〈file9〉
善良な市民達は石を投げるべき相手を求めて、ネットを徘徊した。
君島 涼路の彼女が誰なのかも知らない通り魔に殺されたのでは浮かばれない。
だから、君島涼路と言う犯人を彼らは作り上げた。
その大衆の意見に則って、警察は彼を逮捕した。
そして、君島涼路が逮捕されてからは彼を庇う風原 諳がターゲットになった。
シンプルでわかりやすく、それでいて自分達に都合の良い物語を彼らはずっと求め続けている。
だけど、風原 諳は死んだ。
自分の手で、彼を殺したと言うのに大衆は焦っただろう。
君島涼路と言う犯人も、風原 諳と言う悪役も失ったのだから。
悪者は死んだ。
けれど、このままにしておくのは物語として曖昧なままだ。
だから、この事件のすべての罪をかぶせる相手を探した。
毎日毎日、ニュースをチェックして、そこまでして彼らはこの物語に相応しい悪役を求めたのだ。
そして、その悪役は簡単に見つかった―――。
「―――それが、眞人くん……?」
「そう。あの時、諳さんを守れなかった、助けられなかった眞人が今度は彼らのターゲットになった……。
でも、眞人はあの後一年間昏睡状態だったから知らないし、眞人が寝ている内に全部忘れられた!」
かくして、プレベントへのアンチどもが出来上がった。
彼ら……大衆にとってプレベントやクレインサーベイ、眞人くんは、通り魔による犯行だと見抜けなかった上に諳さんを助けられなかったこの世に不必要な存在だ。
あの事件について、悪はプレベント。
中でも事件に直接関与したクレインサーベイと言う事になった。
悪役は大きければ大きいほど、彼らにとっては都合の良い存在になる。
普通は石を投げれば投げるほど、罪悪感は膨らんで行く物だ。
けれど、悪役が大きいと罪悪感は感じられず、その意識が薄れてしまう。
だから最終的な悪役にプレベントの助手を選んだのだろう。
事件の後、一時期は批判の嵐だったそうだ。
クレインサーベイは四方八方から批判され、事務所から出られない日々が続いた。
なのに、5ヶ月で全てのことが忘れ去られてしまった。
君島涼路も、風原 諳も、樹羅眞人も、何もかも。
まだ、たった三年前の出来事なのに望命くん達以外誰も、何も覚えていない。




