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第19話:再結成

 かつての仲間。六英雄の一人の“大魔導士”山南カレンと再会した。


「本当に会いたかったです……ソータさん」


 カレンは感動のあまり、オレに抱きついてきた。

 自分の名誉のために言っておくが、向こうから抱きついてきたのだ。

 その証拠にオレの両手は、彼女に触れないようにしている。


「おい……六英雄の方が……」

「あの中年は誰だ……?」

「最近、この街にきた、ソータという冒険者だぞ……」

「六英雄さまとどういう関係だ……?」


 カレンの突拍子もない行動に、冒険者ギルドがザワついてきた。


 それも仕方がないであろう。

 彼女はまだ若いが、大陸を救った六英雄の一人である。

 しかも今は魔術師ギルドの本部で、高位の役職についていた。


 こんなFランクの中年冒険者と、つり合いが取れていない。彼女の護衛である騎士たちも、オレをジロりと睨んでくる。


「カレン、落ち着こう。後で場所を変えて、ゆっくり話そう」


 ギルド内で、色恋で目立つのはまずい。

 自分の常宿の店名を、紙に書いて手渡す。この街はそんな広くないので、すぐ見つけ出せるであろう。


「は、はい……そうでしたね。私も取り乱して、すみません、ソータさん」


 落ち着きを取り戻したカレンは、顔を赤くして離れていく。どうやら彼女も感動で我を忘れていたらしい。


 簡単に彼女のことを聞いておく。

 それによるとサザンの街には、仕事で来ていたという。

 午後の仕事が終わった夕食後。その後に宿で待ち合わせすることにした。


「じー」

「アセナ、移動しよう。そこで説明をする」


 アセナがほおを膨らませて怒っていた。彼女にも事情を説明しないといけない。


 テーブルに残っている料理と酒があった。これは別料金で後で、宿に届けてもらうことにする。

 この状況ではゆっくり昼飯も食えない。

 オレはアセナと急ぎ足で、宿に戻ることにした。



「……なるほど、わかった。あの女は、ソータの昔の仲間か」

「そうだ、アセナ。六年前の最初の仲間の一人だ」


 宿に戻り、アセナに一通り説明をする。


 オレが異世界から召喚されたことを。

 カレンを含む七人で、魔王を倒すための旅をしていたことを。


 オレには英雄職がなかった。だから今こうして人生に、再挑戦していることを正直に話す。


「すまないがアセナ。オレが六英雄の仲間だったことは、内緒にしておいてくれ」

「分かった。内緒は大事だ」


 アセナは頭の良い子である。オレの言わんとすることを、すぐに察してくれた。


 何しろ六英雄は味方も多いが、裏の敵も多い。秘匿にできる情報は、多いにこしたことはない。


「さっきの女……カレンとソータ、すごく親しそうだった」

「五年ぶりの再会だ。彼女は感動屋だったからな」


 鋭い視線で訪ねてきたアセナに、とぼけて返答する。

 彼女は何かを察していたのかもしれない。 

 これが女の勘とでいうのか? もしくは銀狼族の野生の勘かもしれない。


 アセナの勘は半分だけ当たっていた。

 六年前、カレンはオレのことを慕っていたのだ。


 慕うといっても、歳上の兄や父を尊敬する気持ちに近いものだ。

 異世界に召喚された時、彼女は十六才の女子高校生。

 聞いた話ではカレンは、父親を早くに亡くしていたという。それで父性に飢えていたのかもしれない。


 七人の中で最年長だった当時二十九歳のオレ。それに甘えていただけであろう。

 きっと、そうに違いない。

 何しろ当時のオレは英雄職がない、平凡で魅力のない影職だったのだ。好きになるはハズはないであろう。


「ソータに魅力ある。だから大丈夫」

「そうか? アセナのその言葉だけでも、感謝だな」


 さて、これでアセナへの説明は無事に終わった。

 後は夕方に訪問してくるカレンの対応である。


 それにしても、こんな辺境の街に、何の仕事で来たのであろうか?

 そういえば護衛の騎士の顔が、やけに険しかったのが気になる。もしかしたら何か大きな任務の、途中なのであろうか?


「だが考えても、仕方ないな。少し訓練するか、アセナ?」

「ソータは酒を飲んでいた。大丈夫なのか?」

「酔っ払い。風邪気味。こんな不調の時でも、対応する訓練も必要なのさ」


 酒を飲んでいたことは、特に問題ない。

 これまでもワザと平衡感覚を、狂わせた鍛錬も積んでいた。特に今はカレンの突然の登場で、酔いも一気に冷めている。


「ハンデがあって手加減しないぞ、アセナ」

「望むところだ、ソータ


 こうしてオレたちは訓練で汗を流すことにした。

 カレンのことは気になるが、今は身体を動かしていた方がいい。

 余計なことを考えなくても済むからである。



 その後。約束の夕方の時間となった。


「……?」


 宿屋の部屋にオレはいた。廊下に誰かの気配を感じる。


「カレンか? 開いているぞ。入れ」


 廊下いた来訪者に、オレは声をかける。


「誰に向かって言っているのだ、ソータ?」


 同じ部屋にいたアセナは、来訪者に気が付いていなかった。銀狼族である彼女が全く、気配を感じることが出来なかったのである。


「むっ? いつの間に⁉ それにお前、誰だ?」


 部屋に入ってきた人影に向かって、アセナは剣を構える。

 彼女が警戒するのも無理はない。


 何故なら部屋に入って来たのは、知らない女性。昼間のカレンではなく、普通の村娘だったのだ。


「それは変化の術か、カレン? 相変わらずたいした術だな」

「面倒を避けてきました。では、元に戻ります」


 術を解除すると、村娘がカレンの姿に戻る。


 これは彼女が昔から、得意としていた変化の術。背格好や顔を、自由自在に変えることができる。

 ただし気配や声までは、変えられないのは弱点である。


 ちなみに宿屋に入ってきた時は、“気配遮断”をする魔法でも使ったのであろう。オレでなければ感知できない高レベルの術である。


「私は席を外そう、ソータ」

「ソータさん、この子は?」

「こいつは銀狼族の戦士アセナ。訳あってオレの弟子であり、今の仲間だ」

「銀狼族の? それなら一緒に話を聞いていて欲しいです」


 気を利かせてアセナは、部屋を出ていこうとする。それをカレンがひき止める。

 何か事情があるのであろう。アセナにも同席してもらうことにした。


「改めてソータさん、生きていてよかったです。本当に心配していました」

「突然、姿を消して悪かった、カレン。あれから色々とあったが、今はこうして元気にしている」


 この五年間の自分のことを語る。


 浮遊城の最後の決戦に、選ばれなかった後のこと。

 自暴自棄になり、一人で大陸中をさ迷っていたこと。

 身分と名を隠して、冒険者として静かに生き延びていた日々のこと。


 だが二週間ほど、再起を決意したと。今はアセナと二人でパーティーを組んでいた。

 別れてからのことを簡潔に説明する。


「ソータさんに、そんなことが……あっ、私の方は」

「アセナは今は、魔術師ギルドの本部の顧問主任……だろ?」


 六英雄のことは気になって、オレはこっそり定期的に調べていた。影職だったオレの得意技だ。


 アセナの役職は想像以上に重労働であった。

 大陸各地の遺跡の調査や、マジックの鑑定と開発。また王国の行事にも出席にしないといけない。


 気ままな冒険者だったオレよりも、彼女の方が何倍も激務の日々であろう。


「はい。たしかに、この五年間は大変でした。でも好きで残ったので、悔いはありません」

「そうだったな」


 魔王を倒した後、六英雄には選択権があった。


『元の地球に記憶を消して帰還するか?』

『それとも異世界に永住していくか?』


 アセナをはじめ他の六英雄は、全員が異世界の永住を選択した。彼女たちは異世界の復興のために、残ってくれたのだ。


「そういえば、アセナ。みんなオレのことを恨んでいた……だろう? 逃げ出した卑怯者として」


 それは聞くのも、胸が苦しくなる質問であった

 だがどうしても聞きたかった質問である。


 彼女たち六人がどう思っているか、知りたかったのだ。

 あの日、逃げ出した自分のことを、どう思っていたのか。


「皆さん私と同じように、ソータさんのことを心配していました。私は信じて、知っていました。ソータさんが悩んでいたことを……英雄職では無かった苦しみに、もがいていたことを……」


 当時のカレンは気が付いていたのだ。

 オレが一人で苦しんでいたことを。陰ながら一人で、ずっと努力していた日々のことを。


 だからこそ彼女は信じていたという。

 このオレが再び立ち上がることを。長い休憩を終えて、再び必ず駆けていくことを。


「そうだったのか、カレン……」

「はい。私、前に言いましたよね? 浮遊城の決戦の前に。私はソータさんのことを……その想いは今も変わりません」

「なっ……!?」


 いきなりの話が急展開した。飲んでいた水を吹き出しそうになった。

 我慢したら喉につまり、咳きこむ。


「カレン……それは……」


 まさかの奇襲戦法を食らった。五年前のことを、ここで切り出されるとは思ってもいなかった。

 彼女も今では二十二歳。六年前に比べて、女生徒として成長してのかもしれない。


「急がなくても大丈夫です、ソータさん」

「そ、そうか……ところで、もう一つの気になることとは?」


 話題を変えることにする。

 これ以上のプライベートな話は危険すぎる。


 横で聞いているアセナも、何故かイライラしている。

 ちょうどいい話しの転機であろう。


「そうでした。実は……そこの彼女、アセナさんにも関係しています」

「何だと、アセナだと?」

「はい。銀狼族の秘宝であった“白銀の器”が行方不明です」

「何だと、あの秘宝が銀狼族の里にあったのか?」


 “白銀の器”とは大陸に四つある、神器の一つである。

 神器には全て揃えた者の願いを、叶える力があると言われていた。


「アセナ、知っていたか?」

「知らなかった。族長だけが入れる、“秘密の祠”。そこにあったのかも」


 里でも神器の存在は、秘匿とされていたらしい。

 実の娘であるアセナでも知らない。

 

 おそらくは代々の銀狼族の族長しか知らない、隠し場所だったのであろう。もしかしたら結界か何かで隠されていたのかもしれない。


「少し前、魔術師ギルドの本部で、神器の反応を感知しました。私と護衛の魔法騎士で、その場所に行ってみました。たどり着いた先は、樹海の中の銀狼族の里でした」

「なるほど。その帰りでこの街に寄ったのか」


 銀狼族の里があった樹海から、一番近い街はサザンである。

 それならばカレンたち調査団が、帰りに立ち寄ったのも納得ができる。

 この街の転移の門を使って、本部に戻ろうとしていたのであろう。


「実はソータさん……神器の微かな魔力の反応跡が、この街に残っていました」

「何だと、このサザンにだと?」


 情報から状況を整理する。

 里を滅ぼした襲撃者が、“白銀の器”を手に入れたのであろう。

 アセナが目撃した赤い魔剣の凄腕の剣士。

 そいつが“白銀の器”を手に入れるために、銀狼族を滅ぼしたのかもしれない。


「赤い魔剣使い……ですか? 私たちの方でも調べておきます」

「ああ、頼む。何か分かったら、冒険者ギルドの掲示板に出しておいてくれ」


 冒険者ギルドは大陸中にネットワークを持っている。通信の魔道具を有しており、各地の情報が集まっていた。

 そのシステムを利用して、定期連絡も可能である。

 六英雄の仲間で使っていた暗号を、念のためにカレンと復習しておく。


「あの魔剣使いが、この街に……」

「そう力むな、アセナ。残存反応があるだけだ。当人はいないであろう。“白銀の器”があったら、カレンが感知している」


 カレンは大陸でも一人しかいない“大魔導士”である。

 攻撃的な魔法だけではなく、探知魔法にも優れていた。

 彼女に探知に引っかからないのなら、魔剣使いは遠い街にいるのかもしれない。


「はい、ソータさん。“白銀の器”は無いと思います。でも残存反応がある場所に、実は問題があります」

「問題だと?」

「はい。この街のサザン迷宮の地下三階……そこから残存反応があるのです」

「何だと、三階だと?」


 サザン迷宮は地下二階までしかない。

 何度も潜って探索していたから間違いはずだ。冒険者ギルドでも地下二階までしか把握していない。


「だから明日から、迷宮の調査に行こうかと思います」


 カレンは真剣な表情で決意していた。

 神器の悪用は、大陸の平和を脅かす危険性がある。


 特に赤い魔剣使いは、銀狼族すらも皆殺しにする危険人物である。絶対に許すわけにいかないと、彼女は決意していた。


「だが、アセナ。あの調査団のメンバーでは難しいぞ」

「はい、護衛は魔法騎士しかいません……」


 昼間にカレンたちのパーティーを見たが、盗賊職が一人もいなかった。魔術師ギルドの本部では、盗賊職を用意するつもりはないのであろう。


 何故なら魔術師ギルドは、盗賊を毛嫌いしている。貴重な古代遺跡を荒らす盗人として、軽蔑していたのだ。


「サザンで盗賊職を雇うとしても、難しいかもな。経験が豊富で、口が堅い者でないとダメだ」

「はい、そうなんです、ソータさん」


 今回の調査団は極秘の任務である。

 大危険な神器の消失の調査。これは絶対に外部に漏らしていけない。


 また三階の入り口を探す調査も、厄介である。口が堅く腕利きの盗賊職を、探さなくていけないのだ。

 大魔導士のカレンと連携に慣れたベテラン者が……。


 そうか、そういうことか。


「カレン、オレが手伝ってやろう」

「えっ……でもソータさんは……」

「かつての仲間カレンが困っている。それを助けるのに、理由はいらない」


 探している盗賊職に、オレ以上に相応しい者はいないであろう。

 形としてはオレが、調査団に雇われたことにした方がいい。それなら魔術師ギルドの本部もうるさくないであろう。


「それにしても、サザン迷宮の地下三階か……」


 正直なところ、オレは心が躍っていた。

 これまで今まで誰も到達したことの無い、未知の階層。そこへの道を切り開く。

 冒険者として、これ以上の興奮はないのだ。


「私もいく」

「そうだな、アセナ。それではカレン……改めて、よろしく頼む」

「ありがとうございます、ソータさん! こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 こうしてオレはかつての仲間と、再びパーティーを組むことになったのである。


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