第14話 はじまりは今(その14)
「小田くんも図書館で勉強してたの?」
こちらから何か言おうと考えている間に、日向さんの方から更に声をかけられた。
「うん」
たった一言答えて、また言葉が出てこない。
「すごい土砂降りだね」
「うん、自転車で来たから帰れなくて」
ようやく、複数の単語を並べて答えることができた。
「わたしも自転車で来たから。どうしようかなって」
2人で同時に土砂降りの雨に視線を向け、空を見上げた。
僕は、何だかこうして2人で並んで立っているのが不思議で仕方なかった。とにかく何か喋らないといけないと思うけれども、どうにも言葉が出てこない。頭をフル回転させて考えるが、気が利いた言葉が出ない。
「小田くんはどうする?雨が止むまで待つ?」
本当はこんな天気の話なんかをするより、もっと日向さんと話したいことがいっぱいあるのにともどかしくなる。以前、サイン会で旭屋で会って以来、学校で会釈は交わしていたけれども、話をすることは、授業や何かで用事があるときの二言三言ぐらいしかなかった。
「うん、仕方ないから雨が弱まるまで待つつもり。」
「わたしも。それまでここで話してようか。」
僕は、雨がしばらく収まらなければいいと思った。こんな機会がこの先訪れるかどうか分からない。僕は、気合を入れて、自分の方から話題を振ることにした。
「日向さんは、何の勉強をしてたの?」
「英語の課題。でも、お昼過ぎに終わらせてから、ずっと本を読んでたよ」
「何の本?」
ここまでは順調に会話が続いている。
「小説だけど、軽い感じの本だよ。」
「前、サイン会で、「猫もけ」にサイン貰ってたよね」
僕は、日向さんがその時のことをどの程度意識して覚えているのかは微妙だと思ったが、話を何とか膨らませようと自分なりに精一杯のことを言ったつもりだ。
「うん、わたし、猫もけがすごく好きで。本当は犬ちりを買ってサインして貰えばいいのかもしれないけれど、文庫本よりもお金がかかるから」