もたれた胃に揚げ物を
質感のある雲の隙間から、月の光が差し込んでいた。
「なんか、いけないことしてるみたいで楽しいね」
「何歳だよ」
「いてっ」
小突かれた。
「あ、満月」
その声につられて、視線を上げた。
隠れたり出てきたり、そんな月が見えた。
「ほんとだ」
「月の形ってさ、普段意識しないけど、目にはいったときに、満月だったり、きれいな形だったときなんか嬉しいよね」
「そうだな」
風は吹いていない。
停滞した、雑草の死体の匂いがした。
「そういや、なに買うの」
「夜食」
「そう。俺も明日の飯買っとこうかな」
そこから会話はなかった。
夜は、感情の時間。
それも、恥ずかしいほどの。
きっと、嫌なことを全部飲み干して、消化できずに胃に残ったままで、そのまま一生を過ごしていくんだ。
吐くことも出来ずに。
ずっともたれたまま、少し気持ち悪いと思いながら人生を送るんだ。
コンビニに着いて。
それぞれ離れて、各々買った。
「…なに食ってんの」
「にくふぁん」
「…そうですか」
「兄ちゃんは?」
「これ」
ビニール袋を広げて、見せた。
「ほーん」
それだけいった。
「ねぇ、パーティーしよ」
「は?」
「明日休みだし」
「パーティー…?」
そういえば、袋が大きい。
「…なに買ったんだ?」
「帰ってからね~」
家に着くまで、はぐらかされていた。
「ただいま~」
「…で?」
リビングの机に、袋からお酒とつまみを出した。
「…なるほど」
「長期休暇だからって会いに来たのに特になにもしてなかったからさ。近況報告でもしようよ」
「酒を飲みながら?」
「そう」
まぁ、いいか。
「かんぱーい」
缶と缶がぶつかる音がして、即興で飲み会が始まった。
「じゃ、私から」
「まて、お前もしかして、愚痴聞いてもらいたいだけか?」
「あははっ。さすが兄ちゃん、よくわかってるね~」
そういって、一口。
俺も一口。
「聞いてよっ!彼氏が浮気してたの!」
「ぶふっ!またかよ!」
別れ話はこれで三回目だ。
「もう…なんか、あれよね。私が悪い気がしてきたよね」
「見る目がねぇのか、致命的ななにかがあるのか」
思わず笑いながら言った。
「笑いながら言うな万年非モテ」
「違うね。付き合う気がないだけだね」
「言い訳言い訳」
「三連敗よりいいだろ」
「いやいや、不戦敗のが駄目でしょ」
「まてまて、まずエントリーしてないんだよ」
「人である時点でエントリーは済んでるんだよ。もしかして、人外だったの…?!」
「ひどい言われようだ」
「もうさー。なんかもう、なんかだよ」
「まぁ、いつかはいいやつが引っ掛かるって」
「無責任な発言しやがって童貞が」
「おい!関係ないだろ!」
「…ん?」
スマホだ。
友達から連絡が来ている。
「どしたの」
「…今から家行っていいかってさ」
「友達?」
「そう。たまに遊びにくるんだ、唐突に」
「いいじゃん。呼ぼうよ」
「わかった」
今妹と飲み会してる。
来てもいいが、何か持ち込んでこい。
そう送った。
「数十分後に来るな」
「二、三十分?」
「そう」
「…あれ、もしかして女?」
「そうだったらよかったな…」
「あぁ、無自覚に攻撃してしまった」
軽口を言い合っていたら、あっという間に時間は過ぎていった。
ピンポーン
「お」
立ち上がって、玄関に向かう。
誰が来るかはわかっていたから、鍵穴も覗かず扉を開けた。
「来た…な?」
あれ、なんか三人見えるな。
「よっす」
「おい、なんか多いぞ」
男二、女一。
「みんなで飯食いに行ってたんだよ」
「俺の家は二次会会場か?」
「そう」
「そうじゃねぇ」
とりあえず家に入れる。
「え、なんか多いんだけど」
「お邪魔しまーす」
「兄ちゃん、みんな知り合い?」
「そう」
「はい、これ差し入れな」
すごい量の酒と、茶色い揚げ物がたくさん。
「まて、待ってくれ。掃除がめんどくさい」
「大丈夫、誰も吐いたりしないって」
「今のところ打率九割越えてんだよ!」
「いいじゃん、そんなの。とりあえず飲もうよ」
「おい女、お前が一番やばいんだ、自重しろ」
「はい主語でかい炎上ね」
「兄ちゃん、見損なったよ」
「なんでお前も敵なの?」
必死の制止も虚しく、始まってしまった。
「カンパーイ!」
そこからはもう、正直覚えていない。
ただ、これだけは言える。
夜は感情の時間だ。
恥ずかしいくらいの。
読んでくれてありがっとう、ありがっとう。




