第45話 8月へ(その11)
わたしたちは、かおるくんと日野くんに送ってもらって家に帰ってきた。神社でお参りしたので、花火が終わってすぐに帰る人たちの混雑とは少し時間差があり、自転車で走っていても、何度も停止したりということはなく、比較的スムーズに家に着いた。
耕太郎は一応小学生なので早く寝かせないといけないから、先にシャワーだけ浴びさせ、その後、えんちゃん(遠藤さんのこと)、わきさん(脇坂さんのこと)、わたしの順でお風呂に入った。私が最後なので、お風呂のお湯を抜いて、上がる前に浴槽をスポンジで洗った。
磨りガラスになっている窓の向こうが、まだぼんやりと明るい。きっと、神社の境内にはまだ人が結構いて、お参りしたり、さっきのわたしたちみたいに、少し話をしたりしているのだろう。
わたしの部屋では狭くて女子3人は寝るスペースがないので、仏間の隣にある座敷に布団を運び、川の字になった。みんな、できるだけさっさと風呂を切り上げたつもりだったけれども、それでも23:30を回っていた。まだ、みんな、眠れないようだ。
わきさんが話し始めた。
「ひなちゃん」
「はい?」
「ひなちゃんと、小田くんって、どうなの?」
わたしは、とぼけた訳でもなく、わきさんの疑問文の意味が分からず、ストレートに更に疑問文をかぶせた。
「どうなのって?」
わきさんは、わたしの性格もよくわきまえた上で、質問の形式を変えてくれた。
「‘カレ’ではないんだよね?」
わたしは、うろたえるつもりはなかったけれども、それでも、今まで、自分の人生の中で、自分に直接関わる単語としては縁の無かった、‘カレ’という言葉に緊張した。わきさんは、私がまだ喋りにくいだろうと思ってか、質問をもう一つ付け加えてくれた。
「‘友達’っていうのもなんか、違うんだよね?」
私は、無言のまま、‘考えているよ、’という雰囲気だけ伝えた。
今度は、助け船のつもりか、えんちゃんが代わって話しかけてきてくれた。
「ひなちゃんのお母さんが、‘学生は付き合っちゃだめ’って言うから付き合わないんだよね?」
助け船のつもりだったのだろうけれども、よけいに言葉を発しにくくなってしまった。わたしは、ゆっくり、できるだけ声が震えたり、極端に高くなったりしないように、答え始めた。
「少し、真面目なことを話し合う男の子」
えんちゃんも、わきさんも、おー、という、何に感動したのかは分からないけれども、感歎の声を上げた。
「‘少し、真面目なこと’っていうのは、‘真面目に付き合う’っていうこと?」
「んー、そうじゃなくて」
わたしは、二人のことを親友だと思っているけれども、どこまで深く話していいのか分からなかった。分からないなりに、真剣に話してみようと思った。
「たとえば、今日の夕食の時、わたしのおばあちゃんやお母さんが色々話したよね」
2人は、うん、と返事してくれた。
「ああいうことって、えんちゃんとわきさんは女だから、何となくわかってくれる部分もあるよね」
「ちょっと難しくて大変な部分もあったけどね」
わきさんは率直な意見を言ってくれた。
「多分、えんちゃんもわきさんも、家の後を継ぐっていう話、分かる所もあるけれど、それはちょっと違う、みたいな部分もあったと思う」
うん、全部は分からなかった、とえんちゃんも正直に言ってくれる。
「えんちゃんもわきさんも、女だから、わたしはこうやって一緒の部屋でじっくりと話して、色々やり取りできたり、分からないことは率直に聞けるよね」
うん、そうだね、という声が、片方の布団の中から聞こえる。
「でも、男の人とは、普通、そういうことってないと思って」
わたしが、ゆっくり区切るように言うと、わきさんが、んー、としばらく考えてからこう言った。
「ひなちゃんは、男子ともそういう話をしたいと思ったから?」
うん、とわたしは答える。
「それが、小田くんだったのはどうして?」
今度は、わたしが、んー、と声を出して考えた。まだ続けて、んー、と10秒くらい考えた。
「そうじゃないかもしれないけど、‘縁’があった、ってことだと思う」
えんちゃんが、縁?と不思議そうにつぶやいた。
わたしは、もう一度、声に出して言ってみた。
「‘縁’・・・のような気がする」
わきさんは、ちょっとだけ嬉しそうな顔をして、
「まるで、結婚するみたい」
えっ、と、わたしは一瞬固まりかけたが、すぐに、苦しい説明をした。
「‘好き’とか‘嫌い’とか言う話じゃないとしたら、‘縁’っていう言葉しか思いつかなくて」
えんちゃんも嬉しそうに解説してくれる。
「よく分からないけど、ひなちゃんは、小田くんに、何か特別な気持ちを持ってるってことだよね」




