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「わあ!あれは何?すごいわ!素晴らしいわ!」

最初は自然いっぱいの草花や見たこともない色鮮やかな昆虫や可愛らしい動物たちに感動していたけど30分も歩けば見慣れてしまい感動は少しずつ薄れていった。

それどころか一向に目的の建物が見えず、歩くのが億劫になっていた。

見えるのは山ばかり。

たまに蹴りやすい小石を見つけては八つ当たりのように蹴る。

「まだなの?マジル、あんたの家ってあとどれくらいで着くの。」

「あとちょっとだべ。」

「・・・あんた、さっきも同じこと言ってたわよ!」

「気が短い奴だなあ。んだなあ~、あと2時間くらい。」

「はぁ?!に・じ・か・ん?!」

「んだ。な?あとちょっとだべ?」

ほんわか~という言葉が似合うマジルの笑みにイリアは気絶しそうになった。

ぶん殴りてえ、なんだコイツ、マジぶん殴りてえ

イリアはヒロインにあるまじきこと、そんな物騒なことを思っていた。



イリアはマジルの家に着いてからの記憶はほぼない。

二時間気絶したように何も考えずに歩いていたからだ。

「ほれ、とりあえずこれでも着とけ。風呂はあっちだべ。」

ぽいぽい、と着替えを渡され風呂にぽいっと案内され倒れこむように湯船に入って、ようやく意識を戻し始めていた。

「うえーい、生き返る~。」

年寄りくさい呻き声が風呂場に響き渡る。

さっぱりとした体に満足し、髪からはほのかに良い香りがして思わずニヤニヤするイリア。

くんくん、と自身の肌と髪に鼻を摺り寄せると石鹸や花の香りで胸がいっぱいになった。

「あー、天国、天国。」

天国なんかうちとは正反対の場所だけどな。

まぁ行ったこともないんだけどね。

ふんふん♪とタオルで体をふきながら自然に鼻歌がでるほど気分は上々。

子供の頃、父がよく子守唄で歌ってくれた曲を口ずさむ。

ただしこの時の歌は「魔王」である。

さすがは魔王の娘、イリア。



「マジルー、お風呂ありが、」

ありがとう、と言いかけたが最後まで言えなかった。

お風呂を上がると肝っ玉母さんが笑顔で待ち構えていた。

「あら、めんこいこと!

あんたがマジルの言ってた娘っこかい!

きったねーって言ってたけど磨けばがっつり光るもんだね!」

「母ちゃん!」

「なんだい、マジル。あんた顔赤いよ?こんな田舎じゃペッピンさんに会うなんてなかなかないからね。

さては照れてるんじゃないかい?」

「ちげーよ!」

ぷいっと行ってしまったマジルに

「思春期かね。良いねえ、若いってのは!」

とガハガハ笑うガタイの良いマジルの父と横でニヤニヤするマジルの母。

声をかけるタイミングを逃していたイリアはハッと今言わなくては!と思い、言った。

「あ、あの、お風呂ありがとうございました!」

「なあに、困ったときはお互いさまさ!」

「そうさね、遠慮することないんだよ!」

ハハハ!と笑い合うマジルの母と父。

なんだか良い人たち・・・とほっと安心すると、部屋に美味しそうな香りがほのかにしていることに気付いた。

香ばしく甘いような、それでいて体に優しそうな香り。

イリアのお腹がぐううううぅとなった。

恥ずかしい!

イリアが赤面すると同時にマジルの父がガハハ!と笑い、それをマジルの母が横からペシッと叩き窘めた。

「あんた!いくら腹の音が部屋に響くほど大きかったからってそんなに笑っちゃ失礼でしょ!」

もっと恥ずかしくなった。

それじゃあフォローになっていませんよ、って誰かマジルの母に言ってほしい。

まったくもう乙女心ってもんが本当にわかんない父ちゃんだね!とプリプリしながら台所へ向かい、寸胴鍋へお玉を入れる。

黄金色に輝くコンソメスープの中にはゴロゴロと人参、ジャガイモ、玉ねぎ、肉厚なベーコンがたっぷり入っている。

それを真っ白なスープボウルへなみなみと注いだ。

「さてお嬢ちゃん、まずはいっぱいお食べ!」

「んだんだ、うちの母ちゃんの味は天下一だ!うんまいぞお!」

「大したもんじゃないよお。」

「いんや!母ちゃんが作った料理が一番うんまい!」

「やだよお、あんた!そんな褒めないでよ!」

イチャイチャしだした馬鹿夫婦(良い意味で)を放置してイリアはスプーンを手に取りスープを一口飲んだ。

暖かな湯気と野菜とベーコンの優しい甘みが体内に染み込んでいく。

はぁぁああああ、と溜息が漏れた。

そして、色鮮やかな野菜とベーコンを口に運び、ゆっくり具を咀嚼して飲み込んだ。

ごっくん、と飲み込む時、その重さを楽しみたくて思わず目を閉じる。

なんて美味しいだろう。

スープを運ぶ速さがだんだん早くなる。

「良かったらおかわりもあるよ、そんなに急いで食べなくても大丈夫だよ。」

「んだ、ほら。パンもあるぞ。」

スープから目を離し、声のほうへ顔を向けるとなんだかちょっと引いている二人がいた。

「ひゃりがーごりゃいましゅ。」

もがもが口に食べ物が入っている為、ありがとうが上手く言えなかった。

それでもイリアはサッと空のスープボウルをマジルの母に差し出し、パンをこちらへ差し出していたマジルの父から有難くパンをもらっていた。

「しっかし、よく食べんなぁ。」

頬いっぱいに頬張るイリアをみて、昔飼っていたハムスターのもんちゃんをマジルの父は思い出していた。










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