第23話:戦いの後
◇
「ん……ここは?」
眩しい朝日を感じる。
オレは目を覚ました。
ここはベッドの上か。サザンの街の常宿の部屋の中であった。
「カレン? それにアセナも……」
二人が座ったまま寝ていた。オレの毛布の上に、もたれ掛かっている。
どうやらオレのことを、看病してくれていたのであろう。部屋には身体を拭く布や、水桶もあった。
「ん……? ソータさん!」
「どうした、カレン? ……本当だ、ソータ!」
オレの気配に二人も目を覚ます。
どうやらかなり心配していたのであろう。
アセナは嬉しいような、怒っているような不思議な表情。
カレンは笑顔で、大粒の涙を流している。
二人の表情で、何が起こっていたか読み取れた。
「心配かけたな、二人とも」
抱きついてきた二人の頭を、優しく撫でる。
頭を撫でてやるのは、たしか魔神像との戦い時にした約束だ。
段々と記憶が甦ってきた。
「そういえば、どうなった? オレは何日寝ていた?」
記憶が甦り、どうしても気になることを訪ねる。
あの魔神像との戦いから、いったい何日が経過していたのだろうか。
「ソータさんは三日間、寝込んでいました。あの魔神像は処理が終わっています」
カレンから事の経過の報告を受ける。
オレは闇の司祭を倒した後に、すぐに気絶したという。
カレンの転移魔法で三人は地上に戻る。
すぐに冒険者ギルドと魔術師ギルドに事件の報告をした。
また転移門を使って、魔術師ギルドの本部からも応援が来てくれた。
魔神像は徹底的に破壊され、三階層も調査の後に封鎖。
今はカレンの封印魔法で、三階層には絶対に入れないようしたという。
「そうか頑張ったな、カレン」
「この三日間、アセナちゃんも手助けしてくれました」
「アセナも頑張った」
寝込んでいたオレの治療と看病は、二人が交代で行っていたという。
傷は完治していたので、目を覚ますのを待っていたと。昨晩は二人で座ったまま、寝落ちしていたという。
「そういえば、オレの身体は……」
改めて自分の身体を確認する。
欠損して両腕は復元していた。
身体に大きく空いた風穴も、完全に塞がっている。
全身を軽く動かしてみるが、悪いところは何処もない。
むしろ以前よりも身体が軽く感じる。
普通ならあれほどの大怪我は、治癒魔法でも後遺症がある。数日間は身体のキレが無くなるのだ。
「失礼かと思いましたが、寝ている間にソータさんの身体を、魔法で検査しました。でも不審な箇所はありませんでした」
「そうか……助かった、カレン」
勝手に検査して、カレンは申し訳なさそうにしていた。
だがオレはむしろ感謝している。
大魔導士であるカレンの魔法で見つからないのであれば、オレの身体は正常なのであろう。
これで自分のことは一安心である。
「そういえば、教導団のことは?」
「はい。魔術師ギルドと聖教会の方で、指名手配することになりました」
カレンの報告により、教導団は危険な存在となった。大賢者である彼女の言葉は国王にも進言できるのだ。
「ですが実態が掴めない相手なので……」
「そうだろうな」
教導団は厄介な相手であろう。
なにしろ誰にも気がつかれなく、サザン迷宮の三階層を見つけていた組織力。
魔神像という不思議なモンスターを、密かに作り出していた技術。
六英雄カレンがサザン迷宮に行く情報を、予め知っていた情報網。
その全てが巨大で、大きな陰の組織の匂いがする。
「そうだ、“六英雄殺し宝玉”は?」
「はい、ここにあります」
「石になったのか?」
魔神像が握っていた“六英雄殺しの宝玉”を、カレンから受け取る。
今はもう何の力もなく普通の石となっていた。
軽く調べてみるが、特に何の危険性もない。
「おそらくは短時間だけ六英雄……私たちの力を封じる宝玉だと、思います」
「なるほど。対六英雄用のマジックアイテムか……」
カレンから説明聞きながら、魔神像との戦いを思い返す。
相手はカレンが来ることを想定して、待ち構えていた。
魔神像の戦闘能力も対魔導士用に特化していた。
カレンと魔法騎士だけでは負けていた可能性もある。それほどまでに危険な相手であった。
「ソータさんがいて、本当に助かりました」
「そうだな、カレン。偶然とはいえ、運が良かった」
今回はオレとアセナが斥候役としていたら、なんとか彼女は無事であった。
あの時、冒険者ギルドで再会していなければ、どうなっていたか?
そう思っただけでも、背中に冷や汗が流れる。
まさに幸運……いや運命とでも言うのであろう。カレンが五年ぶりに再会できたことは。
「そういえば、カレンはこれからどうする?」
「あと数日だけサザンの街に滞在して、迷宮の調査を。その後は本部に戻って、魔神像の残骸を調査します」
「そうだな。カレンにしか出来ない大仕事だな」
今のカレンは魔術師ギルド本部の最高位にいる。
彼女の力でなければ、解析できないこともあるであろう。
時間はかかるかもしれないが、この子ならきっと成し遂げてくれるであろう。
「ソータさんたちは?」
「オレたちもサザンの街を、もう少しで離れる予定だ」
自分のステータスを確認する。
いつの間かレベルが18まで上昇していた。
死霊騎士四体と魔神像。そして闇の司祭を倒した、膨大な経験値が入っていたのであろう。
同じくアセナも18まで上昇している。
落ち着いたら、新しいスキルを習得しないといけない。今度はちゃんと考えて割り振りをしないと。
「何日かしたらサザンの街を発つ。次の街の迷宮に行く」
サザンの迷宮の推奨レベル10まである。
これ以上はここで冒険してもレベルは上がりにくい。
当初の予定より少し早いが、次の上位の迷宮がある街に移動する。
「もっと強くならないとな……」
魔神像との戦いで実感したことがある。
オレはもっと強くなりたい。目的地の浮遊城を目指すために。
そして強くなる、もう一つの理由ができた。
狙われている六英雄……かつての仲間を助けるために強くなりたったのだ。
「あと数日……ソータさん! もしも、良かったら、最終日の夜に私とデートしてください。約束通り……」
「なんだと? デートだと?」
まさかカレンからの誘いであった。
調査の最終日。その夜に一緒に食事をして欲しいというのだ。
場所はサザンの街のレストランで。店名は聞いたことがある。
そういえば、魔神討伐の時に、そんな約束をしたかもしれない。
「その日の夜、アセナは一人でご飯食べる。だから大丈夫、ソータ」
口裏を合わせたようにアセナも頷く。
もしかしたらオレが寝込んでいる間に、この二人の間で何かがあったのかもしれない。
女性同士の見えない協定?
そういえば、カレンとアセナが前よりも、かなり仲良くみえる。
一体いつの間に……。
「最終日の夕食なら、オレも大丈夫だ」
「ほ、本当ですか⁉ 私……楽しみ待っています。あっ……そろそろ迷宮の調査団に行ってきます!」
カレンは大喜びで飛び跳ねる。
そして満面の笑みで、恥ずかしそうに部屋を飛び出していく。
一体何があったのであろうか。いつものカレンとは様子が違っていた。
いや、あんなカレンの反応には覚えがある。
そう……あれは六年前のことである。
七人で冒険をしていた頃にも、あんなことがあった。
たしか彼女に真剣で告白された日。あの時の状況に似ている。
まさか、そんなことは無いよな。
あれから数年も経っているのだから。
「大丈夫か、ソータ? 変な顔をして?」
「大丈夫だ、アセナ。さあ、次の街に行く準備をしよう」
魔神像との戦いで、二人の装備の大半が損傷していた。
革鎧は買い直しで、短剣も研ぎ直しである。
またあの老人の武具屋に行かないといけない。
カスタマイズ巻物も補充しておかなければいけない。
幸いにも魔術師ギルドから恩賞はあった。
カレンからアセナが大金を預かっていたのだ。
◇
その後、数日は予定通りに装備を整えていく。
サザンの冒険者ギルドにも移動の申請をしておく。こうすれば次の街でもランクが適用される。
また親しくしていた若者の冒険者たちとも、別れの挨拶をする。
レベルを一気に追い抜かれて、彼らは寂しそうにしていた。
そういえばいつの間にか、FランクからEランクに昇進していた。
アセナが一人で頑張って申請していたという。
オレが寝込んでいる間に、彼女も冒険者として成長していた。
これは師匠として嬉しいことである。
そういえば一つだけ気になることがあった。オレのステータスである。
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名前:ソウタロウ・ミウラ
職業:神▲※を盗む者:レベル18
固有スキル1:『盗賊の極み』:レベルアップ時、素早さ値が上昇しやすい。
固有スキル2:『流星』:素早さプラスのn%を攻撃ダメージに加算(他スキルとの併用可)
固有スキル3:神▲※
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こんな表記になっていたのだ。
前にはなかった。少し嫌な予感もしていた。
だが、身体は以前よりも奥底から力が漲る感じである。今後も注意していこう
◇
そしてあっとう間に日が経つ。
いよいよサザンの街での最後の夜となるのであった。