。
いつもエマを守ってくれるパンドラの箱。
しかしバックの中を探っても手馴れた感触はかんじない。
エマは焦った。
まさか……忘れた!?!?
そんなことがあるのだろうか、でもどれだけまさぐっても無い。
エマは青ざめた。
だめだ。
エマ、しんじゃう……!
ぎゅっと目を瞑って体を強ばらせた。
ならず者の手がエマに伸びてきた時。
「なーにしてんの?」
誰かの声。
パシッと、手を乱雑にはらう音が聞こえた。
え、とエマは目を開いてびっくりする。
エマの目の前に、桃色の髪をポニーテールにした白のポンチョのようなものを着た誰かがいたんだ。
「な、なんだお前。」
「ちっちゃい子いじめてる君たちもなんなの?」
その声は決して低くはないけど、圧をとても感じて怖くなる。
この圧力は、男の人だ。
目の前に立つ人は男の子だと、理解した。
「女は下がってな。俺はそのガキに用があんだよ。」
「……女?……馬鹿にしてんの?ぼくは男だ。」
「はっはぁ!?」
「怒らせてくれたね。」
顔が見えない。
どんな人なの???
するといきなり桃色の人はピーッと笛を吹いた。するとどこからかガタガタと音がする。
……線路の、ような、
それは上から聞こえてきて、エマは上を向いた。エマはびっくりした。
だって!!
お空からきらきらしたおっきな電車がこっちに向かって走ってくるんだもの!
「ひっひい!」
「やっちゃっていいよ方舟ちゃん。」
ポーっとすごい音を立てながら方舟と呼ばれたそのおおきな乗り物はなんとガタガタと音を立てながらならず者を簡単に扉から飲み込んでいった。中で悲鳴が聞こえる。何をされてるんだろう……怖いな。
するとその方舟はまた大きな音を立てながら空へと消えていった。
「……大丈夫?」
その時初めてその人がこちらを向いて、ニコッと微笑んだ。
その時、太陽の光が綺麗に彼を照らした。
眩しい微笑みに、エマは胸がばくっと鳴った。
エマを、守ってくれた、……てん、し?
「君、これからどこ行くの?」
「……ソラ、さんの、おちゃかい、……」
「うそっ!ぼくもお呼ばれしてるんだ。ふふっ、君一人じゃ可愛いから狙われちゃうな。ぼくが一緒に行ってあげる。」
ぎゅ、とエマの手を握ってくれた。
暖かい。
「……。」
エマを守ってくれるのは、あの箱だけだと思ってたの。
あの箱だけが天使だと思ってたの。
でも。
「……エマって、いうの。」
「!……ぼくはゼン、よろしくね。」
でも。
てんしは、あの箱だけじゃなかった。
エマを守ってくれる天使。
その人の名前は、ゼン。
エマはかああっと、顔が真っ赤になった。
それは自分の感情に直ぐに名前をつけられて認めることが出来たから。
そしてそれは初めてだったから。
エマは恋に落ちてしまった。