第22話 はじまりは今(その22)
「かおるくん、わたしのおばあちゃんとお母さんに挨拶していって貰っても、いい?」
「え?」
さつきちゃんは、いたって真面目に僕に言っているようだ。でも、僕は躊躇した。
「でも、おばあちゃんとお母さんは、僕が来てること知らないんじゃ・・・・」
さつきちゃんは、にこにこして僕にこう言った。
「家の前の公園に来てもらいなさい、って言ったのは、お母さんなんだよ。家の目と鼻の先なら安心だからって。だから、話し終わったら、声をかけるように言われてて」
僕は、やたらと緊張してきた。僕がさつきちゃんに好きだと言ったことも知られているだろうし、呼び出されてこうやってのこのことやってきたのも知っているということだ。
さつきちゃんは、僕の返事も聞かないうちに、児童公園の向かい側にある、手入れの行き届いた清潔そうな家に向かって歩いていく。僕は慌ててついて行った。
さつきちゃんは、その家のドアを開けると、ただいま、と言った。その声を聞いて、家の奥から、さつきちゃんのお母さんと、そのまた後ろから、おばあちゃんが玄関に出てきた。 お母さんは、高校生の親とは思えないほど若く見える、さつきちゃんによく似た、かわいらしいお母さんだった。おばあちゃんは、顔が似ている訳ではないのだが、やはりかわいらしい雰囲気は、さつきちゃんのおばあちゃんなんだな、と感じた。
「こんばんは」僕は、思わずそれだけしか言えなかった。自分の名前も素性も何も言えず、ひと言こんばんはと言ったきり、黙ってしまった。僕の代わりに、さつきちゃんが続ける。
「同じクラスの小田くん。かおるくん、わたしのおばあちゃんとお母さん」
いきなりおばあちゃんとお母さんの前で、'かおるくん'と呼ばれ、とても恥ずかしかった。僕はもう一度、何の芸もなく、こんばんは、と頭を下げた。




