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第23話:戦いの後


「ん……ここは?」


 眩しい朝日を感じる。

 オレは目を覚ました。


 ここはベッドの上か。サザンの街の常宿の部屋の中であった。


「カレン? それにアセナも……」


 二人が座ったまま寝ていた。オレの毛布の上に、もたれ掛かっている。


 どうやらオレのことを、看病してくれていたのであろう。部屋には身体を拭く布や、水桶もあった。


「ん……? ソータさん!」

「どうした、カレン? ……本当だ、ソータ!」


 オレの気配に二人も目を覚ます。

 どうやらかなり心配していたのであろう。


 アセナは嬉しいような、怒っているような不思議な表情。

 カレンは笑顔で、大粒の涙を流している。


 二人の表情で、何が起こっていたか読み取れた。


「心配かけたな、二人とも」


 抱きついてきた二人の頭を、優しく撫でる。

 頭を撫でてやるのは、たしか魔神像との戦い時にした約束だ。

 段々と記憶が甦ってきた。


「そういえば、どうなった? オレは何日寝ていた?」


 記憶が甦り、どうしても気になることを訪ねる。

 あの魔神像との戦いから、いったい何日が経過していたのだろうか。


「ソータさんは三日間、寝込んでいました。あの魔神像は処理が終わっています」


 カレンから事の経過の報告を受ける。


 オレは闇の司祭を倒した後に、すぐに気絶したという。

 カレンの転移魔法で三人は地上に戻る。

 すぐに冒険者ギルドと魔術師ギルドに事件の報告をした。


 また転移門を使って、魔術師ギルドの本部からも応援が来てくれた。

 魔神像は徹底的に破壊され、三階層も調査の後に封鎖。

 今はカレンの封印魔法で、三階層には絶対に入れないようしたという。


「そうか頑張ったな、カレン」

「この三日間、アセナちゃんも手助けしてくれました」

「アセナも頑張った」


 寝込んでいたオレの治療と看病は、二人が交代で行っていたという。

 傷は完治していたので、目を覚ますのを待っていたと。昨晩は二人で座ったまま、寝落ちしていたという。


「そういえば、オレの身体は……」


 改めて自分の身体を確認する。

 欠損して両腕は復元していた。

 身体に大きく空いた風穴も、完全に塞がっている。


 全身を軽く動かしてみるが、悪いところは何処もない。

 むしろ以前よりも身体が軽く感じる。


 普通ならあれほどの大怪我は、治癒魔法でも後遺症がある。数日間は身体のキレが無くなるのだ。


「失礼かと思いましたが、寝ている間にソータさんの身体を、魔法で検査しました。でも不審な箇所はありませんでした」

「そうか……助かった、カレン」


 勝手に検査して、カレンは申し訳なさそうにしていた。

 だがオレはむしろ感謝している。

 大魔導士であるカレンの魔法で見つからないのであれば、オレの身体は正常なのであろう。

 これで自分のことは一安心である。


「そういえば、教導団のことは?」

「はい。魔術師ギルドと聖教会の方で、指名手配することになりました」


 カレンの報告により、教導団は危険な存在となった。大賢者である彼女の言葉は国王にも進言できるのだ。


「ですが実態が掴めない相手なので……」

「そうだろうな」


 教導団は厄介な相手であろう。


 なにしろ誰にも気がつかれなく、サザン迷宮の三階層を見つけていた組織力。

 魔神像という不思議なモンスターを、密かに作り出していた技術。

 六英雄カレンがサザン迷宮に行く情報を、予め知っていた情報網。


 その全てが巨大で、大きな陰の組織の匂いがする。


「そうだ、“六英雄殺し宝玉”は?」

「はい、ここにあります」

「石になったのか?」


 魔神像が握っていた“六英雄殺しの宝玉”を、カレンから受け取る。

 今はもう何の力もなく普通の石となっていた。

 軽く調べてみるが、特に何の危険性もない。


「おそらくは短時間だけ六英雄……私たちの力を封じる宝玉だと、思います」

「なるほど。対六英雄用のマジックアイテムか……」


 カレンから説明聞きながら、魔神像との戦いを思い返す。

 相手はカレンが来ることを想定して、待ち構えていた。

 魔神像の戦闘能力も対魔導士用に特化していた。

 カレンと魔法騎士だけでは負けていた可能性もある。それほどまでに危険な相手であった。


「ソータさんがいて、本当に助かりました」

「そうだな、カレン。偶然とはいえ、運が良かった」


 今回はオレとアセナが斥候役としていたら、なんとか彼女は無事であった。

 あの時、冒険者ギルドで再会していなければ、どうなっていたか?

 そう思っただけでも、背中に冷や汗が流れる。


 まさに幸運……いや運命とでも言うのであろう。カレンが五年ぶりに再会できたことは。


「そういえば、カレンはこれからどうする?」

「あと数日だけサザンの街に滞在して、迷宮の調査を。その後は本部に戻って、魔神像の残骸を調査します」

「そうだな。カレンにしか出来ない大仕事だな」


 今のカレンは魔術師ギルド本部の最高位にいる。

 彼女の力でなければ、解析できないこともあるであろう。

 時間はかかるかもしれないが、この子ならきっと成し遂げてくれるであろう。


「ソータさんたちは?」

「オレたちもサザンの街を、もう少しで離れる予定だ」


 自分のステータスを確認する。

 いつの間かレベルが18まで上昇していた。

 死霊騎士四体と魔神像。そして闇の司祭を倒した、膨大な経験値が入っていたのであろう。

 同じくアセナも18まで上昇している。


 落ち着いたら、新しいスキルを習得しないといけない。今度はちゃんと考えて割り振りをしないと。


「何日かしたらサザンの街を発つ。次の街の迷宮に行く」


 サザンの迷宮の推奨レベル10まである。

 これ以上はここで冒険してもレベルは上がりにくい。

 当初の予定より少し早いが、次の上位の迷宮がある街に移動する。


「もっと強くならないとな……」


 魔神像との戦いで実感したことがある。

 オレはもっと強くなりたい。目的地の浮遊城を目指すために。

 そして強くなる、もう一つの理由ができた。

 狙われている六英雄……かつての仲間を助けるために強くなりたったのだ。


「あと数日……ソータさん! もしも、良かったら、最終日の夜に私とデートしてください。約束通り……」

「なんだと? デートだと?」


 まさかカレンからの誘いであった。

 調査の最終日。その夜に一緒に食事をして欲しいというのだ。

 場所はサザンの街のレストランで。店名は聞いたことがある。


 そういえば、魔神討伐の時に、そんな約束をしたかもしれない。


「その日の夜、アセナは一人でご飯食べる。だから大丈夫、ソータ」


 口裏を合わせたようにアセナも頷く。

 もしかしたらオレが寝込んでいる間に、この二人の間で何かがあったのかもしれない。

 女性同士の見えない協定?


 そういえば、カレンとアセナが前よりも、かなり仲良くみえる。

 一体いつの間に……。


「最終日の夕食なら、オレも大丈夫だ」

「ほ、本当ですか⁉ 私……楽しみ待っています。あっ……そろそろ迷宮の調査団に行ってきます!」


 カレンは大喜びで飛び跳ねる。

 そして満面の笑みで、恥ずかしそうに部屋を飛び出していく。


 一体何があったのであろうか。いつものカレンとは様子が違っていた。

 いや、あんなカレンの反応には覚えがある。

 

 そう……あれは六年前のことである。


 七人で冒険をしていた頃にも、あんなことがあった。

 たしか彼女に真剣で告白された日。あの時の状況に似ている。


 まさか、そんなことは無いよな。

 あれから数年も経っているのだから。


「大丈夫か、ソータ? 変な顔をして?」

「大丈夫だ、アセナ。さあ、次の街に行く準備をしよう」


 魔神像との戦いで、二人の装備の大半が損傷していた。

 革鎧は買い直しで、短剣も研ぎ直しである。

 またあの老人の武具屋に行かないといけない。


 カスタマイズ巻物スクロールも補充しておかなければいけない。

 幸いにも魔術師ギルドから恩賞はあった。

 カレンからアセナが大金を預かっていたのだ。



 その後、数日は予定通りに装備を整えていく。

 サザンの冒険者ギルドにも移動の申請をしておく。こうすれば次の街でもランクが適用される。


 また親しくしていた若者の冒険者たちとも、別れの挨拶をする。

 レベルを一気に追い抜かれて、彼らは寂しそうにしていた。


 そういえばいつの間にか、FランクからEランクに昇進していた。

 アセナが一人で頑張って申請していたという。


 オレが寝込んでいる間に、彼女も冒険者として成長していた。

 これは師匠として嬉しいことである。


 そういえば一つだけ気になることがあった。オレのステータスである。



――――◇――――


名前:ソウタロウ・ミウラ


職業:神▲※を盗む者:レベル18


固有スキル1:『盗賊の極み』:レベルアップ時、素早さ値が上昇しやすい。


固有スキル2:『流星』:素早さプラスのn%を攻撃ダメージに加算(他スキルとの併用可)


固有スキル3:神▲※


――――◇――――



 こんな表記になっていたのだ。

 前にはなかった。少し嫌な予感もしていた。


 だが、身体は以前よりも奥底から力が漲る感じである。今後も注意していこう


 

 そしてあっとう間に日が経つ。

 いよいよサザンの街での最後の夜となるのであった。


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