『テンプレざまぁを書いてみたい作者と、悪役令嬢たちの座談会兼相談会』
この短編は、「テンプレざまぁを書いてみたい」と思ってしまった作者が、元・悪役令嬢たちに相談する話です。
ざまぁは強い。分かりやすい。気持ちいい。だから流行る。そこに異論はありません。
それでも、書く側に立つと引っかかる瞬間があります。
誰かを落とすことで整う正義。多数の視線があることで成立する安心。読者の「見たい」が、登場人物の人生を道具にしてしまう感覚。
私は、ざまぁそのものを否定したくありません。
欲しい人がいるのは当然で、物語は現実では回収できない感情を回収する場所でもあるからです。
ただ同時に、「ざまぁを書けば楽になる」という誘惑が、書き手の中に生まれるのも事実です。そこで書き手が何を捨て、何を守るのか。ここを曖昧にしたまま突っ込むのが一番怖い。
だから、相談会にしました。
断罪を正した者、怒りをぶつけた者、静かに去った者、そもそも悪役ではなかった者。彼女たちに「テンプレの強さ」と「副作用」を、同じ机の上に置いてもらう。作者は司会ではなく当事者として、逃げ場のない質問を受ける。
この座談会は、結論を出しません。
出すのは、輪郭だけです。
ざまぁは誰のためのものか。どこまでが物語の罰で、どこからが書き手の暴力か。分かりやすさと誠実さは両立するのか。
読後に、すっきりしないかもしれません。
でも、その“すっきりしなさ”が残るなら、相談会としては成功だと思っています。
テンプレに触れるからこそ、テンプレの外側が見える。そんな一度きりの実験として、読んでいただけたら幸いです。
『テンプレざまぁを書いてみたい作者と、悪役令嬢たちの座談会兼相談会』
ここは、どこの王国にも属さない。
玉座も聖堂も、断罪の鐘もない。あるのは長い机と、椅子がいくつか。窓の外には、色のない空が広がっている。時間が薄く引き伸ばされたような場所で、「悪役令嬢」と呼ばれた者たちが集められていた。
私は机の端に座り、ペンを一本だけ置いた。進行表も台本もない。けれど今日は、司会としてではなく、相談者としてここにいる。
「今日は、相談があります」
そう口にした瞬間、視線が揃った。
正確に言えば、四つの違う質の視線が、同じ場所に落ちた。
背筋を真っ直ぐにしている令嬢は、いつも通り整然としている。言葉も手続きも、彼女は乱さない。
椅子の背に少しだけ体を預けた令嬢は、余裕の顔をしている。余裕というより、傷が乾いた顔だ。
紅茶のカップを指先で軽く回している令嬢は、静かで、あらゆる言葉をゆっくりと飲み込む。
そして、派手さはないのに目だけが鋭い令嬢がいる。彼女は「そもそも悪役ではなかった」と言い切った人だ。
「私、テンプレざまぁを書いてみたいんです」
言った瞬間、場がほんの少しだけ揺れた。
笑いが零れたわけではない。ただ、空気の重心が変わった。
背筋の令嬢が最初に口を開く。
「“書いてみたい”というのは、実験でしょうか。それとも必要に迫られて?」
私は、正直に答えるのがここでの礼儀だと思った。
「両方です。需要があるのは分かっています。強いのも分かっています。書けば届く層が増えるのも、たぶん」
椅子に預けた令嬢が、肩をすくめた。
「つまりランキングが気になる、と」
私は笑わずに頷いた。ここで照れたり取り繕ったりすると、相談会が壊れる。
「気になります。気になるのに、気にならないふりをするのが一番良くない気がして」
紅茶の令嬢が、カップを置いた。音はしなかったが、置いたという事実だけが場を整える。
「それで、何が怖いんですか」
怖い。
その言葉は、私の中にあったものを、外に引きずり出した。
「ざまぁを書くと、楽になる気がするんです。読者の欲しいところに一直線に行ける。けれど、その“楽”が怖い。自分が浅くなる気がして」
目の鋭い令嬢が、少しだけ眉を上げた。
「浅くなる、の意味が二つありますね。あなた自身が浅くなるのか。作品が浅くなるのか」
「両方です」
背筋の令嬢が、静かに頷いた。
「では整理しましょう。テンプレざまぁには、要素があります。要素が分かれば、怖さの正体も見えます」
その言葉に、私はペンを取った。
相談会の空気は、こういう時に一番よく回る。
背筋の令嬢が、淡々と項目を置く。
「まず前提。悪役令嬢が断罪される。次に転。証拠提示、逆転、婚約破棄の再編、あるいは処分。最後に結。相手の失脚、追放、破滅、または公開謝罪。これが骨格です」
椅子に預けた令嬢が、鼻で笑うように言った。
「骨格だけだと味がないわ。テンプレって、骨格をなぞるだけじゃ足りない。気持ちいい瞬間が必要」
「気持ちいい瞬間とは」
私が問い返すと、彼女は指を一本立てた。
「相手が自分で自分を否定する瞬間。
“正しい私”が崩れる瞬間。
王太子が、聖女が、取り巻きが、口をそろえて言うのよ。『そんなはずはない』って。
その次に、自分の言葉が自分を刺す」
紅茶の令嬢が少しだけ視線を落とす。
「公開の場、ですよね」
「そう。みんなが見てる。そこが大事」
背筋の令嬢が補足するように言った。
「つまり“公開性”は快感装置です。多数の目があることで、正義が形を持つ。読者はそれを安心として消費する」
目の鋭い令嬢が、言葉を切るように挟む。
「安心、という言い方は正確ですね。ざまぁは“分かりやすさ”の提供だから。悪が罰される。被害者が救われる。世界が整う。その分かりやすさが欲しい人がいる」
私はペンを止めた。
ここからが相談の核心だ。
「それを、私はどう書けばいいでしょう。分かりやすさは必要だと分かっています。でも私は、悪役令嬢を“ざまぁ要員”にしたくない。悪役令嬢を書くのに、悪役令嬢を使い捨てにしたくない」
椅子に預けた令嬢が、ふっと息を吐く。
「あなた、優しいね。優しいって、武器にもなるけど、足枷にもなる」
「優しさを捨てろ、という話ではありません」
背筋の令嬢が言う。言葉が正確すぎて、逆に救いになる。
「テンプレを守る必要はありません。テンプレの“効く部分”だけを抽出して、あなたの倫理に合わせて構築すれば良い」
紅茶の令嬢が、小さく頷く。
「相談会なんだから、具体に落としましょう。どこまでやると“やりすぎ”か。どこからが“物語としての罰”なのか。あなたはそこが怖い」
私は、ペン先で机を一度だけ軽く叩いた。自分の中の曖昧さを、言葉に変換するための動作だった。
「そうです。たとえば相手を破滅させる。家が潰れる。死ぬ。そこまでやると、私は怖い。読者は喜ぶかもしれない。でも私は、書いた後に自分が嫌いになりそうで」
目の鋭い令嬢が、静かに言う。
「じゃあ、破滅させない。落としどころを変える。ざまぁは“破滅”だけじゃない」
椅子に預けた令嬢が笑う。けれど笑いは軽くない。
「そうそう。ざまぁって、相手を殺すことじゃない。相手が自分の嘘を抱えて生きることもざまぁよ。
それが苦しいって分かってるなら、なおさら」
背筋の令嬢が頷く。
「処分の段階を“適正化”すれば良い。過剰な罰ではなく、相応の罰。社会的信用の剥落、地位の喪失、責任の引き受け。そこまでなら秩序の回復として読めます」
紅茶の令嬢が、言葉を選ぶように続けた。
「読者が欲しいのは、だいたい二つです。
一つは“被害が回収される”こと。もう一つは“嘘が通用しなくなる”こと。
破滅が欲しい人もいます。でも、必須ではありません」
私は、ほんの少し肩の力が抜けるのを感じた。
ざまぁを“破滅の別名”だと思い込んでいたのかもしれない。
「では、テンプレざまぁの“必須”は何ですか」
目の鋭い令嬢が即答する。
「謝罪でも土下座でもない。『世界が、あなたの言葉を信じる瞬間』です」
その一言が、机の上に落ちて、音もなく響いた。
「あなたが反論しても、悪役の言い訳に変換される。だから私は記録を残した。でもざまぁを書くなら、記録だけでは足りない。
読者に見せる必要がある。世界が『悪役』というラベルを剥がす瞬間が」
背筋の令嬢が、その考えを制度に落とし込む。
「つまり、証明手段です。証拠、証言、契約、記録。あるいは魔法的な真実の水晶。あなたが嫌なら、魔法に頼らず、人的証言と客観資料にすれば良い。
重要なのは、“公平な場”が用意されることです」
椅子に預けた令嬢が、少しだけ口元を尖らせた。
「公平って、嘘くさいけどね。王宮なんて最初から偏ってる」
「だからこそ、舞台装置として“公平に見える場”が必要です」
背筋の令嬢が淡々と返す。
「読者が安心できるだけの形式。それがテンプレの力です」
紅茶の令嬢が、机の端にある私のペンを見た。
「あなたは“ざまぁを書かない作者”でいた。問いを置く側だった。今回は、書く側に降りる。降りるなら、あなた自身が損をしない設計が必要です」
「損」
「書いた後に自分が嫌いになることです」
私は息を吐いた。
その通りだった。
「じゃあ、相談」
椅子に預けた令嬢が、指を二本立てた。
「テンプレざまぁを書くなら、守るルールを二つ決めなさい。
一つ。あなたが納得できない罰は描かない。
二つ。主人公の勝利を“相手の死”で終わらせない」
「二つ目は、なぜ」
「死なせると楽なの。責任が終わるから。
でもあなたは、責任を終わらせたくない人でしょ。終わらせたら、書いた意味がなくなる」
言い当てられて、私は苦笑した。
この令嬢は、傷が乾いた顔をしている。乾いた傷は、的確に刺さる。
目の鋭い令嬢が続ける。
「それと、あなたが“テンプレを書けない理由”を、作品の中に残したらいい。
書いているのに、書けない部分がある。そこが作者の個性になる」
「テンプレの中に、テンプレを書けない私を入れる?」
「そう。あなたが本当に書きたいのは、ざまぁそのものじゃない。ざまぁが欲しい人の気持ちと、ざまぁを怖がる気持ちの両方。その摩擦」
背筋の令嬢が、少しだけ柔らかい声で言った。
「つまり“テンプレ通りにやる”という宣言が、最初から完全なテンプレではない。そこがあなたの入口です」
私は、机の上のメモに一行書いた。
『テンプレ通り=完全ではない』
それだけで、道が少し見える。
「では逆に、読者が離れる“地雷”は何ですか」
紅茶の令嬢が、静かに言う。
「説明しすぎること。説教になること。
“私はこう思う”を語りすぎると、読者は置いていかれます」
目の鋭い令嬢が頷く。
「あなたの強みは、問いを投げることです。結論を言わないこと。
テンプレざまぁを書く時も、同じです。
正義を断言しない。真実が示されるだけ。裁きは制度がする。主人公は制度に戻るだけ。
そうすれば読者は“ざまぁ”として消費でき、あなたはあなたでいられる」
背筋の令嬢が、筆記具のように淡々とまとめる。
「整理します。あなた用のテンプレざまぁはこうです。
一、誤解と断罪が起きる。
二、主人公は叫ばず、準備する。
三、公平に見える場で真実が示される。
四、相手は嘘が通用しなくなる。
五、処分は過剰でなく適正。
六、主人公は“戻る”。勝つのではなく、戻る」
椅子に預けた令嬢が、そこに雑味を足す。
「で、その中に一個だけ、めちゃくちゃ気持ちいい瞬間を入れなさい。
相手が『あなたが悪役じゃない』って言わざるを得なくなる瞬間。
あれは、効く」
私は、ペンを握り直した。
相談は、相談の形で私を前に押している。
「……書けそうです」
そう言った時、自分の声が少しだけ軽くなっているのに気づいた。
怖さが消えたわけではない。けれど怖さに名前が付いた。名前が付くと、扱える。
紅茶の令嬢が、ふと呟く。
「で、作品タイトルは?」
私は一瞬、固まった。
相談内容は構成や倫理や落としどころばかりで、タイトルのことを考えていなかった。
「まだ……決めていません」
椅子に預けた令嬢が、信じられないものを見る顔をした。
「決めてないの? テンプレ書くのに?」
背筋の令嬢も、少しだけ驚いたように目を瞬かせた。
「タイトルは入口です。入口を決めずに設計を詰めていたのですか」
「入口が怖かったんです」
私は正直に言った。
「入口を決めた瞬間、後戻りできない気がして」
目の鋭い令嬢が、淡々と告げる。
「じゃあ、私たちが決めます」
「え」
「相談会なんだから。相談の範囲です」
その言い方が、あまりに当然だったので、私は反論できなかった。
背筋の令嬢が、条件を置く。
「テンプレざまぁのタイトルは、読者に情報を渡す必要があります。
断罪、悪役令嬢、ざまぁ。これは入れたい。
そしてあなたは“テンプレに挑む作者”としての立場も含めたい。ならば、“してみる”“やってみる”のような未確定語が有効です」
椅子に預けた令嬢が、楽しそうに指を折る。
「あと“聖女”と“王太子”も入れたい。分かりやすい」
紅茶の令嬢が、静かにブレーキをかける。
「長くしすぎると、あなたの文芸寄りの読者が離れます。テンプレ読者に寄せすぎると、今の読者も離れる。なら、境界線に立つタイトルがいい」
目の鋭い令嬢が、結論めいた一言を置く。
「つまり、“テンプレ通り”と言いながら、どこかで距離を取っているタイトル。あなたの正直さが出るやつ」
机の上に、いくつかの案が並んだ。
口に出された瞬間、文字の形が見える。私はペンを持ったまま、それらを受け止める。
婚約破棄と断罪を前面に出す案。
聖女と王太子を名指しする案。
静かな手続きで詰める案。
逆に“テンプレ”という単語を堂々と出す案。
その中で、紅茶の令嬢がぽつりと言った。
「あなたが一番怖がっているのは、“成功を約束する言い方”でしょう。だから成功を約束しない言い方がいい。
テンプレ通りにやる、と言っておきながら、結果は保証しない。
やってみる。してみる。そこに逃げ道がある」
目の鋭い令嬢が、静かに頷いた。
「逃げ道じゃない。誠実さです。
やってみる、の先であなたが何を書くかは、まだ決まっていない。
だからこそ読者は見に来る」
背筋の令嬢が、最終案を口にした。
それは、あまりに自然に、最初からそこにあったかのように落ちた。
『断罪された悪役令嬢ですが、
テンプレ通りにざまぁしてみることにしました』
椅子に預けた令嬢が、即座に笑った。
「いいじゃない。逃げてないし、でも断言してない」
紅茶の令嬢が、静かに頷いた。
「これなら、前作を読んでいる人も、読んでいない人も入れる。あなたが“やってみる”と言っているから」
目の鋭い令嬢が、一歩だけ踏み込むように言う。
「ただし。タイトルに責任を持つのはあなた。でも――監修は付けられます」
「監修?」
「元悪役令嬢会」
椅子に預けた令嬢が、あっさりと言った。
「私たちが決めたんだから、付けていいでしょ」
背筋の令嬢も、少しだけ口元を緩めた。
「監修があると、読者は安心します。皮肉としても機能しますし、座談会の存在も示せる」
紅茶の令嬢が、最後の一押しをする。
「あなたが一人で背負う顔をしないためにも、いいと思います。
“私がやりました”じゃなくて、
“彼女たちに背中を押されました”になる」
私は、笑いそうになった。笑っていいのか分からなくて、笑いを飲み込んだ。
代わりに、ペンを走らせた。
机の上のメモ帳に、決まったばかりのタイトルを書き留める。
一行目が長く、二行目に折り返す。
そして、その下に、少し迷ってから線を引き、付け足した。
『断罪された悪役令嬢ですが、
テンプレ通りにざまぁしてみることにしました』
─監修 元悪役令嬢会
書き終えた瞬間、言葉が現実になった気がした。
これで入口ができた。入口ができたなら、もう引き返せない。
「……責任、重くないですか?」
私がそう言うと、椅子に預けた令嬢が笑った。笑いは軽いが、嘲りではない。
「書くのはあなたでしょ。こっちは監修。監修って便利なのよ」
背筋の令嬢が淡々と追い打ちをかける。
「ただし監修には意味があります。少なくともあなたは、悪役令嬢を使い捨てる書き方をしない。そういう前提が、タイトルに含まれた」
紅茶の令嬢が、窓の外を一度だけ見てから言った。
「あなたが“テンプレをやってみる”のなら、私たちは“あなたが戻れる場所”も用意しておきます。書いた後に自分が嫌いにならないように」
目の鋭い令嬢が、最後に問いを置く。
「ひとつだけ。
あなたは、そのテンプレざまぁで、誰を救いたいんですか」
私は、すぐには答えられなかった。
救いたい、と言うと大げさになる気がした。けれど、答えなければならない問いだった。
「……私です」
口に出した瞬間、自分でも少し驚いた。
けれどそれは嘘ではなかった。
「書けないと思っていたものを書いてみることで、私が私に戻れる。
それができたら、読者も自分の場所に戻れるかもしれない。
ざまぁが欲しい人も、ざまぁが怖い人も、どちらも」
誰も笑わなかった。
その沈黙が、承認だった。
背筋の令嬢が、静かに言った。
「では、書きなさい。適正に。過剰なく。嘘が通用しなくなる瞬間を、あなたの言葉で」
椅子に預けた令嬢が、肩をすくめる。
「やるなら、ちゃんと気持ちよくね。読者のためにも、自分のためにも」
紅茶の令嬢が、短く息を吐いた。
「戻るためのざまぁ。いいじゃないですか」
目の鋭い令嬢が、こちらを見る。
「テンプレ通り、という宣言は、時々一番不自由です。
でも不自由を引き受けた人だけが、自由の形を知る。
あなたがそれを知るなら、私は見たい」
私はペンを置いた。
紙の上にはタイトルがある。監修の文字がある。
その上に、まだ何も書かれていない本文が、白く広がっている。
白は怖い。けれど同時に、何にでもなれる。
「分かりました」
言った声は、今度は逃げていなかった。
試してみる、と言った。
その言葉の中に、覚悟と、未熟さと、希望が一緒に入っている。
こうして、テンプレざまぁの物語は、作者ではなく、悪役令嬢たちによって名付けられた。
あとは、書くことでしか確かめられない。
私は、白いページの上に、最初の一文を置く準備をする。
彼女たちは、誰も勝者にも敗者にもならない顔で、ただこちらを見守っていた。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
座談会であり相談会でもある、少し変な形の短編でした。
最初に言ってしまうと、この話は「テンプレざまぁを否定する」ために書いたものではありません。むしろ逆で、テンプレざまぁの強さを、ちゃんと認めたかった。認めた上で、その強さが“書き手にとって何を要求するのか”を、逃げずに見たかったのだと思います。
ざまぁは便利です。便利すぎる、という言い方もできます。
分かりやすさを与え、読者の感情に区切りを付け、物語を一気に終点へ運ぶ。だからこそ、書く側が「これでいい」と思ってしまう瞬間がある。楽になる、という誘惑がある。
今回の作者が怖がっていたのは、たぶんその一点でした。
「楽」そのものは悪ではありません。
問題は、その楽さの裏で、誰が何を負担しているのかが見えなくなることです。悪役令嬢という役割が、都合のいい札として消費されること。相手を落とすことでしか成立しない快感に、書き手が慣れてしまうこと。
そのあたりの“手触り”を、説教ではなく会話の形で出したくて、相談会にしました。
そして、最後に決まったタイトル。
『断罪された悪役令嬢ですが、テンプレ通りにざまぁしてみることにしました』─監修 元悪役令嬢会
あれは冗談のようで、わりと本気です。
テンプレをやるなら、当事者に背中を押されてやる。書き手が一人で「正義」を背負わない。そういう逃げ道……ではなく、安全装置として置きたかった。
この座談会は、結論を出しません。
出した瞬間に、それは“作者の正しさ”になってしまうからです。
代わりに、問いだけを残します。
ざまぁは誰のためのものか。
分かりやすさと誠実さは両立するのか。
そして、書き手は何を守りたいのか。
もし読み終えたあと、何かが少しだけ引っかかったなら、たぶんそれで十分です。
物語がすべてを解決しないことも、時には物語の役目だと思っています。
最後までお付き合い、本当にありがとうございました。




