プロローグ とある姉弟の日常
「シスコン」て言葉の意味をみなさんはご存知だろうか。
いや、現代人で知らない人はいないと思うけど、念のため聞いておく。
意味あいとしては妹、姉といった自身の女の家族に過度に愛情を持った人に与えられる称号って認識の人は多いだろう。
実際あれって家族の愛情が深いだけの人を馬鹿にしている単語にも聞こえるけど、ある意味誉め言葉にも聞こえるよね。
まあ、もちろん胸をはって自分はシスコンです。なんて言ったらドン引きされるからいう人はそうそういないだろうけどな。
さて、ここまできて何が言いたいかって?
「えっへへー。翔ちゃん。」
現在俺は自分の姉である纏鶴に抱きつかれてれている。理由?そんなもんないよ。
「あのさ・・・。鶴姉・・・。」
「なあに翔ちゃん?」
優しげに返事をする鶴姉。今年で17歳になる姉は長い黒髪を後で縛った大和撫子的な雰囲気をもつ。はっきりいって身内の俺からみても美人だ。
しかしそんな美人な姉に抱きつかれる俺は正直言って困ったが半分、ちょっぴりうれしいが半分くらいの割合の感情が大きくて戸惑ってしまっていた。
「俺そろそろ部屋に戻って本が読みたいんだけど・・・」
「んー。もう少ししたらいいよー。」
「さいですか・・・。」
一応の抵抗は試みてみるが見事に失敗。姉に対して強く出れない俺にはこれくらいしか抵抗できないのが正直なところだ。
普通の姉弟の関係はよく分からないけど多分うちは特殊な部類に入るのだろう。
何故なら・・・
「そういえば、翔ちゃん。明日は授業参観があるって本当?」
「・・・・なんで鶴姉そのことを。」
「昨日佳子の弟の圭太くんが言ってたって聞いてね。」
「あいつが原因か・・・。」
佳子とは鶴姉の高校の友達で俺の友人の圭太の姉でもある。あいつから時々俺の情報が姉に伝わることがある。明日あったらどうしてくれようか。そんなことを考えてると鶴姉は再度問いかけてくる。
「で、本当なんだよね?」
「・・・でも鶴姉明日は用事があるって言ってたし、それに・・・。」
「翔ちゃん。」
せめてもの抵抗にと言い訳をしようとする俺の言葉を遮る鶴姉。
鶴姉は優しげにほほ笑みながら言った。
「翔ちゃんが私に気を使ってくれるのはうれしいけど、そういう面で気を使うのはダメだよ。私たちはこの世でたった二人の家族なんだから。」
「・・・うん。」
鶴姉の言葉に申し訳なく思いつつも嬉しくなってしまう。来年は姉と同じ高校を志望している中学3年生の俺はいつまでたっても保護者の姉に頭があがらない。
そう、「保護者の姉」
俺たちには両親がいない。幼い頃に病気で両親を亡くした俺たちは親戚の援助と両親の残した遺産でなんとか生活をしている。
家は昔の両親が建てた家をそのまま使っている。本当は親戚の家にやっかいになる話もあったが、親の遺産目当ての欲望丸出しの大人に俺たちは嫌気がさし、結果二人で暮らしている。
だからこそ俺たちは普通の姉弟の中では仲がいい部類に入ると思う。
「じゃあ、明日は途中で授業抜け出してそっち行くから待っててね。」
「いいけど、大丈夫なの?」
「まあね。高校で習うくらいのことならもう分かってるしね。」
凄く大袈裟な物言いだが真実なのでなんとも言えない。鶴姉は幼少から頭がよくて運動もできてその上才色兼備のスーパー美少女なのだ。まあ、その代わりに弟の俺は出涸らし扱いだが・・・。
そんな俺の思考を読んだのか鶴姉は優しげに言った。
「大丈夫。翔ちゃんにも誰にも負けない才能があるから。だから自信を持って。ね。」
「ありがとう。鶴姉。」
あまり気にしてはいないが素直に頷く。
が、鶴姉の次の一言で俺は固まってしまう。
「ところで、翔ちゃん。最近翔ちゃんがある特定の女の子と仲がいいって聞いたんだけど本当?」
「・・・圭太が言ってたの?」
顔は笑っていても目が笑っていない鶴姉に思わず聞いてしまう。
「質問には答えようね。その子とはどんな関係なのかな?」
「ただのクラスメイトだよ。」
普段は優しい鶴姉だが、俺に近付く異性に厳しく、時折俺が女子と仲良くしていたって話を聞くとこんな感じ詰問してくる。
「本当なのね?」
「本当だよ。」
「お姉ちゃんの目をみて言える?」
「本当だから大丈夫だよ。」
なにも邪なことはないので素直に答える。そもそも俺に近付く女子とかあんまりいないけど。少しモテない現実が心にしみる。
俺の態度から信じたのか鶴姉はさっきまでの笑顔に戻っていた。
「ならよし。じゃあ、明日楽しみにしているからね。」
俺のことを家族として大切に思ってくれている鶴姉。そんな俺はシスコンなのだろうか。この時まではきっとこんな下らない悩みを抱えて代わり映えしないような姉との貧しくも楽しい生活を送るのだろうと思っていた。
それから数日後。俺たちはこの世から消えた。
初投稿です。
のんびり書いていきたいです。