終わりの始まり
ーー眼前に迫る巨大な塊と、盛大な地面をひきずるような形容しがたい音を聞きながら、少年は自分の命の終わりが間近なのを察した。
ーーコレ、死んだな。
ワケの分からない人工的な赤、青、黄と視界で忙しく点滅を繰り返す光が少年の瞳に映し出される。
少年が石のような硬いもので固められた地面に描かれた不可解な模様ーー白い線を踏んだ瞬間、彼の身体を衝撃が包み込んだ。
「ーーっ!」
声を上げる暇も、なかった。
キキーーッと耳元で不快な音が響くと共に彼の身体は当然の如く、宙に浮かびそのまま落下する。ガシャンと金属音が地面に叩きつけられると同時に鳴り、少年は全身が痺れるのを感じていた。
ーー幸い、〝鎧〟のおかげで勢いよく地面に叩きつけられても全身の痺れだけで済んだようだ。
「ーーでも、これでも結構痛いけどな……」
皮肉を呟き、血の滲んだ唇の端を歪めると同時に、彼の意識は朦朧として来ていた。
ガンガンと頭痛がひどく、視界にちらつく光が気持ち悪い。
自分を轢いたのは一体何だろう?朦朧としてきた視界の中見える車輪の4つ付いた黒色の鉄の塊は少年の乏しい人生経験の中で目にしたことのないものだ。
「それにしてもワケの分からん世界に飛ばされたと思ったらいきなりコレか……」
どうやってこんな世界に飛ばされたのかは分からない。
でも、もう少しくらい優しくしてくれたっていいんじゃないか?
ついに視界がぼやける。
いろんな色が視界に光る中、少年の目の前の赤い光がやけに強く点滅した。
辺りがざわめくのが分かる。誰か自分に気付いて手当てしてくれると良いのだが。
「た、すけ……」
助けを呼ぼうとするが、喉からはひゅうと掠れた空気しか漏れなかった。
目の前の赤い光が突如、青い光へと変わる。
鳴り響く悲鳴に一層ざわめき出す人混みの中で、少年は意識が闇へと堕ちていくのが分かった。
そういえば、彼女は無事だろうか?
失う意識の中でふとそんなことを考えた。
凛とした瞳。陶器のような肌。そして、漆黒の艶やかな絹糸のような髪。
ーー怒った顔も、真剣な顔も、少し儚げに微笑んだ顔も全てが好きだった。
……彼女は怒ってるだろうか。
(怒ってるよな、当然……俺のせいで死にそうになったも同然だし)
ーー彼女の姿は、もうどこにもない。どうやらもう謝ることもできないのだろう。
突如〝トーキョー〟と言う名の異世界の街に飛ばされた少年ーージュンの意識はここで途絶えた。