〈file2〉
「お〜す、望命!元気ー?って……お前誰?
望命と眞人は?」
「あ、僕は榮倉瀬凪。
二人の幼馴染で今はクレインサーベイの手伝いに来ていたんだ」
玄関を開けると外から男の子が現れた。
切り揃えられた短い茶髪に、青いフード付きパーカーと、黒ベルトで止められたジーンズ。
僕よりも大きく元気な声で望命くんの名前が呼ばれるが、目の前にいる僕に違和感を抱き事務所内をキョロキョロと目を動かす。
僕が改めて事自己紹介をすれば、望命の幼馴染かと納得してくれたようで、僕が事務所内に招き入れる。
すると眞人くんが彼に声を掛けた。
「お、維蘭じゃねぇか。依頼か?
それとも学校サボってここまで来たか?」
「今日は土曜だぜ、学校は休み!サボってもねぇよ!
望命の様子見に来てやったんだ!」
「俺の?」
「おう!何か望命、ここ最近変だったじゃん。
妙に嬉しそうにしてたと思ったら急に落ち込んでたり……。
何かあったのか?」
名は尾上維蘭と言った。
ストン、と依頼人用の応接椅子に座った維蘭くんが自身の前に座って先程僕が淹れたコーヒーを飲む眞人くんの言葉に違う、と勢いよく否定した。
望命くんが変だった訳は容易に想像がつく。
眞人くんの記憶が本当に戻っているのか精密検査をする為に三日間入院した彼に会えなくなったからだ。
何故なら、望命くんにはプレベントの探偵と言う重要な仕事があるから。
急用の依頼でもあったのか、本部に提出しなければならない書類が溜まっていたからなのか……、それは僕にはわからない。
首をかしげる維蘭くんに望命くんはじゃあ、と言葉を綴った。
「維蘭くん。眞人、変だと思わない?」
「?眞人が変……あぁー!
そうだ眞人お前、あの下手くそな関西弁どうしたんだよ!
後あの妙に高いテンションも!」
首を傾げていた維蘭くんも望命くんの言葉にハッとしたのか、先程眞人くんの言葉を否定した時の勢いとは比べ物にならない程大きな声で眞人くんの変わった所を捲し立てるようにして述べた。
そんな維蘭くんに負けない程の声で眞人くんが失敬だな、と張り上げていった。
「誰が下手だ!元々、俺はこっちが素だっつの。
教室の端っこで本とか読んでる陰キャ、それが俺」
「?意味わかんねぇ。じゃあ今までその陰キャ隠してたのか?」
「……ま、そう言う事だ」
維蘭くんの言葉を正さなかった眞人くんに違和感を覚えながらも、僕はその場の光景を見る事しか出来なかった。
用事が終わったならこの後はどうするのかと望命くんが尋ねれば、彼はう〜ん、と唸りながら手を組んで見せた。
チラチラと望命くんを見やりながら。
彼は事務所に入ってきた時からこうして挙動不審な面があった。
明るく元気な口調とは裏腹に何処か望命くん、いや探偵を警戒している様な素振り。
別に僕には関係ないし、あったとしても、維蘭くんが直接言わないのであれば、深く追求する事は避けたほうがいい。
応接椅子に座った眞人くん、その前に座った維蘭くん。
そして維蘭くんの隣に座る望命くんと冬李さん。
少し悩んだ末、維蘭くんはその場から立ち上がり、用事は終わったし帰るわと持ってきたリュックを両手に抱えて玄関へ向かうと、彼を制する声が僕らの後ろから聞こえてきた。
「まぁ、待て。維蘭、今日は休みなんだろ?
ならもう少し位ここにいとけよ」
「な、何でだよ……?依頼人とか来るんじゃねぇのか?」
「家の事務所は大抵暇なんだ。それはお前も知ってるだろ?
―――それに、お前の〝依頼〟まだ聞いてないしな」




