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「………」
「この状況で〝裁き〟を続けられるわけっ……!」
「いいよ、瀬凪くん。結鶴さんが望むなら続けます。
まだ謎は残っているから」
そう言って望命くんが語り始めたのは動機の話だ。
何故涼路さんを犯人に仕立て上げたいほど、結鶴さんは彼を憎み、恨んでいるのか。
ここで話は、七年前に遡る。
冷酷に言葉を紡ぐ望命くんに気を使う余裕は、この時の僕にはなかった。
何せ時間軸が話事に移動するので、僕も理解することで精一杯だったのだ。
七年前、このCRIMINAL CITYで起きたある女教師が飛び降り自殺した事件をご存知だろうか。
風原 渚。
七年前の当時、CRIMINAL CITY趣街に位置する四阿中学校で化学と地学、物理の授業を担当していたそうだ。
死因は確か、高所からの落下による内臓破裂。
現場は、四阿中学校の屋上の真下。
事件概要はこんな所か……。
所で、苗字を聞いて疑惑を抱いた人もいるだろう。
そう、七年前、四阿中学校で飛び降り自殺をした女教師はその当時、ちょうどその中学校に通っていた風原 諳の実姉なのだ。
そして、今僕らの目の前にいる結鶴さんの姉でもある。
「……理想の姉だったのだろう。
優しくて、お人好しで、でもおっちょこちょいな一面もあって、真摯に生徒と向き合ういい先生でもあった。
ところが……」
「自殺してしまったって?自殺に至る動機に心当たりは?」
「ないわ。ないに決まってる。
事件が起きる前日も、姉はいつも通り優しかった。
早くに両親を亡くした私と諳にとって、姉さんは母同然だったの。
なのにあの日……私が家で諳の帰りを待っていたら……!」
「電話が掛かってきた。病院から、お姉さんの死亡報告の電話が……」
家で帰りを待っていたら電話が掛かってきた……か。
慕っていた姉が、いつも優しくて暗い所を何一つ見せなかった姉が自殺。
そんなの、遺族にとっては胸が張り裂けそうなくらい辛くて、声が枯れるまで泣き叫ぶ位悔しくて、苦しい出来事だった筈だ。
自分を責めて、攻めて、責めて、最終的には絶望感と無力感に追い詰められる。
だが、この事件は自殺じゃない。
何故なら、そうでないと〝動機〟に関する話しが成立しないから。
となると、この事件を起こした犯人は……君島涼路で決まりだな。
実は事件当日、複数の生徒や教師が彼と、渚さんが二人きりで屋上に入っていく所を目撃していたらしい。
そして、そのまま渚さんは戻ってこなかった事も。
その証拠に、あの事件の前には付いてなかった傷が渚さんの靴と屋上に張り巡らせてある欄干に付着していた様だ。
大抵、その様な傷は相手に抵抗しなければ付着しない。
自分から落ちたのだとすれば、そんな傷がある事自体おかしくなってしまう。
「でも……っ、警察はまともに取り合ってくれなくて……プレベントの探偵だって、自殺ならそれで終わりだって……!」
もう一度立って力強く振り絞られた結鶴さんの言葉に、望命くんはその場に素早く土下座をかました。
「申し訳ありませんでした」




