〈file6〉
―――翌日・PM.18:28、クレインサーベイ事務所内にて
「お久しぶりです、横綱教頭。
今日はお忙しいのに学校終わりに呼び出してしまって本当に申し訳ありません」
事務所の応接室に入ってきたのは、少し小太りで温和な顔をした男性だった。
彼の顔を見た瞬間、僕は懐かしさとともに、ある確信を抱いた。
彼こそが、僕らが帝小学校に通っていた頃にも教頭をやっていた、あの横綱教頭だ。
彼の穏やかな笑顔の奥に、教師としての葛藤が隠されていることを、僕は知っていた。
「いやいや、私もここに来れて嬉しいですよ。
それに、まさか3年ぶりに君たちに会えると思っていませんでした、胡琶くん、樹羅くん。
聞きましたよ、今も立派にプレベントの一員として働いているそうじゃないですか」
教頭先生の言葉に、望命くんは少し照れたように頭をかいた。隣の眞人くんは、すっかり素の自分に戻ってしまったためか、どこか居心地が悪そうだ。
「よ、横綱教頭も知ってるんですか……?
恥ずかしいなぁ……」
「No.は今も昔も変わらず最下位だけどな」
「もぅ、眞人。それは言うなよ……!」
教頭先生は、そんな二人のやり取りを見て優しく微笑んだ。
「それに榮倉くんにも会えるとは……いやぁ、嬉しい限りです。
それで、今日は尾上くんの事で相談、と言うことでしたが、例の八重花さんとの揉め事の件でしたね?」
「そうなんです。維蘭くん……尾上くんのキーホルダーが壊れてしまって……。
その件がすべて彼の所為で終わってしまった事がどうしても納得出来ないみたいで……。
どうにかなりませんかね?」
望命くんの言葉に、教頭先生はため息をついた。
「ふむ……。いや実を言うとね、私もその件についてはおかしいなとずっと思ってはいたのですが……一教頭が学校の決めた事に口を出すとやや面倒なことになってしまうので黙っていたんです。
……ですが、そうですよね。納得出来ませんよね」
望命くんは、横綱教頭の言葉に静かに耳を傾けていた。
そして、教頭先生がため息をついた瞬間、彼の口元がゆっくりと動く。
そこに浮かんだのは、勝利を確信したような、あるいは、すべてを諦めたような、不気味な笑みだった。
その笑みには、過去の事件で彼が感じた絶望が凝縮されているようで、僕は背筋が凍るのを感じた。
何処か闇を秘めていて、今までの彼とは違うような……不気味な笑顔……。
「そこで、提案があるんですが―――」




