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「もう私の乙女ゲージはゼロよ・・・!」
「あー、ほら。頭にもゲジゲジついてっぞ。とってやっから。」
「痛っ、だからあんなところ通りたくなかったの!」
「何いってんだ、おめえが近道いくぞっていうからだべ。
オラは止めただねえか。なのにイリアが突っ走るからだべよ。」
「ううう、そうだけどお。」
ううう、と呻きながらもイリアとマジルはがれあ都の入り口にいた。
思い返せばあの分かれ道で自分が突っ走ったからだと、ボロボロになった自分に溜息を吐いた。
「ねえ、こっちの道に近道の矢印あるじゃないの。こっち行こうよ。」
「えー・・・オラそっちあんまし行きたくねえだよ。運次第なんだもんよ。」
「はあ?わけわかんないこと言ってないでいいから、ほら。行くわよ!」
渋るマジルの腕を引っ張りイリアは近道のほうへ突き進んだ。
二日かけるところを近道で駆け抜けてきたイリアとマジル。
その道程は短いが険しいものであった。
ある場所だけ落とし穴沼や、選択肢がある坂道から急に大きな岩玉が転がってきたりなど、選ぶところによって助かるまさに《運ゲー》。
しかし、なんとも悲しいことに二人はその日の運勢は最悪だったようで見事に落とし穴沼にはまり、坂道から襲ってくる岩玉から死に物狂いで逃げた。
そして、なんとかその近道を通り抜け、がれあ山のふもと付近のキャンプ場へ着いた。
「とりあえず寝るわ、もうダメ。」
「んだな、そうすっか。」
疲労ダメージ最大の二人は無言で簡易食事をし寝袋へイン。
「やーん、勇者結婚しよー。らびゅーよ、らびゅー。」
「やめてけれえ、姉ちゃん。オラそんなもん嫌いだべ。」
うへへとよだれをたらしながら笑うイリアと、うううっと魘されるマジルのたまに気持ち悪い寝言が虫の音とともに夜に響いた。
そして寝袋でゴロゴロ転がりながら熟睡する図太いイリアにたまに起こされながらマジルも横で寝た。
「おーい、マジル、こっちこっち!」
マジルに手を引かれながら門を通過すると中々かっこいい青年が手を振っていた。
「兄ちゃん!オラが今日来るってよくわかっただな!」
「マジル久しぶり~。
姉ちゃんの予言で今日来るとか言うから待ってた。
そんで、そっちの子って、何?マジルのコレ?」
ニヤニヤと小指を立てる兄にマジルは違うと首を振った。
「ほれ、イリア。いい加減に前を向けって。」
「ううう、こんな格好、恥ずかしすぎる。もう、早くどっか行こう。」
「何したの?」
「なんかな、都会にきたら自分の恰好が恥ずかしくてしょうがないんだと。
お洒落でめんこい子がいっぱいいんべ?
それなのに小豆ジャージがなんちゃらってさっきから言ってんの。」
「ああ・・・まぁ、たしかに。イリアちゃんだっけ?
イリアちゃん着替えとかないの?服買いに行く?」
「あるけど着替える場所がないもん。」
もはや半べそ状態のイリアにマジルの兄は苦笑した。
「姉ちゃんとこで着替えたらいいよ。風呂も貸してもらえばいいさ。」
「んだんだ、姉ちゃんとこさ行くべ。」
「マジルもさあ、イリアちゃん女の子なんだから少しは気をつかってあげなきゃダメだよ?
こんな年頃で可愛い子がこんなだっさいジャージで都に来るってありえないからね。
せめて途中で着替える場所考えるとかしないと。」
「別に裸じゃねえんだから良いべよ。
それにジャージの何が悪いべ!機能性抜群!オラは服はジャージさえあればいい!」
「・・・マジル、お前その考え方なんとかしないとマジで彼女できねーぞ。」
そんなマジルの一張羅はブルーのラメジャージである。
キラキラと光るブルーのラメが目に痛い。
「マジル、さあ、私を癒しなさい。」
「なんでそんな姉ちゃん偉そうなんだべな。・・・ほれ、こっちゃこい。」
マジルの姉の部屋に着くなりヒーリングが始まった。
椅子に座る姉にマジルは両手をかざし目を閉じた。
両手からは緑色の淡い光がでてそれはオーラのように優しく姉を包んだ。
すると目にクマがあり疲労感いっぱいだった姉は少しづつ生気を取り戻していった。
顔のむくみがとれ頬はピンク色に、青紫色だった唇が可愛らしい桃色へ。
あら不思議。
死にかけブスが可愛い少女へ。
「え、ええええええ!」
イリアはそのビフォーアフターをみて叫んだ。
なにその便利な力!
「マジル!あんたエステティシャンになりなさいよ!」
私のおかかえ専属にしたい!
切実に思ったイリアであった。