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「ひ〜まぁぁぁ〜!」
僕の男にしては高い特徴的な声がクレインサーベイの事務所内に響き渡る。
晴天の空、白い雲、そして涼しい事務所。
そう、僕は今、望命くん達の事務所にいる。
事の発端は、昨日。
店長と麗羽が遠方の依頼に一週間出掛ける事になった所から。
本当は僕も二人に着いていく予定だったのだが、最近萬街ではカフェに金銭を盗みに来る窃盗犯が続出している為に、僕がお店を任された。
任されたとは言っても店長も麗羽もいない間、コルリスは締め、望命くん達の事務所にお邪魔しているのだ。
まぁ、彼らの部屋を管理しているのも店長だから、そんな店長がいなくなれば望命くん達は部屋に入れなくなる。
それは事務所に寝泊まりすることが多い望命くんでもさすがに困るので、僕が店長からスペアキーを預かっている。
一週間何もせず閉店中のコルリスにいても、刺激も楽しみもなく退屈で退屈で仕方がないので、冬李さんに許可を得て、僕はクレインサーベイに来ていた。
「瀬凪くん、静かにして。ここ一応俺たちの事務所だから」
「でも瀬凪くんの気持ちもわかる。
なぁ胡琶、ここって本当に俺達の探偵事務所だよな?
図書館とかじゃないよな?」
「眞人まで……」
僕と眞人くんのグチに対応していた望命くんからため息が溢れた時、冬李さんが僕のいるクレインサーベイのキッチンへとやって来た。
それぞれのモチーフが描かれてある三つのマグカップを持って……。
「まぁまぁ、望命。瀬凪くん、コーヒーのおかわりを貰えるかな?
私と望命と、眞人の分。砂糖とミルクは……」
「冬李さんと望命くんはストレート。
眞人くんはミルクガムシロどちらも多め、ですよね?
すぐ淹れます」
「助かるよ」
冬李さんから三人それぞれのマグカップを受け取って、一つ一つにコーヒーメーカーに備えられた透明なガラスポットに入ってあるコーヒーを注ぐ。
今作ったコーヒーではないのでもう冷めてはいるが、アイスでも飲める季節ではあるのでわざわざレンジで温めず氷を入れてこのまま出すとしよう。
眞人くんのモチーフである木々が小さく描かれているマグカップにはガムシロップ四つとミルクを少々いれた。
眞人くんは僕と同じく苦い物が苦手なので、いつも彼のコーヒーにはガムシロップを置くのでは無く、事前に入れているのだ。
クレインサーベイのキッチンにある電子レンジの上に置かれてある木で出来たトレーに乗せてみんなのいる応接室へと運んで行った。
「はい、三人のコーヒー。
もう冷めちゃってたからアイスにしたよ」
「ありがとう、瀬凪くん」
望命くんのお礼にどういたしましてと定型文を返そうと声を出すと、これまた図った様に事務所の扉が誰かに叩かれた。
探偵事務所に来る人なんて限られる。
依頼人か、瑠依ちゃんか、あるいは……。
そう考え、取り敢えず出てみようとその音にはーい、と声で応えてみせる。




