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月影浴1 おつきさま  作者: @naka-motoo
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第8話 はじまりは今(その8)

 お父さんは、うつ病と診断された。でも、会社は休まず、翌朝も唸りながら起きて仕事に行った。お医者さんは、本当は休んだ方がいいと言ったのだが、お父さんの会社では病気を理由に仕事に支障を来す人間は降格や解雇の対象になるという規程ができたばかりだった。つまり、病気を言い訳にするような社員は「もう、いい」ということだったのだろう。だから、お父さんは、会社に行き続けた。あれから二年近く経った今も会社に行き続けている。

お医者さんは、それなら仕方ないということで、服薬しながら仕事を続けるという治療法をとった。お父さんがそのような状態で、会社で仕事をこなせていたのかどうかは、僕には分からない。ただ、給料を大幅に下げられたり、クビになったりするのをなんとか避けたいという一心だったのだろう。それはお父さんのプライドなのか、家族の生活を考えてなのか、僕にはやっぱり分からない。ただ一つ分かったことは、大人になったからといって、物事が解決する訳ではないということだ。

僕は、大人の世界は理性的で、文字通り「大人」の集まりなので、弱い人をいたわり助け、責任と思いやりを持った人間たちの集団だと漠然と思っていた。だが、お父さんの病気のいきさつをお母さんから間接的に聞いていると、大人の世界でも理不尽で子供のいじめにも悖る行動を取っている人間が少なからずいるのだろうかと感じざるを得なかった。もちろん、お父さんも理不尽な大人の世界の一員で、お父さん自身にも撒いた種を刈らねばならないということが言えるのかもしれない。でも、僕は、生きていることそのものがとても不安で脆く危ういものなのだと直感してしまった。僕たちがもっと小さい子供の頃から、お父さんが神社へ兄ちゃんと僕をよく連れて行ってくれた理由がなんとなく分かるような気がした。そして、お父さん自身が夢遊病者のように、ほとんど毎日、仕事に行く前に神社へお参りに行っていた理由がなんとなく想像できた。

僕も、なんとも言いようのない寂しさ、なんともたとえようのない不安と悲しみに耐えきれず、小さな子供が学校へ行くのをいやいやするように、通学の途中で遠回りして神社へ寄ったのが最初だった。それは中学2年生の時から少しずつ回数が増え、高校生となった今は、毎日お参りしている。でも何をお願いする訳でもない。ただ、今朝もこの場所に寄せて頂いたことを不思議に感じながら、力なく柏手を打つだけだ。


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