第6話 はじまりは今(その6)
翌朝、僕は、またあのおばあちゃんの家の前を通ってみた。今日も、おばあちゃんは木造の家の窓から、幼稚園児や小学生が通学する様子を見ながらにこにことほほ笑んでいた。
僕は、ふっと、このおばあちゃんの家族はこの家に一緒に暮らしているのだろうかと気になった。家の古さから、自分の子供夫婦と暮らしているような感じはせず、もし誰かと一緒に暮らしているとしたら、旦那さん、つまりおじいちゃんとではないだろうかと、そんな気がした。一瞬だけ立ち止まって僕はそのおばあちゃんを見つめた。おばあちゃんの笑顔を見ながら昨日とは反対の連想をしていた。おばあちゃんの笑顔から、日向さんの笑顔を思い出したのだ。
昨日、日向さんの笑顔からおばあちゃんの笑顔を思い出した時は、それを日向さんが知ったとしたら、
‘私っておばあちゃんぽいのかな?’
と、少し気に病むかもしれない。
でも、このおばあちゃんにとっては、日向さんの笑顔と重ねられることは、嬉しくなくとも嫌な気はしないのではないかと勝手に思う。現役の女子高生と比べられるのだから。
僕が立ち止まっておばあちゃんを見たのはほんの数秒。右方向に視線をやりながらそのまま家の前を通り過ぎる。
それから神社に向かった。
神社の前まで歩く間、背中から朝日が自分を後押しするように鳥居の前へと自動的に進められるような気分になる。鳥居の前の横断歩道で信号を待つ間、突然周囲の目が気になり始めた。だんだんと僕は俯き加減になり、アスファルトの地面を眺める。横断歩道の白い横断線の照り返しがまぶしくて、横断線からさらに内側に曲がって視線を落とし、俯き、気が付いたらほぼ直角に首が地面を向いていた。
信号が青になり、右折して曲がって来ようとして横断歩道の手前で待機する車に下を向いたままさらに頭を下げた。