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「……どうして、胡琶くんはこの話しを今ここで、してくれたの?」
「……何でそんな事聞くんですか?」
「私にとっても、貴方にとってもこの事件は思い出したくない事件だったはずでしょう?
だから今ここで話した事に私は、何か意図がある様に思えたの」
結鶴さんの問いに沈黙を貫くかと思われた望命くんの声が、返される。
先程までと同じ、いつもの明るい彼の声じゃなく、穏やかで、優しくて、でも何処かで誰かを恨んでいるような、そんな声が……。
「……あの事件には最後まで謎が残っていました。
彼を、諳さんを殺した死因は何だったのか、と言うね」
「え、飛び降りじゃなかった?今望命くんが話してたじゃん」
僕が隣のカウンター席に座る望命くんに問いを投げかけると、彼はその真剣な眼差しを崩すことなく、また説明を始めた。
望命くんの説明をまとめるとこうだ。
諳さんの死因は、落下による内臓破裂ではなく、腹部大動脈の多量出血による物だった。
でも、あの時草木にぶつかったのは眞人くんだけで、彼の周辺には葉っぱや木の実が落ちていただけで、一つも枝やその欠片は落ちていなかった。
そして、その傷は深かった。
そうなると、諳さんの傷は誰かに刺された物によってできた物だと推測される。
なら、何に刺されたのか、誰が彼を刺したのか。
それが、この事件の一番最大の謎で、最高の鍵だ。
その謎を解くことが、望命くんの言うやり残したことなら……。
「もう解けたんだね、その謎」
「うん。
―――今ここで、3年間の悪夢を埋め合わせる。
さぁ、全ての謎を明らかにしよう―――」




