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灰色の群

作者: 椿ことり。

「残酷だよね、この世界は」


悪友はそう言った。

長い黒髪は雨に濡れていて、日に当たれば少しは乾くだろうに―――――――、彼女はそこを動こうとはしない。


「残酷って思えばそうなるかもね」


私はそう返した。

生憎、彼女を慰めるような言葉を持ち合わせていなかったのである。

悪友は、そうかもね、と苦々しく笑った。

それ以降彼女は口を開こうとしなかった。彼女の視線を一心に浴びる、灰色の石には名前が刻まれていて、ああもう終わったんだなと今更ながら感じられる。

ふと私は視線を少し上げた。

無数の悲しみ、無数の後悔。

目の前の灰色の石の群は淡々と広がっていて。ここはその一つに過ぎない。

たったひとつ、されどひとつ。

その“たった”ひとつが悪友を苦しめる。

悪友に目を移す。

彼女はまだ顔をあげようとはしなかった。

風が吹いた。雨が横なぶりになる。殴るように、隠すように。

悪友はひとつ身震いとした。雨に消されてしまった線香は悲しげに、だが、懸命に2人で立っている。


「泣いたら?」


そう言おうとして―――――――、やめた。


「上で待ってる」


こくりと悪友は小さな子供の様に頷いたのだろうか。私は、それさえ見ずにくるりと向きを変えたから分からない。彼女の表情も行動も何もかも。

灰色の群の中を歩く、歩く。灰色から逃げるように。

階段を一気に駆け上がって、やっとそこで後ろを振り返った。

やはり景色はほとんど変わらない。

くらいくらい、灰色の群。石の冷たい雰囲気も変わらない。

冷たい、暗い、悲しい、悔しい、負のイメージが湧き出てくる。


「あ」


目を奪われた。

白色の花。淡い色のそれは決して目立つ色ではなかったが、灰色の群の中でひときわ輝いて見えた。

ここは悲しい場所。無数の悲しみ、無数の後悔が広がる場所。

そして、もうひとつ。少しの希望がもてる場所かもしれない。

空を見ると白い雲が夕日の色を吸収して淡い色に染まっている。黒々とした雨雲はどこかに流されてしまったらしい。


「悪友!」


下をもう一回見ると、黒髪の少女が駆けてきた。


ああ、ここからもういちど何かが始まればいい。

私は悪友に手を振りかえした。

読んでくださってありがとうございました。

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