商人
町の方角にしばらく進むと前から何かが近づいてくる音が聞こえた。
目を凝らしてみるとどうやら馬車のようだ。ようだというのは実際には馬車をみたことがないからだ。
よくアニメとかでみるような行商用の馬車がこちらに向かってきていた。
一瞬隠れてやり過ごすべきかと思ったが、回りの荒野という状況とこちらにきてはじめて人に会えるかもという期待からあえてその場にたったまま待つ。
向こうもこちらに気づいたようで馬車を手前で止めた。馬を操っていたのは40歳くらいなダンディーなおじさんでその後ろの荷物のところには甲冑を着た傭兵のような出で立ちの男が2人といかにも町娘といった風貌の女の子が一人いた。
馬車に乗ったままダンディーなおじさんはこちらを向き不思議そうに聞いてくる。
「おい。坊主。こんなところで何してるんだ?」
「ちょっと道に迷いまして。気づいたらこんなところにいました。」
一瞬なんて言えばいいか悩んだけど無難にそう答えておく。するとその答えに多少怪しみながらもおじさんは納得しとような顔で頷いた。
「なるほど、旅の人かい。」
「あの、失礼かもですが、あなたたちはこんなところに何の用でいらしたのですか?」
「俺たちかい?まあ、野暮用さね。」
正直マップを見た感じこんな荒野に用事があるとは思えずに質問したがやんわりと流されてしまった。
「そんなことより。坊主は町に行きたいのか?」
「あ、えっとはい。そうです。」
「じゃあ、俺たちの仕事手伝ってくれるなら後で送ってやってもいいけどどうする?」
少し怪しげな誘いではあったが何かこの世界の情報が手に入るかもしれないし、俺は頷いておく。
するとおじさんは満足したような表情で聞いてくる。
「決まりだな。で、坊主の名前は?」
「僕は纏翔っていいます。」
「ショウか。おれはダンってんだ。んで、後ろにいるのが俺の娘のヨシアで甲冑着ているのが右がロンで左がジーニーだ。」
「はじめまして。」
「どうも。」
「・・・よろしく。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
おじさん・・・ダンが残りのメンバーも紹介してくれた。女の子は娘さんのヨシア。彼女は明るく挨拶を、残り甲冑の男二人もそれぞれロンは軽く、ジーニーは無口なのか静かにこちらに挨拶してくれた。
「あの、それで仕事の手伝いって何をするんですか?」
「ああ、それはな・・・。」
「お父さん。とりあえず中に入ってもらったら?」
娘のヨシアが俺がまだ馬車の外なのを気にして言ってくれる。
「そうだな。とりあえず乗れよ。」
「あ、ありがとうございます。」
はじめて馬車に乗ったが中は思ったより広くて荷物は多いが4人ひとかが乗っててもまだ少し余裕があるくらいだった。
「さて、お前さんに手伝って貰いたいのはこの辺にあるはずの迷宮区の探索の手伝いだ。」
「迷宮区?」
「聞いたことくらいあるだろ?なんでも願いが叶うと言われているこの世に20ヶ所ある隠し迷宮のことだよ。」
もちろん初耳だ。やっぱり異世界らしくそういうものが存在するのか。
「それで、俺は何を手伝えばいいんですか?」
「お前さんに手伝って貰いたいのは迷宮区を見つけた後に少しやってもらいたいことがあるんだよ。そんときにまた話すがとりあえず今はゆっくりしててくれ。」
怪しげな笑みで話すダン。選択肢ミスったかなー。なんてことを冗談でも考えてしまうくらい怪しいが、自力で町まで行く労力を考えると正直なところ今は諦めてついていくしかないというのが現実的な選択だろう。
馬車は向かう形で左右にそれぞれ座席があったが俺は空いているヨシアの隣に座った。
するとヨシアが俺に話しかけてくる。
「えっと。改めてよろしく。ショウって呼んでもいいかな?私はヨシアでいいから。」
「うん。大丈夫だよ。ありがとうヨシア。」
ヨシアはものすごい気さくな感じで話しやすく自然と口調も柔らかくさせてくれる親しみやすさがあった。
あとで聞いたことだがヨシアとダンは商人で迷宮にはある目的があって行くらしい。流石に目的はぼかされてけど。
「じゃあ、ショウは旅をしているときに記憶をなくしたの?」
なんとなしに俺の話になったので俺は記憶をなくしてこの世界のこともよくわからないことにした。これならある程度無知でもフォローできそうだしね。
「ああ、なんとなく旅をしていたのは覚えてるんだけど色々思い出せなくてさ。俺の知ってる常識もなんだか少し曖昧な感じがしてさ。だからさっきの迷宮区っていうのも少し思い出せなくてさ。」
「なるほど。だからさっきあんな態度だったのね。」
納得してくれるヨシア。
「まあ、でも迷宮区については多分さっきお父さんが言ってた内容以上は知ってる人が少ないと思うよ。」
「どういうこと?」
「迷宮区はね、一度入ったら外に出れないらしくて帰ってきた人が少ないの。しかも帰ってきた人もなかのことは何も語らないし本当に謎な場所なの。」
「そんな場所に一体何しにいくの?」
するとヨシアは少し困った顔をしたあとに「秘密だよ。」と前置きして言った。
「私とお父さんの夢を叶えるためかな?」
「夢?」
「うん。夢。」
詳しく聞きたかったがこれ以上のことは語ってくれなかった。
ちなみにその頃近くにいたロンとジーニーは辺りを警戒してあまり喋っていなかった。
結局なんとも奇妙な雰囲気の中俺はダン達についていくことになった。
分量がまだ分からないので長いときと短い時がありますがご容赦を。