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「……でも、彼は誰も救えなかった。
しかも、八重花さんが……」
僕の言葉に、眞人くんは静かに首を振る。
「だからこそ、胡琶は絶望したんだ。
自分の選んだ『冷徹な正義』すらも、この街では誰かを救うどころか、誰かを傷つけるだけだったって。
3年前のあの日、諳さんを救えなかった無力さと、同じ様な、いや、もっと深い絶望を味わったんだよ」
眞人くんの言葉に、僕の心臓が激しく脈打つ。
望命くんが探偵という居場所を失うことの痛みが、自分自身の痛みのように感じられた。
憧れた職業、望んだ地で生きてきた彼にとって、その地や職業を失う事は、きっと
「……じゃあ、望命くんは……」
「探偵を辞めるって決めた。
もう、自分のやり方じゃ誰も救えないってな」
眞人くんの言葉に、僕は言葉を失う。
彼は、望命くんが探偵として、どれほどの覚悟で生きてきたかを知っている筈だ。
だって、眞人くんと望命くんは幼馴染だから。
親友だから、僕と違って、眞人くんは望命くんを、ずっと傍で支えてきたから……。
そのすべてを、望命くんはたった一度の失敗で手放そうとしている。
「違う……違うよ、眞人くん……」
僕は、震える手でカウンターに身を乗り出す。
「望命くんは間違ってない。
大衆に動いてもらうなんて、僕には怖くて考えられない。
でも、彼は僕とは違って、正しいことなら何でもやる勇気を持っていた。
僕は、そんな望命くんを『真の探偵』だって信じていたのに、望命くんが一番つらい時に何もできなかった……!」
僕が今やらなければならない事は自分の弱さと向き合う事だ。
そして、望命くんの正義が間違っていたのではなく、そんな彼を支えて上げられなかった自分に非があると僕自身を酷く責めた。
「だから、僕は行く。望命くんが、『俺には、まだ探偵としてできることがある』って思える場所を見つけに行く」
「どこに?」
「望命くんが、一番初めに絶望した場所―――」
僕は、眞人くんを真っ直ぐに見つめ、強く言い放った。
「延朴塔へ行くんだ」




