〈file13〉
「ちょ、ちょっと待って……!
どうして私が諳を殺さなきゃいけないの……!?
涼路くんへの恨みって何……?
彼には頻繁に会ってないし……動機だって……!」
望命くんに指摘された結鶴さんは、急に声を荒らげて否定した。
そんな結鶴さんをまたも真剣な眼差しを向ける望命くんに、僕も声を掛けた。
「先程俺が「諳さんが誰かに刺された」と言うと、貴方はこう返しましたよね?
〝なら、諳は誰かに包丁で刺されて殺されたって事なの〟……と。
俺は、誰かに刺されたとしか言っていないし、俺達が現場に駆けつけてからは誰もあの場には近寄らせていない。
なのにどうして、彼を刺した凶器が包丁だとわかったんですか?」
「あ……そ、それは……通り魔と同じって言ったから、包丁なのかなって……。偶然……そう、偶然よ!
第一、証拠はあるの!?
私が諳を刺した証拠や、通り魔だって証拠は……!」
「ないです。今俺が話した話も、ただの仮説でしかありません。
けれどこの3年間、俺が仮説を裏付ける為に何もしてこなかったわけじゃない」
その言葉を聞いて、先程から冷や汗を垂れ流し続けていた結鶴さんがカウンター席から崩れ落ちた。
美しく保たれていた彼女の美顔は、一度破られると醜く腐ったリンゴの様になってしまう。
これが、望命くんの解決。
いや、本来の彼ならこんな解き方しないはずだ。
それは、望命くんを長年見続けてきた僕が保証できる。
誰かに対して言うわけではないけれど、彼はそんな人じゃない。
多分、彼は心のなかで結鶴さんに怒っているのだろう、苦しんでいるのだろう、哀しんでいるのだろう。
信じた人が、信じようとした人がまた自分を裏切ったことに。
そして、彼女が腐り果てる前に救えなかった自分自身にも炎を燃やす。
もう、この解決から彼も、結鶴さんも、眞人くんも、そして僕も逃れられない。
結鶴さんは床に座ったまま、深く深く息を吸った。
「ふっ、あはははははっ!
はぁ……胡琶くん、やっぱりすごいのね。
最下位でもさすがプレベントの探偵ってところかしら。
えぇ、そうよ。諳を殺したのも、涼路くんの彼女を殺したのも、今ここで眞人くんを殺そうと構えているのも、全て私」
「……眞人が見ちゃったんですね。
貴方が諳さんを刺した所を……だから記憶喪失にもなった……」
「そうなの。最初は見られてることに気付かなかった……。
けれど、胡琶くんから記憶喪失になったって聞いて、初めて気付いた。
だから今日ここで殺すつもりだったの。
さぁ、まだ謎解きは残っているんでしょう、続けて―――?」




