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フォートレス・ホーキング  作者: かまくら暴君
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初仕事:レオ=コーカー兄妹~リズベスとの出合い~

 僕の仕事は死者の声を聞くことだ。


 1936年、僕は一体化された記憶の集合体(MA)を調べる学問(死学)と出会い、死術を使った仕事の遺言代弁業務を確立させた。

 

 これから話すのは僕の遺言で、まずは僕の初仕事を聞いて欲しい。


-1946年2月26日-イギリス・ロンドン-軍事施設-


「君に、初仕事がある」

 

 朝、ロンドン市街にある家に届いていた手紙に目を通してか四時間。正午に差し掛かる頃、僕は初仕事を受けた。

 

 前に座る僕の上司、アブラー中佐は机の上で手を組み、そこに顎を乗せながら言った。今のロンドンの季節は冬にあたるが、ここは偏西風と北大西洋海流の影響で暖かい。気持ちの良い季節であるが、服が分厚いせいで少し暑い。そのせいか、アブラー中佐の額には少し汗が滲んでいた。


「君には兵士として戦地で死んだアレックス・レオ=コーカー君の記憶を調べてもらいたい。トリガーメモリーの提供者は彼の妹のリズベス・レオ=コーカーさんだ。」

 

 特段断る理由もないので、「了解しました」とだけ言ってから、目の前の机、中佐が肘を乗せている机の上にある、恐らくその兄妹の資料だと思われる紙を取って、その一人で使うには広いくらいの中佐の部屋を出ようとすると、中佐は部下の僕に遠慮がちに口を開いた。


「実はな。その妹は心を閉ざしてしまっているんだ。アレックスが戦地から帰ってきて三ヶ月、彼の親友のユージン・バウスフィールドが次の部隊の兵士として戦地に赴くことになった。でも、ユージンは脚を怪我したんだ…」

 

 中佐はここに居ないその妹、リズベスへと気を使うように口を閉ざした。太い眉毛と頬の傷からは想像がつかないが、繊細な人だ。

 

 代わりに僕が言うことにした。


「それで、アレックスが代わりに戦地へ行ったんですね」


「…そうだ。だから、大変な仕事となる。時間が掛かるカウンセリングが必要だ。頼んだぞ」

 

 中佐はそう言うと額に吹き出した汗を拭った。


-1946年2月28日午前-イギリス・ロンドン-

 

 街の市場の喧騒は嫌いではない。でも、今のロンドンの市場の喧騒には辟易を感じる。どこか無理をしているからだ。

 

 それもそうだ。第二次世界大戦終戦から半年も経っていない。街には未だ心の在処を無くした、心の拠り人を亡くした人々の心が街の空気を漂って、満たしている。いや、巣食っていると言った方が良いかもしれない。


「すいません。リズベス・レオ=コーカーさんを探しているのですが」

 

 尋ねた相手は食材屋の中年女性。この時代には珍しく、ふくよかな体つきをしている。

 

 少し声帯の張りを感じられなくなってきたような声で言った。


「あぁ、その子なら知ってるわよ。ちょうどここから西の路地を進んで、500メートル行った先に少し古びた木造の家があるわ。そこが彼女の家よ」

 

 どうやらリズベスはこの街では有名のようだ。リズベス・レオ=コーカーの名前を出すと、周りの人間は少しこちらへ注目していたからだ。

 

 続けて、女性は言った。


「あまり良い噂は聞かないわ。何たって、戦争で兄を亡くしてから働かずに貯金に頼ってるって。そのせいで、身なりが乏しくなっているわ。人一倍ね」

 

 やっぱりか、と思った。

 

 このご時世、辛いとき程人間は無理をするものだ。その証拠に目の前の女性の目元には隈がある。大人が無理をするから、身近の子供も無理をする。そうやって、災害や戦争の後は無理をし合って街というコロニーを形成する。

 

 しかし、身寄りの者を全て亡くした18歳はどうだろう。無理をするだろうか。いや、無理をしないだろう。きっと、無理をせずに過ごすから周りから注目されているに違いない、と僕は考えていた。


「ありがとうございます」


 と僕は必要な情報を得られたので踵を返した。


「ちょっと待ちなさいよ。せめて、何か買っていきなよ兄ちゃん」

 

 話を聞くだけ聞いておいて何も買わないのは確かに申し訳ない気持ちが少しあった。

 

 じゃがいもを買わされた。まだ土の付いたままの、新鮮さがあるものだ。

 

 その5つのじゃがいもを袋に入れて、女性にもう一度背中を見せたとき、今度は遠慮がちな質問をしてきた。


「あんた、軍人かい」

 

 正確には軍人ではなく、軍所属研究者兼遺言代弁業務運営・遺言代弁者[Will Speaker]なのだが、言っても分からないだろうし、まだ国家機密指定を受けているため、出来るだけ自然に、適当に返した。


「僕はただの記者ですよ」


-同時刻-イギリス・ロンドン-レオ=コーカー家前-


「ここが、レオ=コーカー家か」

 

 さっきの女性が言っていたように、確かに古びた家だった。

 

 黄色いペンキ跡があったような面影があるものの、そこに【色】と呼んで良いかもわからないほどになっている跡がある。

 

 やけに周りには人が居ない。悲しみを忘れたい人々は、こうして悲しみを忘れない人間が住む、悲しみを忘れない家を見たくないのだろう。

 

 いくらか家の前で待ってみたが、リズベスさんが家から出てくる様子がない。まず、家に居るかもわからない。

 

 僕は遠慮がちに3回、古びたドアを叩いた。


「すいません。リズベス・レオ=コーカーさん。あなたを訪ねて来ました。フォートレス・ホーキングです」

 

 返事がない。しかし、ドアの奥の方で物音がした。恐らく、ゆっくりこちらへ歩いて来ているのだろう。

 

 ドアの覗き穴の近くに来たくらいのタイミングを見計らって、もう一度ドアを叩いた。


「僕はフォートレス・ホーキングです。リズベスさん、あなたに聞きたいことがあって来ました」

 

 ゆっくりと、木が擦れる音をたてながらドアが少し開いた。

 

 中から汚れた服を着た伏し目がちな少女が顔を出した。資料に書いてあった18歳よりも若く見える。


「リズベス・レオ=コーカーさんですね」

 

 彼女は口を閉ざしたままコクリと頷いた。その体全体からは警戒の色が解き放たれていた。

 

 僕は緊張を和らげようとした。


「別に僕は君に危害を加えようとしている訳ではないよ。本当さ。ほら見てくれ。何も武器になるものは持ってないし、貧弱な体だ。安心してくれ」

 

 執拗な弁明は警戒心を強くするみたいで、少しドアが閉まってしまった。

 

 仕方なく、兄の名前を出すことにした。


「君に用があると言ったけれど、聞きたいのは君の兄、アレックス・レオ=コーカー君のことだ」

 

 言った瞬間、彼女の顔の筋肉が緩んだ。彼女は呆気にとられた顔で言った。虫の羽音に消されるくらいの、微かな、小さな声で。


「今まで誰も兄さんの話を私にしなかった。街のみんな避けてたから。私を傷付けない為に。でも、それは私の望んだことじゃない。本当は兄さんの話を誰かにしたかったんです。中に入ってください」

 

 そう言って、彼女は僕を家に入れた。


-同時刻-イギリス・ロンドン-レオ=コーカー家-

 

 外の外見からはわからなかったが、内装はしっかりと綺麗に保たれていた。別に、きらびやかな訳ではない。整っているという意味だ。

 

 彼女はリビングの中央に配置された丸机横の椅子に僕を座らせた。


「まず、あなたは何者なの」

 

 まだ警戒しているのか、僕が座っている所から右側へ4歩の場所に立ったまま聞いてきた。僕が左利きなことはバレているみたいだ。


「ぼくはフォートレス・ホーキング。フォスと呼んでくれ。僕の所属を正式名で言うと長いんだけど、聞くかい」


「聞く」

 

 「これ言うの長くて大変なんだよな」と思いながらも相手の信頼を得るには仕方がないと思い、言った。


「軍所属研究者兼遺言代弁業務運営・遺言代弁者。通称Will Speaker。って言うんだけど」

 

 言っている途中から自分を俯瞰してしまい、恥ずかしくなってしまった。まだ慣れない。


「それで、どうして軍人が家に」

 

 「正確には軍人じゃないんだよな」と思いながら彼女の目を見据えて。


「君の兄の遺言を調べるんだ」

 

 少し彼女の瞳孔が開いた。それから下唇を上の歯で少し噛んでから言った。


「兄の遺言はない、と当時の兄の上司に言われましたが。」


「そうだ。確かにない。今はね。これから僕が聞きに行くんだよ」

 

 また瞳孔が開いた。

 

 僕は続けた。


「僕の仕事は遺言代弁業務だ。さっき言ったが、ちゃんと聞こえていなかったみたいだな」

 

 遺言を【代弁】することに違和感を覚えたのか、さっきよりも少し声を荒げて言った。


「別に、あなたに言葉を繕われて言われても嬉しくない」


「それは違う。僕は別に君がほしい言葉を言う訳じゃない。君の兄が言いたい言葉を言うんだ。君の兄から聞いたことをね」

 

 彼女は少し下を向いて考えた後、顔を上げた。


「あまりに信じられないけれど、話は聞いてみる。私に縋るものはもう何もないから」

 

 そしてそのままその場に座り込んだ。


 心配になった僕は彼女に駆け寄ったが、貧血気味なだけ、と手で払われてしまった。


「今日はもう帰ってほしい。久しぶりに人と話して疲れてしまった」

 

 ひどい貧血なんだな、と思いながら僕は頷き、明日の今日と同じ時間で良いのか聞いた。


「あぁ、大丈夫」

 

 本当に疲れたようで、小さな声だった。

 

 駆け寄って払われた場所で彼女に背を向けて、そのままドアを開けて出ようとした時、彼女がさっきの弱々しい声よりも少し大きな声で言った。


「話は聞いてみるけれど、あなたのことを信用したわけではない。明日の話次第」

 

 わかっているよ、とだけ言ってそのままその家を後にした。


-1946年2月29日午前-イギリス・ロンドン-レオ=コーカー家-

 

 今日は昨日と違ってノック3回だけですんなりと家に入れてくれた。私の家に来る人なんてあなたくらいだから、と。

 

 家の様子は昨日と特に変わった所はない。昨日よりも部屋の角の埃が無くなったくらいだ。僕という客が家に入ることを想定しているみたいだった。

 

 お茶も何も出せないのだけれど、と遠慮がちに言うもんだから、いらないよ、とだけ言った。

 

 僕は昨日座らされた椅子に今度は自分で座った。すると、彼女は向かい合う形で僕から見て机の向こう側の椅子に座った。


「それじゃあ、説明を始めるよ」

 

 えぇ、とだけ彼女が言ったから、僕は死学と死術の説明を始めた。


-1946年2月29日午後-イギリス・ロンドン-レオ=コーカー家-

 

 僕はあれから彼女の体調を気遣って、休憩をとりながら説明をした。

 

 死学のこと。その上にある死術のこと。特定の人物の記憶をMAから引っ張り出すにはその人のトリガーメモリーになる、大切な記憶が必要なこと。出来ればそれを体験した方が良いこと。そして、この技術はまだ国家機密であること。


「つまり、あなたに兄との思い出を話せば良いのね」

 

 少しだけ心を開いてくれたのか、女の子っぽい話し方になった。


「そう言うことだ。でもその前に君とアレックス君の今までを教えてくれ」


「わかったわ」

 

 こうして、レオ=コーカー兄妹の生い立ちが始まる。

 1話?2話?書きました。

 前の話はプロローグのつもりだけど、システムがわからないので考えない。

 読んでね☆

 

 あ、これ無理吐きそう。

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