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月影浴1 おつきさま  作者: @naka-motoo
19/70

第19話 はじまりは今(その19)

「あの・・・小田くん、晩ごはんはもう食べた?」

予想しなかった質問なので、却って考える間もなく、反射で答えてしまう。

「うん、さっき食べ終わったところ」

お母さんは、完全に作業の手を止めて、僕の背後で電話のやりとりを聞き漏らすまいとしている気配が伝わってくる。僕は、段々と声が小さくなっていく。そんな僕の電話口の様子を日向さんは知る由もないだろうが、更に予想もしない質問が続く。

「じゃあ、もし、時間があればなんだけれど・・・わたしの家の近くで少し話したいんだけれど、どうかな・・・?」

「え・・・今から?」

「呼び出すなんて失礼だとは思うけど、できれば話したくて・・・雨は多分降ってこないと思うけれど・・・」

僕の背後に立つお母さんの顔が険しくなっているだろうと僕は感じ、どうしようかと迷い始める。けれど、今行かなかったら後悔するだろうなと強く感じたので、

「うん、行く・・・・場所はどの辺なの?」 僕は普通の声で答えた。

僕たちのクラスの連絡網の表には個人情報の関係もあるのだろうが、電話番号しか記載されておらず、日向さんの家の住所を僕は知らない。ちなみに、連絡網の表に携帯電話でなく固定電話の番号が記載されているのは、僕と日向さんの他は2~3人くらいしかいない。 僕も日向さんも携帯電話を持っていない希少種だ。

「駅の北口の親水公園の駐車場の場所、分かる?」

「うん、電車通りから公園に向かって左に曲がって行ったところだよね」

「その駐車場の向かい側に、小さな児童公園がまた別にあって。わたしの家はその児童公園の斜め向かいのところ」

「うん」

「その児童公園のところで、わたし待ってるから・・・・」

「うん、じゃあ、今から自転車で行くよ。多分10分か15分くらいで行けると思う」

「うん、じゃあ、待ってるね」

僕は、電話を切ると、お母さんに頼んだ。

「ちょっと、出かけてきたいんだけど」

お母さんは明らかに警戒した顔をしている。僕のところに電話をかけてくる女の子なんて、今までいなかったので。

「もう、夜だよ。それに、今の電話の女の子に会いに行くんでしょ?私はあまりそういうのは好きじゃないよ」

お母さんの反応で普通だと思う。僕は日向さんが電話をかけてくれた時点でとても意外な感じがしたし、その上、理由はともかく、僕に「来てくれ」と言ったのだ。なんで明日学校で会った時ではなく、今でなくてはならないのかも、はっきり言って分からない。ただ、日向さんにしてみれば、僕が昨日の夕方、日向さんのことが好きだと言ったことの方が、意外で、それに対してどう反応・行動すればよいか、とことん悩んだことだろう。その上で、日向さんは、今、来て欲しいと言ったのだから、僕がその通りにすることは、むしろ礼儀だろう。僕はお母さんに、もう一度頼んだ。

「今の子はすごく真面目で、僕が頼み事をしてたのを気にして電話してくれたんだよ。僕の方からその子に迷惑をかけたことだから、こちらから出向くのが礼儀だと思うから。」

「・・・話し終わったら、すぐに帰ってくるんだよ」

お母さんは、僕が、‘話をしに行く’ことを、電話の内容から聞き取っていたようだ。玄関に向かい、外に停めてある自転車を僕はこぎだした。立ちこぎで、300m程一気にこぎ、それからサドルに腰を下ろしてからそのままのスピードで駅の北口へ向かうガード下を潜り抜けた。本当は日向さんのところに着くまでに色々考えたかったのだけれど、10分かからずに行ってしまいそうだ。日向さんの家が意外と自分の家から近いことも何だか少し嬉しい感じはする。

親水公園の交差点を左に曲がって少し走ると駐車場が見え、確かにその向かいに、大きな親水公園とは別の、小さな児童公園があった。ブランコやシーソーや小さなベンチがあるその小さな公園の電灯の下に日向さんが立っているのが見えた。僕は、日向さんの近くまで行き、少し手前のところで自転車を下りてそのまま押して歩いた。日向さんの表情は、電灯から離れたところからはよく分からない。本当に日向さんの至近距離まで歩いたところで、初めて日向さんが、恥ずかしそうにほほ笑んでいることが分かった。日向さんは、僕に声をかけてきた。

「ごめんね、来てもらって」

僕は、こんばんは、とできるだけ普通の声で挨拶した後、自転車のハンドルを持って押してきたそのままの状態で、日向さんの次の言葉を待っていた。

「そこのベンチ、乾いてるから、座って話してもいい?」

地面は昨日の土砂降りと梅雨の湿度のせいか、湿り気を帯びてところどころ小さな水たまりもあった。だが、ベンチの板は乾いてしまっている。ベンチの横にはやはり電灯が立っており、その電灯の灯りが、ベンチだけを照らしているような感じだった。日向さんはベンチに向かって歩き出した。僕も自転車を押してベンチの方に行き、ベンチの横で自転車のスタンドを下ろしてそこに停めた。日向さんと僕はベンチに並んで座った。


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