ある冬の日
何度でも言いますが、どなたでも読めるよう書いています。
不安な方は回れ右をお願いします。
「ゲホゲホッ……」
夜中。
抑えるような咳が聞こえ、俺は目を覚ました。
「大丈夫か?」
重たい瞼をこすりながら掠れた声を出すと、弟はゆっくりと赤い顔を向けた。
「お兄ちゃん…ごめんなさい、起こしちゃって」
「いや別に構わん」
話す合間にもゲホゲホと咳き込む弟。
俺は咳の度に激しく揺れる頼りない背中をさすった。
学校で担任に、弟が熱を出し保健室に行ったと聞いたのは、今日のお昼。
別のクラスだった俺は、一緒に生まれた魂の片割れに会いに保健室へ即向かった。
保健室で布団にくるまれ苦し気に咳き込む弟。
ベッドを囲むカーテンを開け名前を呼ぶと、弟は涙で潤んだ目を向けた。
『……ッ!?』
俺は言葉を失った。
出てきたのは空気とも取れる息だけだった。
俺と同じ顔には、見るも悲惨な赤黒い痣があった。
弟は俺を暗い瞳で見つめ、何も言わずに再び咳き込みだした。
俺はひとまずカーテンを閉め、傍らで俺らの様子を見ていた養護教諭に話を聞いた。
生まれつき俺より弱い双子の弟。
風邪を引いて寝込み学校を休むことは日常茶飯事。
風邪を引くと食欲が一気に減るため慢性的に胃が細い弟は、
体調が良い時でも多くの食事を摂ることが出来なくて、
同じ親から生まれてきた双子のはずなのに、俺とは全く背丈も体重も違った。
同じなのは顔だけ。
幼い時に両親を亡くした俺らは、親戚の家に現在住んでいた。
しかしその親戚は仕事が忙しく滅多に帰ってこない。
必然的に弟が風邪を引いた時は俺が同じよう学校を休み、看病していた。
物心つく前から一緒に居た、大事な弟。
いつだって俺の後ろで震えていた俺より一回り小さな弟。
唯一残った、大事な大事な、血の繋がった家族。
それが弟だった。
それなのに俺は、養護教諭から聞くまで知らなかった。
よく学校を欠席するのに容量が良く器用で、勉強の出来る弟が
クラスメイトから悪質ないじめに合っていたことを。
体調が良くなり学校に来る度に、『何故来たんだ』と罵られ
多くの人の前で殴られたり蹴られたりなどの暴行を受け、
『兄に伝えたらお前を殺す』などと脅迫されていた事実を、
俺は初めて知った。
『以前わたしが校内を回っていた時、授業中にも関わらず、廊下でうずくまっている彼を見つけたの。
声をかけたら、顔や手足に痣を作っていて、そこで初めて知ったわ。
お兄さんがいることは知っていたから言うように言ったんだけど、あなたには知られたくないって』
養護教諭は溜息交じりに俺に弟の現実を教えてくれた。
「ゲホゲホッ…おにいちゃ…」
「どうした?」
か細い声で俺を呼ぶ弟。
俺は出来る限り優しく声をかけた。
「怖かったの…ずっとずっと……」
弟は俺にしがみついた。
俺はぎゅっと弟を抱きしめた。
遠く離れていても近くにいてもわかる、大事な魂の片割れのぬくもり。
激しく咳き込みながら弟は俺に抱きつき、わんわんと大粒の涙を流した。
「お願いだよお兄ちゃん…僕の傍にいてよ…一緒にいてよぉ…」
「もちろんだ…一緒にいるに決まってる。
わかってるんだろ?俺らは双子だ。
離れる運命なんて最初から存在しねぇよ」
「お願い…一緒にいて……大好き」
そっと弟は俺の唇を塞いだ。
驚いたもののそれはほんの一瞬。
俺はそれを黙って受け止めた。
「俺も、大好きだ」
好きだ。
好きだ。
俺はお前が、大好きだ。
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2016年4月17日
米本城初音