3
兄や弟は罠を仕掛けた。
だが、もしも自分の仕掛けた罠で勇者が死んだりしたら可愛いイリアが悲しむ。
最悪、絶交されちゃうかもしれない。
「もうお兄様達なんか大嫌い!一生口きかないんだから!」
なんて言われたらもう生きていけない。
だけど何もしないまま可愛いイリアをあの嫌いな勇者に渡すのもムカつく。
だけどやりすぎて嫌われたくない。
そんな兄と弟の葛藤は、とても微妙な罠へと体現していった。
大きな落とし穴にはスライム。(落ちてもスライムがクッションになり無傷だがスライム特有のベタベタにイライラしちゃう)
大量の気色悪い爬虫類のようなモンスターに襲わせる。(微量の毒で軽い体調不良になるだけ)
天狗の羽で台風を巻き起こす(雨と風、湿気でイライラする)
そんなとっても微妙な罠の数々をハナコとリリアは呆れたように傍観していた。
「馬鹿じゃないの?あんなんじゃ精々軽いトラウマとかちょっとした傷を負うだけじゃん。絶対死なないよ。」
「そうねぇ、ハナコちゃんの言うとおりだわ。あれじゃ、駄目よねぇ。」
ハナコは腕を組みながら呆れて、その横でリリアはふぅふぅと紅茶を飲んでいた。
「そもそも兄貴達はやるきあるわけ?」
「あるらしいけどねぇ。」
「ほら、見てよ。今度は勇者がバジリスクの皮ですっ転んでる。痛そー。」
「あれ地味にヌメヌメ、ベチャベチャしてるのよねぇ。だけど、あの液って色々使えるのよねぇ。」
「・・・なんだかリリア姉が言うとイヤラシイ。」
ふふふ、とリリアが妖艶に微笑む。
「あ、父上だ。」
「お父様、どうするのかしら。」
「きっと負けるんじゃないかな。父上なんやかんやいってイリアに弱いじゃん。」
「イリア姉でしょ?ハナコちゃん。呼び捨てはだぁめ。」
「いいんだよ、だってイリアだもん。」
「まったくもう。・・・だけどまさかイリアちゃんが勇者を好きになるなんて、ねぇ?」
「本当イリアは馬鹿なんだから。」
初めてイリアから聞いた時、ハナコとリリアは驚きはしたが反対はしなかった。
女というものは不思議なもので恋愛に関しては男よりもませているのだ。
恐らくだが幼い頃から母と一緒に見たドラマや、友達と話題にした少女漫画が、恋愛価値観の先生になっているのだろう。
男がギャーギャーと戦隊物や怪獣に夢中になっている頃には、女は恋愛というものを知っている。
男が生理的欲求を求めている頃には、女は恋愛に愛だけを求めるのは不可能だということを知っている。
愛があっても、それだけでは生きてはいけない。
夢物語ばっかり語っているだけでは生活できないことを女は知っている。
その点では男よりは優れているといっていい。
「イリアの初恋かぁ。まぁ良いんじゃない?」
「そうねぇ、御伽噺みたいで素敵かもしれないわね。」
だけど忘れてはいけない。
女は現実主義だが、乙女でもあることを。
身分差の恋、ドラマチックな恋、そんなものに憧れている。