第10話 はじまりは今(その10)
朝、古い木造のおばあちゃんの家の前を通り、神社でお参りをし、学校に行き、授業を受け、日向さんの姿を見、部活をし、家に帰り、予習をし、テレビを観、音楽を聞き、小説を読み、疲れて寝る。こういう毎日を、僕はしばらく続けた。日向さんの誕生日があるはずの5月は過ぎ、6月になっていた。そろそろじっとりする湿度の高さと、その反面、肌寒さがある毎日だ。僕は、少し背が伸びたようだ。お母さんの背を越したのは中学2年生の時だったが、高校1年の今は、お父さんの背をそろそろ追い越しそうだ。もっとも、お父さんはあまり背が高い方ではないので、僕自身もそんなに背が高い訳ではない。クラスの男子では真ん中ら辺だ。
あの旭屋で日向さん達3人組と会った日以来、僕と日向さんは、会釈を交わすようになった。にこっと会釈する日向さんに、僕は真面目な顔で会釈を返す。会釈は交わすけれども、言葉は交わさない。それでも僕にしてみたらここ1か月で急速な進化だと思っている。
もともと、僕は女子と話をすることがほとんど無かった。何かクラスの用事があるとか、相手が話しかけてきて、やむを得ず返事をしなくてはならいない時だけ、しゃべった。挨拶を交わすこともなかった。これは中学生の時からそうだ。
僕は日向さんが自分に笑いかけてくれるのは、義理の付き合いだったとしても、別に構わないと半ば割り切っている。それでもし、日向さんが僕に笑いかけてくれなかったとしても、僕は日向さんの笑顔を自分で別途追うだろう。
今日も朝から曇りと雨の繰り返しになっている。今日は部活は練習スペースと天候の関係でお休みだと先輩方が言っていた。授業が終わったら旭屋に寄ろうと思っている。