縛られた過去と解けない尾 3
紫のウェーブロングが風になびく。
その先にある、冷たい紫の瞳。
リールが口元を歪め、真紅のリップを吊り上げる。
「ほんと、見違えたわね。⋯⋯まさか“前に出る”ような女になるとは」
その言葉には、かつての“見下し”が混じっていた。
だがフィリアは、もう目を逸らさなかった。
「見違えたのは、あんたの方よ。⋯⋯昔よりずっと、みっともない」
その一言に、リールの眉がピクリと動く。
「言ってくれるじゃない。⋯⋯“あの頃の私”に戻してやろうか?」
紫の魔力が渦を巻く。
周囲の空気が凍りついたように感じられた。
「――させるかよ」
その声と同時に、火花が舞う。
レイが前に出て、リールの詠唱を遮るように魔導具を構えた。
「見た目は綺麗だけど、中身は地獄ってやつだな。⋯⋯うわ、こっわ」
「軽口叩くな⋯⋯坊や」
「いや、俺もう成人してるから!」
と、その隙を狙ってヴァルが大剣を振るった。
紺色の短髪が揺れ、茶色の瞳がぎらつく。
「フィリア! やっぱりお前、俺のこと――」
――ガッ
その刹那、ヴァルの体に何かが巻き付いた。
冷たい、強靭な力。
それは――エリオンの尾だった。
「話しかけるな。お前に向ける言葉は、一本もない」
低く静かな声が、空気を締め付けた。
「はっ、なんだよ⋯⋯お前、フィリアに取り入ってんのか? 化け物が!」
その瞬間、エリオンの目が細くなった。
黄色の蛇瞳。
縦に裂けた黒い瞳孔が、完全にヴァルを見据える。
「“取り入る”⋯⋯? 違うな」
尾が強く締まる。ヴァルの足元が軋む。
「⋯⋯“噛み付いた”んだ。だから、もう離さない」
フィリアがその言葉に、目を見開いた。
(今の⋯⋯)
ヴァルが苦しげに呻き、リールが叫ぶ。
「離しなさいよ!!」
放たれた魔弾が、フィリアに向かって飛ぶ――
それを庇ったのは、ジークの盾だった。
「おいおい、女相手でも手加減はしないぞ、リール」
「チッ、正義面しやがって⋯⋯!」
だが、もう優位は完全に崩れていた。
レイの火力、ジークの防御、リリィの結界、そして――
エリオンとフィリアの視線が重なった時、その力は決定的なものになる。
フィリアが短剣を構え、リールに言った。
「私ね⋯⋯ずっと怖かった。あんたに嫌われることも、また誰かを傷つけることも」
「はあ? だから何よ」
「でも今は――もう仮面なんて、いらない」
放たれた短剣がリールの袖を裂き、紫の魔力を逸らす。
その間に、エリオンがヴァルを地面に叩き伏せた。
ヴァルの目が見開かれた。
「っ⋯⋯フィリア⋯。」
「もう終わりよ」
そう告げる彼女の声は、静かで、そして強かった。
カルドが現れたのは、その直後だった。
ギルドの腕章をつけた数名の監視隊を従えて。
「⋯⋯お前ら、ザレムの規則を完全に踏み破ったな」
「ちっ⋯⋯!」
「よくもまあ、堂々とギルドバッジを捨ててまで暴れてくれたもんだ」
カルドの一声で、ヴァルとリールは拘束される。
遠ざかっていく背中を、フィリアは見送る。
(終わった――ちゃんと、自分の足で終わらせたんだ)
その肩に、そっと何かが触れた。
巻き付くように、静かに寄り添う感触。
エリオンの尾だった。
「⋯⋯よく、やったな」
その一言に、フィリアはそっと微笑んだ。
「うん⋯⋯ありがと。エリオンも、離れなかったから」
誰にも届かないような、でも確かに繋がっている言葉。
その尾が今、ようやく“守るため”だけに巻き付いた――そんな気がした。




